愛、そして形
ラヴとカティを見送りしばらくした頃。
洞窟の奥から爆発音が鳴り響く。
「なにごと!?」
「ラヴたちが向かったところですわ!」
痴話喧嘩か、それとも魔物に襲われたか。
正直どちらもあり得るので対応に困る。
そうして結局二人なら死ぬことはないだろうと一応武装はして身構えていたら、奥からずんずん音を立てて歩いてくるカティ。
「んーーーもーーー!!!」
「ど、どうしたの。カティ……?」
こんなに怒ったカティは初めて見たかもしれない。
耳まで真っ赤に染め上げてずしずし地団駄を踏むカティはいつも以上に幼げだ。
「カティ。ラヴ、どこ?」
「魔物の事後処理!!!」
「あぁ、魔物だったのね」
半分は魔物が現れて戦闘をしていたか。
そしてもう片方は痴情のもつれによって戦闘をしていたか。
どうやら幸いにも前者だったようだ。
「何故そんなに怒ってるんですの?」
「そ、それは……」
言えるはずもない。
欲望に負けてラヴの唇を奪おうとした挙げ句、既の所で魔物が現れ中断を余儀なくされたなんて。
咄嗟に応戦して怪我はしなかったものの戦闘後には既にそんな雰囲気はなく、強烈なお預けと消化不良をお見舞いされた。
自分がやろうとしていたことに罪悪感と嫌悪感を覚えるも、それでも体は火照ったままだ。
赤くなった顔を憤慨で紛らわし、切なくなった身体も魔物に当たることで何とか誤魔化した。
「見てみてみんなー、ウォーベアが冬眠してたー」
「うわっ」
この洞窟はウォーベアの寝所だったらしい。
以前襲ってきた個体の家族だろうか、それと同等規模の魔物を担いで洞窟の中から出てくるラヴ。
入り口の大きさからあまり大きな魔物は潜んでいなさそうだと踏んでいたが、どうやら別の入り口があったようだ。
「びっくりさせないでくださいまし!」
「大丈夫だよ。寄生虫は駆除したから」
「そう言う問題じゃありませんわ!」
この世界には即死魔法が多々存在する。
その中でも一番簡単な即死魔法は強い魔力を相手に浴びせるだけの魔法だ。
実際人を殺せるほどの力はなく、普通の魔人がやったところでウサギすら殺すことができない。
ローラやラヴのような魔力お化けが使ったのなら人も殺せるかもしれないが、それより普通に攻撃した方がずっと少ない消費で殺せるだろう。
しかしそんな魔法にも有効活用できる場面がある。
そう。寄生虫の駆除だ。
生物は生きている間無意識に魔力の結界を張っているらしく、魔力による即死魔法が通りにくいのはそのせいなのだとか。
それゆえ生きている間に即死魔法を浴びせても中の寄生虫は死なないが、死後に浴びせるとその結界が解けて中の細菌や寄生虫、周りのダニやノミなども一斉に駆除できるのだとか。
尤も細菌の場合はすぐに空気中から付着して増殖するのであまり意味ないのだが、寄生虫駆除としては魔王国で最も一般的に使われている手法だったりする。
「これの解体したら出発しましょうか」
「手分けした方が良さそう」
「まかせて」
ラヴ、ケイト、ローラのいつもの三人に加えて、このくらいは手伝っても良いだろうとノーマンが加わった。
ラヴも随分慣れてきたものの、まだまだ速度では他三人に劣る。
これが十数年の経験の差という物なのか、呼吸するように的確に切り刻む姿はもはや職人の域と言えるだろう。
皮を洞窟内に干し、バラバラに解体した肉と共にローラの魔法で凍結させる。
この気温なら一週間は確実に凍ったままだろう。
これを村に持っていくことはできないが、帰りに回収して王都に持ち帰ればそこそこの値段で売れそうだ。
「カティ。本当にもう良いんですの?」
「あー、うん。なんか吹っ切れちゃってさ」
そんな解体作業を眺めていながら、マリーとカティが会話に興じる。
種族は違えど立場は同じ。
真に対等な立場とも言える二人は、境遇が似ているからこそ共感できる場所は多い。
「いーんちょも、今更だけど、もう良いの?」
「今更過ぎますわ」
二人の影響力は一候補生が持って良い物ではない。
たった一人でも国を動かし兼ねないというのに、二人が関わってしまえば何が起きるか分からない。
だから予科生入学前に、二人は誓い合った。
『学校では、お互い距離を取った方が良いと思いますの』
『さんせー。ま、同じクラスになったらヨロシクね』
接触は最小限に。
それだというのに、ラヴが現れてからというもの、二人はラヴに振り回されてばかり。
「結局、子どもの気遣いなんて親には不要だったのかもしれませんわね」
「ね」
自分たちなりに悩んだ結果とは言え、考えたのは数ヶ月程度。
大人は二人が生まれたときから――いや、それよりももっと前からこうなることを想定していたのだ。
二人が無理に大人に合わせずとも、こうして予定調和に収まっていたのかもしれない。
「もっと早く気付けてたら良かったね」
「ふふ、それはどうかしら」
あの決断があったからこそ、ラヴに出会えた。
あの決断があったからこそ、ラヴを初めての友達として迎え入れられた。
それだけで決して無駄な行いではなかったのだと胸を張って言える。
「いーんちょさ、ラヴっちのこと、好きでしょ」
「えぇ」
素直に認めるマリー。
そして、しかしと続けて言葉を紡ぐ。
「安心してくださいまし。貴女のような好意ではありませんわ。ラヴとは、し、親友ですから」
「ふーん?」
「な、なんですの?」
口元を押さえるも、ニヤニヤと笑っているのが見て取れる。
含んだ笑みの真意が分からず、マリーはなんだかくすぐったい気持ちになっていく。
「じゃあ、もしラヴっちとアタシが、ちゅ、ちゅー、とか? してみたら?」
「声が上擦ってますわよ」
「な、なってないし?」
自分で言って恥ずかしくなるとはカティも随分可愛くなったものだ。
「不純な交友はもちろん阻止しますわ」
「不純じゃないしー?」
「……」
「……」
ぷっとどちらからともなく笑い出し、二人は肩を並べて談笑する。
――嗚呼、友達だ。
二人の心は一つに、そして一人の少女へ感謝を捧げた。




