file.8-No.3
今回は早めに更新できました。
少し長めです!!
追記
累計PV千打突破しました!!読んで頂きありがとうございます!!
またお気に入り登録をして下さっているユーザー様は現在7名。ラッキーセブン!
これからも「bird servant」をよろしくお願いします。
冬にもなるとすぐに太陽は地面に隠れてしまう。時計の針が5時にまわると辺りは真っ暗で街灯がないと足元もおぼつかない。
ぎぃと軋んだ音を立てて扉が開いた。扉を開けたのは陣内である。
「もう帰られるんですか?」
「特に収獲はなかったからな、とんだ無駄足掴まされたぜ」
「う……、何かごめん」
「すぐに見つかったら警察なんかいらねぇよ。枢木が気にするこたねぇ」
枢木はしょぼくれているが、黒鴎はもう陣内の言葉に眉をひそめることもない。先ほどから観察している限り陣内の乱暴で嫌味な口調はただの癖のようなもので、特に意識していないようだ。そういう場合は聞き流すのが一番、何度も気に掛ける方が疲れる。
「邪魔したな」
「ケーキうまかったっス!!あと捜査ご協力ありがとうございました!!」
陣内は一言告げると扉の奥に消える。羽田は自分たちに敬礼を一度してから、陣内の後を追いかけ事務所を後にした。階段から「待って下さいよ先輩ー」とこだましていた。
羽田という若い刑事も当初の印象と違い、意外と礼儀正しいらしい。それに軽い口調や陣内の彼に対する行動で誤解を招きやすいが相当頭は良さそうである。
完全に彼らが外を出て行ったのを見計らっていたのか足音が聞こえなくなった途端、後片付けをしていた枢木は黒鴎に声をかけた。
「あんな受け答えしちまって、蘭さん大丈夫かな」
「ですから言ったでしょう。あなたが気にすることはありません。警察などに妙な痕跡を拾われたほうが悪いのですから」
「……黒鴎、本当に容赦ねぇのな」
「本当のことですから。それより片づけが終わったら今日の仕事は終了です。帰ってもいいですよ」
「マジでか!じゃあさこの残ったケーキ持ち帰ってもいいか!?」
「いいですよ」
「よっしゃあ!!」
枢木は急いで皿やティーカップを片づけ、残ったケーキを大事そうにラップで包む。ご機嫌なのか鼻歌まで歌っている。もう悩んでいたことは頭のどこかに行ってしまったようだ。明日になればまたうじうじすれかもしれないが、今日ほど唸ることもないだろう。
「んじゃ失礼しまーす!」
ケーキを片手に枢木は早足気味に事務所から出て行った。
枢木が駅の方面に駆け足で向かっていくのを、黒鴎は窓から見つめる。しばらくするとビルの隙間に入り込んで枢木の姿は見えなくなった。
「……」
完全に枢木を見送る頃には黒鴎の表情は厳しいものに変わっていた。ブラインドを閉めて外と中の景色を遮断する。
そして黒鴎の手は事務所の固定電話に伸びた。
***
場所は移り変わり、とあるそれなりに値を張るホテルの一室。
ふかふかのベットに、淡いオレンジの室内灯。その中を一人先ほどまでシャワーでも浴びていたのだろうか、女性がタオルで髪を拭きながら歩いていた。
「ふんふーん、ふふん♪ふふーん♪……あ、音程間違えた」
女性は鼻歌交じりにベットに座る。服装はキャミソールに黒のズボンとホテルに似つかわしくなく、随分ラフである。
髪から余分な水分がほどほどに取れた頃、携帯の着信音が主を呼び出した。女性は億劫そうに携帯を取り、着信相手を見ると小さく唸った。一度は悩むが結局通話ボタンを押す。
「……もしもし?」
「私です」
誰から解るだろうとばかりに、相手は一人称しか言わない。
またまた女性は唸る。
「えーっと……黒鴎さんでしょうか?」
「……蘭。あなた、こうよくもやってくれたものですね」
蘭の問いに全く答えていなう上、その語尾には少々どころかとてもとてもお怒りのご様子。受話器越しながらも女性は、蘭には冷や汗が流れてくる。
「だからごめんって言ってるでしょ!」
「失態を冒すならせめて周りをまきこまないで頂きたいものです。取り繕うにどれだけ労力を使ったことか……刑事を言いくるめるのは大変なんですよ」
「ちょ、ちょっと待った!何、刑事まで来たの!?」
「はい。まったく……さすがに銃刀法違反の件は隠しきれませんでしたが、それ以上の露見を防げたのは枢木君です。彼に感謝して下さい」
「あー……はい。心得ております……」
