奇跡
そんな日々が一ヶ月続いた時だった。
「アリア、本当にすまない」
「どうしたんですか?」
「売れるものが無くなってしまった」
「え?」
イザベラの姿を見る。
兜も鎧もない。
彼女が持っていたお金も、宝飾品も売ってしまった。
あるのは剣の一本だけ。
これだけは売れないと持っていた。
「これではもうアリアに来てもらえないのでは思って。すまない」
「あ、謝らないでくださいよ! この一ヶ月間、凄く助かっていたんですから!」
「しかしもう」
「じゃ、じゃあ! 一緒にダンジョンを探索しませんか?」
「探索?」
「はい。元々、ダンジョンにお宝を探しに来たんですし、二人でやってみましょうよ!」
このアリアの提案でイザベラはダンジョン探索を始めることになる。
イザベラが魔物を倒し、アリアが落ちていた物を拾っては《復元》の魔法で売り物にしていった。
意外にもダンジョンはアリア以外に荒らす者がいなかったのか、金属製の物がよく落ちていたのだ。
そしてダンジョンの最奥。
二人がそこで発見したのはーー
「畑? ですかね?」
光の届かぬダンジョンの最奥。
ランタンで照らされたのは人の手が入っていたであろう乾いた土壌。
松明を持ったイザベラが壁の篝火に火を灯す。
「ああ。アリアの言う通り、ここは元は薬草園だったのかもしれない。枯れてはいるが、葉っぱに見覚えがある」
イザベラが手を伸ばす。
完全に水気がなくなり、ボロボロと薬草の葉が土壌に落ちていく。
「薬草ってなんですか?」
「ん? ああ。使ったことないかな? 傷を治すポーションや毒消役の原料になる葉だよ。そのままでも使えなくはないが、加工した方が効果が出る」
「じゃあお金になりますよね!」
「ま、まあ」
金の匂いにやる気を出すアリアにイザベラは苦笑してしまう。
早速、枯れた薬草に手を当てるアリア。
「《復元》」
魔法がかかるとみるみるうちに枯れていた薬草が生き生きとしていく。
「《復元》、《復元》、《復元》ーー」
三十分ほどかかっただろうか、薬草園一面に魔法をかけ終わると、過去にそうであったかのように、青々とした薬草畑が産まれでた。
今度はそれを根っこから収穫していく。
「大量大量♪」
「…………」
機嫌の良いアリア。
対してイザベラは黙々と何かを考えながら薬草を抜いていた。
そして全てを取り終わる頃にはひとつの考えが産まれる。
「なあ、アリア」
「はい〜?」
「《復元》の魔法を動物に使ったことはあるか?」
「え?」
イザベラに問われてアリアは今までの生活を思い出す。
「ないですね。死んだ動物は焼いて食べちゃってましたし、ネズミとか、魚とか」
「そ、そうか」
話を腰を折られてしまったようだったが、イザベラは続ける。
「もしだ。もし、動物にも《復元》の魔法が使えるなら、それは蘇生なのではないか?」
「蘇生? それって生き返らせることですよね?」
「ああ」
アリアの視線はイザベラに注がれる。
亡くなってしまい、スケルトンになった身体。
だけど枯れた植物のように全盛期まで戻せたらーー
「試してみましょう!」
「本当か?」
「はい! 今まで動物に魔法をかけるなんて考えてもみなかったです! 早速やってみましょう!」
アリアはイザベラの手を握る。
「《復元》」
そして魔法をかける。
ぽうっと優しい光。
するとみるみるうちにイザベラの身体がーー
「元に、戻りませんね」
ダメだった。
イザベラは骨のままだったのだ。
「すみませんでした」
「ああいや。謝らないでくれ。そう簡単にはいかないものだ」
肩を落とすアリアにイザベラは愛しそうに苦笑した。
「希望を見せてくれてありがとう。もしかしたらと思えただけでも嬉しかった」
「イザベラさん…………えっ?」
アリアの瞳がまんまるに開かれる。
「どうした?」
「イザベラさん! 右目が!」
アリアの指差す先。
イザベラは右目に触れる。
「うっ!?」
それは痛みだった。
死者になり、スケルトンになってしまってから感じられなかった久しい痛み。
剣を脱いて刃に自分の顔を映す。
「嘘、だろ?」
伽藍堂だったはずの穴に黒い瞳がまるで宝石のように嵌められていた。
「アリア、私の右目に瞳があるのか?」
「はいっ! 右目があります! 綺麗な黒目が!」
「まさか! そんなまさか!」
驚きと感動。
再生したばかりの右目から涙が溢れていく。
「ああっ! ああっ! どういうことだ! 奇跡はあったんだ!」
「良かったですね! イザベラさん!」
アリアももらい泣きをしてしまう。
「うぐっ」
アリアはイザベラの猛烈な肋骨のハグに押し潰されそうになる。
「ありがとう! ありがとう、アリア!」
「は、はいぃぃ〜」
アリアの地味な《復元》の魔法が奇跡を起こした瞬間だった。




