罪、そして罰
「う……ん……ラヴっち……?」
「カティ」
悲しげに顔を歪ませるラヴを見て、カティは事態を察する。
「幻滅した、っしょ」
「そんなことない。……悪いのは全部私だよ」
ラヴは今まで自分がやってきたことを打ち明けた。
気軽に結界を張ったこと。
主人なのにカティの異変に気付いてあげられなかったこと。
口に出せば出すほど最低なことだと自覚する。
「謝っても許されないことだけど……ごめんなさい。ごめんなさい……」
ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
自分が情けない。
カティを愛しているからこそ、愛されているからこそ、その気持ちを不意にしてしまった自分が許せない。
「ラヴっち……」
「ごめんなさいっ……」
「……アルジサマ、こっち見て?」
ラヴの頬に柔らかい感触が伝わる。
カティの手だ。
綺麗で可愛い、カティの手。
「アタシ、ずっとずっと不安だった。アルジサマに嫌われてたらどうしよう。愛想尽かされちゃったらどうしようって」
彼女を見ると、共に同じく泣いていた。
しかしそれはラヴのものとは違い、後悔から来るものではなく安心から来る涙だ。
涙を流して破顔する彼女は慈愛を以て微笑みかける女神のようで、その笑顔はラヴでさえ見とれてしまうほどだった。
「でも。でもね。違った。アルジサマは、アタシの大好きなアルジサマは、アタシのこと嫌いになんてなってなかった」
「カティ。私がカティのこと嫌いになるなんてありえないよ」
「……んにゅぅー」
言葉にならない嬉しさが全身を駆け巡り、カティは耳まで赤く染めて身もだえた。
ラヴの顔がすぐ目の前にあり、覆い被さるように覗かれているカティは彼女の顔以外は何も見えない。
視線をはずそうとしても瞳はずっとラヴに釘付けで、彼女の美しい瞳を、妖美な唇を、仄かに赤らむ頬を一瞬たりとも逃がそうとしない。
恥ずかしくて目をそらしたいのに、体が言うことを聞かなかった。
きれい。かわいい。うつくしい。
みていたい。さわりたい。ほしい。ほしい。ほしい。
自分の中に黒く濁った感情があるのをカティは自覚していた。
今まで必死に押さえてきたその欲望は、今ので完全に箍が外れてしまったようだ。
「カティ。お願いがあるの」
「な、なーに?」
いつまでも見つめ合いが続くと思っていたら、その均衡を崩したのはラヴだった。
お願い。
今ならラヴの言うことは何でも言うことを聞いてしまいそうだ。
あんなことでも、こんなことでも。
妄想に胸を膨らませ、鼓動が跳ね上がるのが良く分かる。
――え、えっちなこと、でも……って!
一体何を考えているんだ。
――アタシたちはそんな関係じゃないもん!
自分で勝手に想像し、自分で勝手に憤慨しているカティ。
しかしラヴはそんなカティの内情などつゆ知らず、どんどん話を進めていく。
「私に罰を与えて欲しいの」
「ば、ばつ?」
「うん。何を言われても絶対やる。だから、ね……?」
薄いピンクに染められた唇がカティの愛欲を掻き立てる。
痛いくらいに激しく脈打つ心臓。
先ほどまで涙を流していた瞳は潤み輝き、物欲しげにカティを見つめているようだった
「ば、罰なんて……もう大丈夫だよ……」
「カティ」
ドキリ。
再び胸が脈打った。
「おねがい」
「ラ、ヴ……っ……」
絶対おかしい。
心も体も、まるで自分のものじゃないようだ。
ラヴのどこを見ても艶めかしく映り、脳裏にはお風呂場で見たラヴの裸が焼き付いて離れない。
その時は綺麗な肌だ。自分もそうなりたいと思っていただけなのに、今ではそれが誘われているようで、触れて欲しいと思われているようで、すぐにでも押し倒して滅茶苦茶にしたい気持ちでいっぱいだった。
「ら、ラヴっちっ……あ、あの、あのね。アタシ、いま、変なの……だから、いまは……」
「いいよ」
もう。言葉も出なかった。
「今なら、何されても……」
「っ!」
「きゃっ」
咄嗟に起き上がったのがいけなかったのだろうか。
自制心からラヴを止めたつもりが、体勢を崩してそのまま押し倒す形になってしまった。
先ほどとは真逆の体勢。
ラヴが下で、カティが上。
一切抵抗する素振りを見せようとしないラヴに、カティの中の濁った感情はますます膨れ上がっていく。
嬉しい。楽しい。傷つけたい。泣かせたい。犯したい。滅茶苦茶にしたい。
――ダメ! そんなのダメに決まってるよ!
――本当に? アルジサマのご命令だよ?
己が感情が語りかける。
その囁きは甘美で、優しく、扇情的だ。
――ラヴっちはそんなのを望んでるんじゃない!
――どうして? 何を言っても絶対やる。アルジサマが言ったんだよ?
「んっ……カティ……?」
「アルジサマ……そんな目で、見たら、アタシもうっ……」
「全部、受け入れるよ」
頭の中で、何かが途切れる音がした。
そうだ。
ラヴが誘ったんだ。
ラヴがイケないんだ。
――イケない子には、お仕置きしないと。
「アルジサマ。目、閉じて」
「んっ……」
目を閉じたからだろうか。
より一層欲望を掻き立てられるようになった唇が、心做しか少しばかり差し出された気がする。
「アタシ、もう、歯止め利かない……」
「ん……カティが思う罰、ちょうだい……」
顔を逸らされないように顎に手を添え、少しずつ、少しずつ顔を近付けていく。
ラヴの吐息が白霧となって霧散してゆき、そこに触れると僅かに残る熱とラヴの香りが鼻腔を刺激する。
あと数センチ。
あと数ミリ。
今、自分はどんな顔をしているのだろう。
カティは朧気な意識の中、そんなことを考える。
そうして互いの熱が感じられるほどに近付いて、二人の唇は――




