file.8-No.2
およそ二週間ぶりです、旭日千冬です。
今回は進展しているようで進展していません。
外では体に寒さという攻撃を仕掛けていた北風は室内ではうるさく窓を叩く。だが男4人はそんなこと気にもかけていないようだ。
事務所の小さめの机を挟んで向かい合うソファ。窓に近いソファには黒鴎と枢木が腰掛け、反対側つまりは出入り口を背にするソファには職業警察の2人が座る。机の上にはティーカップにスティックシュガーとフレッシュが添えられたコーヒー4人分が並ぶ。先ほど名刺交換を済ませたばかりである、と言っても枢木はそんなもの作っていないので口頭ですました。
言葉使いが荒くすぐ手が出る中年男性の名は陣内巧、漢字だけで見るとややこしいが名前の読みは「たく」である。もう一人のやたらとくだけたというかチャラい若者刑事は羽田正輝、名前に似合わず一般作法も立場もまったく正しく輝いていないが仕方ない。
きちりと座った黒鴎が視界に陣内を据える。それを陣内は嫌そうながらも目線はそらさなかった。
「それで陣内さんはどういった御用件で」
「……何度も言ったと思うがな」
「そうでしたか?」
「またしらじく言いやがるな黒鴎の兄ちゃん」
「すんません。俺さっぱりわかりません」
枢木の宣言に今さらそれを言うかとばかりに陣内は眉をひそめた。そんな顔をされても困る。ここに陣内と羽田が来た理由は捜査というのは知っているが、何の捜査かはまったく伝えられていないのだ。知っているのは黒鴎だけである。
羽田がやれやれと説明を始める。
「捜査内容はちょ―機密事項なんで詳しくは言えないんスけど、実はある人物を追ってるところなんス」
「ある人物?」
「はい!一応写真があるんで……あれ?どこにしまったスかね……」
「そいつの足取りを追えば追うほど怪しげな場所か全然関係ない場所が浮かび上がったんだが、その一つがこのうさんくさいわけわからねぇ店だったってだけだ」
「あのー陣内のおっちゃん、仮にも働いてる俺の前でそう言うこと言わないで欲しいんだけど?」
「本当のことだろ。ま、そんなことは置いといてだ」
店をうさんくさくわけがわからない呼ばわりされた件はそんなこととして置きざり。黒鴎は少し不服そうだ。そうした顔にさせた陣内はそんなこと気づくこともなく呑気に胸ポケットをあさる。
そして取り出した一枚の写真を机の上に置いた。
「この女に見覚えは無いか」
あっと小さく枢木が声をあげる。
そこには女性が一人写っていた。上からのアングルを思うに防犯カメラから取り出したのだろう、ただあまり良い画質ではないのか大分粗い。しかし顔立ちはしっかりわかり、人相もはっきりと判別はできる。
「これ蘭さんじゃんか」
「……」
「え。何?」
枢木が写真の女性を蘭と認識した途端、陣内と羽田が顔を見合わせ確認をとるかのようにアイコンタクトをとった。訳が分からず枢木は隣の黒鴎の方に顔を向けるが、当の相手は全く見てもくれない。
一体何なんだ、と思ってもすぐには答えてもらえない状況であった。コーヒーから立ち上る湯気が時間が経ち、少し薄まった。
「ひと月ほど前にミタ化学株式会社薬品工場でこの女と会わなかったか」
「どこそれ」
「やっぱ場所名で言っても通じねぇか……工場つっても大分前に使われなくなって廃工場になっちまってる場所だ。港近くにあるだろ」
「港近くの廃工場………ああ!あそこか!そこなら行ったことある、そういやそこで蘭さんと初めて会った」
「まぁそこ立ち入り禁止区域っスけどね」
「……え?」
「あ、そうなんですか。はじめて知りました。勉強になりましたね枢木君」
「……ええー?」
何言ってるの黒鴎?その含み笑い絶対知ってただろー。てか俺普通に警察の前で入りましたって自首しちゃったけど。大丈夫なのかこれ。
「工場に入った、入ってねぇとかいう件はどうでもいい」
「いや俺が言うのもなんだけど、どうでもよくはないんじゃないかな」
「不法侵入ごときで締まってたら体がいくつあっても足りん」
「警察官とはあるまじきお言葉ですね」
「さすが陣内先輩!かっこいいっス!!」
本当にいいのかな―。でもいいって言ってるしな―。でも後々これで逮捕とかされないのかなー。そんな風に頭の中でぐるぐる葛藤していた枢木だったが。
次の陣内の言葉でそんなくだらない葛藤はすべて吹っ飛んだ。
「直球で聞くぞ。この工場でこの女と何をしていた」
「……え」
何をしていた。その問いの意味はつまり。枢木の額からどこからともなく汗が伝う。
はっきり言って一番触れてほしくない内容だった。いや、最初から聞かれることを予想していなかったわけではない。それでも聞かれたくはなかったのだ。
「枢木君」
枢木が言いどもっているのを見越していたのか。黒鴎がそう声をかける。
先ほどと同じように視線を横にやる。そして黒鴎も先ほどと同じように前を見たままで、自分の方には視線を向けていなかった。そうして淡々と口を開く。
「あの場であったことを包み隠さず正直に。見たままを話して下さい」
「え……。でもよ」
「いくら枢木君がそう言っていても、この様子では拒否はさせてもらえませんよ」
枢木が話すのを待っているのだろう。相変わらず陣内と羽田は自分たちを見据えている。つまり、逃げ道はない。
「何、別に取って食おうってんじゃねぇよ。俺たちはあの場で何があったかを知りたいだけだ」
「枢木君の証言で仮に彼女が不利益になるようなことがあっても枢木君のせいではありません、そう言うことをした彼女が悪い。一切遠慮することはありません」
「何でアンタが訊問するみたいな流れになってんスか?」
好き勝手言っている、枢木はそう思った。しかしここで押し問答をしていても無駄な抵抗だろう。おそらく嘘を言っても羽田や陣内はともかく、黒鴎には通じない気がする。
知らず知らずに枢木からため息が零れる。
「……わかった。ちゃんと話すよ」
時計も早く話せと言っているのか、音が鳴りそれが低く響いた。
刑事二人は喋り口調が難しいです。気を抜くと陣内はただのチンピラ、羽田はただのチャラ男になってしまいます(汗)
そして蘭さん登場!!(名前だけですが)
次回は前回以上に会話中心になりそうです。
お知らせ。
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