そう、以前の依頼では枢木に余分な情報は与えずに遂行した。枢木の中では拳銃と焼き芋を蘭に届けたことになっていたが、その裏でまさか他国の重要機密が関わっているとは思っていないだろう。それでは刑事も思ったような情報は引き出せず、大人しく引き下がるしかない。
要するに本人は意図せずとも、枢木は何も知らない「善意の第三者」となったわけである。ただし電話口の向こうにいる人物は性悪の悪の塊だ。
「では、この件はこれでおしまいということでいいのでしょうかね」
「警察側も手詰まりでしょう。依頼人が私たちの知らないところで下手を打たない限りこの要件が浮上することはないでしょう」
「じゃあ……」
「私の手を煩わせたことは決して許しませんよ。簡単に許されると思っているんですか?」
「……」
終わったことをネチネチ。だからモテないんだよ。
実際に言うと洒落にならない事態になるので、心の奥深くで思っておく。
「ただし……」
「ん?」
また何か言われると身構えていた矢先。急に話題が変わった。
一体何なのだろうと別の意味で待ち構えると、意外なものであった。
「あなたの仕事ぶり如何では、ですが」
少し笑みを含んだ子の物言い。蘭を試しているかのようにも取れる。
なるほど。ようするに自分のミスは別の手柄で無くせということか。蘭の口元に笑みが浮かぶ。
「OK。アンタを感心さしてやるわ」
「できるものなら」
黒鴎の返答に電話片手に立ち上がると、ベッドが重みが無くなったためふわりと元の厚さに戻った。
「黒鴎が調べてこいって言った子、結城美帆乃だっけ?一応あれが本名みたいね。すぐ見つかったわ」
「おや珍しい」
バックからファイルを取り出し、開く。
そこには調べたことがずらりと並んでいる。図らずとも人一人の人生分、読み込むには少し時間がかかる量である。
「結城美帆乃の今までの経歴は見る限り特に変わったことはないわよ。平凡なサラリーマンと専業主婦の間に生まれて、義務教育課程も普通に通って今は花の女子大学生。この情報は写真とかも一緒に今度直接あんたの店にまとめて投函しておくわ」
自分で言いつつ、蘭は納得がいかないことが多々あった。
黒鴎が直々に調べろと言った人物だ。何かあくどいことが出てくると思いきやそんなこともなし。拍子抜けをした気分である。
だが写真や経歴を眺めているうちにどことなく「違和感」を覚えたことも確かである。だがその「違和感」がどこからきているのがさっぱり分からない。正直手づまりだ。
「警察のデータベースは調べましたか」
黒鴎がことも何気にそんな提案をする。
蘭がさらに苦い顔になる。蘭がその方法が考えつかなかったわけがない。黒鴎もそれは分かっているはずなのだ、分かって言っているのだこの性悪男は。
「まだだけど……警察に目をつけられてる状態で調べろって?」
「はい」
間髪なく告げられる命令。小さく溜め息をつく。
蘭が嫌だと言ってもやれという言葉が返ってくるだけだろう。
「わかった。でもこればかりは期待はしないでね」
「勿論です。……それで蘭。成果がそれだけとは言いませんよね」
「まさか。私に限ってそんなことあるわけないでしょ」
ファイルを手にしたまま、ベッドに戻る。そしてファイル内の資料を一部取り出し、ベッドの上に広げた。置かれた紙は、照明で淡く黄色に光る。
「じゃあ黒鴎次いい?」
「ええ」
「あんたが調べて来いって要求してきたことだけど。それに該当する人物が1人だけいたわ。……っていうか、あんた一体どんな頭してんのよ」
「一般人の範囲ですが」
しれっと嘘を言うなと悪態をつきたかったが、収拾できなくなりそうなのでやめておく。
いつかこのエセ紳士の頭をかち割りたい。そしてきっと出てくるのはどろどろとした真っ黒なものだろうから、それに白のペンキでもぶっかけてやろう。
こう話している間にも、外の闇は濃くなった。
この回を書いている時、蘭さんの服装をどうしようという問題が勃発。
一応シャワー浴びて髪を乾かす前、という状態なので。
キャミ+おパンツ一丁、もしくはバスタオル一枚か……。
と本気で悩んだ挙句流石にお年頃の大人の女性の恰好としてはいかんだろうとキャミ+普通のスーツ系ズボンに落ち着きました。
読者様的には↑の二つの案の方がよかったのだろうか、未だに悩み中だったり。
次回予告。
黒鴎が蘭に調べて欲しいと言った、もう一人の人物とは……?




