宰相になりたいのですか?
この世界は日本の学校制度とは異なっている。
生徒が教室にいて教師がやって来る。のではない。かといって海外の教師のいる教室に生徒が行くパターンかと言うとそうでもない。そういう授業もあるにはあるが、基本は全員が移動する。生徒たちの拠点となる「自分の教室」というのも存在せず、朝登校すると、担任教師のいる教室に集まるのが決まりだ。
なので「一年二組」のようなクラス分けではなく、「一年スロウス組」のように年次と担任教師の名前がクラス名になっている。
ちなみに私は「一年カトレア組」。スロウス組はレオニールの所属するクラスである。
「…………」
「ノーマン様? どうかなさいました?」
ゼリニカが先に病室を後にした後、何かを言いかけて息を吸い込んで急に止まる音がしたので尋ねてみると、ノーマンが歯切れ悪く言う。
「いえ……アレイヤ嬢のことなので、すでに調べていたのかと思いまして」
「どういうことです?」
「以前嫌がらせを受けていた際に嫌がらせの起きた場所とその時その場にいた人物を把握しておられたと聞きましてね。それで嫌がらせの犯人がゼリニカ嬢ではなくアルフォン様だと見抜いたと」
「まぁ、嫌がらせを受けたからには誰から受けているのか調べますよ。さすがに今回は不意打ちでしたからね。調べていません」
「なるほど。そういうことであれば無理もありませんね」
調べておきます、と立ち上がる音がして顔を上げる。
「すみません。私の目が見えていればノーマン様にお手数おかけすることなんてないのに……」
「いいんですよ。こうやって何かに貢献できるのも楽しいですしね」
ノーマンは宰相の三男だ。
宰相は世襲制ではなくその時の王の采配によって選ばれる。宰相である父親を尊敬しているのはゲームのファンブックを読んで知っていた。
「ノーマン様は、宰相になりたいとお考えですか?」
少し前までアルフォンの側にいたノーマンだが、例の一件以降はレオニールの近い位置にいる。アルフォンとその友人たちはこぞって謹慎を言い渡されていたのにノーマンだけお咎めなしだったのは、その距離感にあった。宰相の真似事をしてアルフォンをたしなめていたのはノーマンだったことが周知されていたことも大きい。婚約者だったゼリニカではなく。
「……どうなんでしょうね。名誉ある仕事がしたいとは常々思っておりますが」
「将来の仕事のために今から行動できるって、中々できないものですよ。私なんて、将来何になりたいとかやりたいこととか、何も浮かんでないですから」
あるのは面倒事は避けたいくらい。
というか、何になれるのかの選択肢がどこかの貴族と結婚する以外に見つけられないのが問題。
貴族の問題、めんどくさい。
「光属性の方は色々面倒事が付きまとうでしょうから、望みを持つと絶望に繋がるかもしれませんね」
「え、今から将来を奪うの止めていただけますか?」
見えていないからって推しの姿で絶望の未来を示されたら私はどうすればいいのか分からなくなる。
未来の選択が狭められているあなたに比べたらまだ幸福なのでしょう、と不穏な言葉を残して、ノーマンは病室から去って行った。
私の未来がゲーム通りなら、選択肢を間違えなければハッピーエンドが確約されているはずだ。誰かと結ばれる前提ではあるけど。
さて、ノーマンの調査で犯人も特定されるはずだ。
あとは私の目が回復すれば元通り。
そして、クロードの容疑も晴れて至福の時間も戻ってくる。




