新しいダンジョン
翌朝。
日の出と共にアリアは目覚める。
今日はいつもより少し遠いダンジョンに行くためだ。
近くの井戸水で顔を洗い、早速出発する。
今までのダンジョンは歩いて十分ほどだったが、今度は一時間以上もかかってしまう。
だけどそれだけ町の住人は近づかないということだ。
ちょうどダンジョンの方向へと向かう荷馬車があったのでアリアは乗せてもらい、意外にもスムーズに到着した。
「さてと」
今度のダンジョンは森の中。
一度だけ遠出をして入り口を見つけたのだ。
アリアは護身用のナイフ以外は持たずに身一つで入っていく。
少しでも早く、多くお宝を見つけないと食事にありつけないからだ。
新しいダンジョンは期待していた通り、暮らしていた人々の遺品がぞろぞろ落ちていた。
昨日のような食事のためのナイフやフォーク、戦闘のための弓矢や剣も落ちていた。
アリアは拾えるだけ拾う。
そしてドンドン奥まで進んでいく。
そこでふと気付いたのだ。
あまりにも荒らされていない。
今までのダンジョンは放棄されて魔物や野獣の巣窟でボロボロだったが、遺品がしっかりと残っていて、中には《復元》の魔法を使わなくても綺麗なものまであった。
それはまるで誰かが守っているみたいだった。
そしてその正体がすぐに明らかになる。
(またスケルトン)
いつものように足音に警戒していたアリア。
予想通り魔物だった。
しかも相手は前回と同じスケルトン。
違いといえば装備がこっちの方が豪華だ。
(ここはあのスケルトンの棲家だったんだ。どおりで)
だが不思議なことにスケルトンはただ階段の段差を椅子のようにして座っているだけ。
今までアリアが見たスケルトンはダンジョンを徘徊して、こちらを見つけては襲ってくるのに。
そこでふと思った。
(もしかして、本物のご遺体?)
ダンジョンで亡くなった遺体の多くは魔物にやられて壁に寄りかかったり、地面に倒れている。
まるで生きているかのように椅子に座っている遺体をアリアは初めて見た。
(もしただのご遺体なら装備を剥ぎたい)
昨晩の食事はパン一個。
今朝は何も食べられていない。
何年もダンジョンに入って来て危険性は理解していたが、ここでアリアに欲が出てしまった。
ゆっくりとスケルトンか遺体か判別出来ないものに近付いていく。
スケルトンに効かないが、念のためにナイフも手にして。
「!?」
アリアは息を呑んだ。
あと数メートルというところでスケルトンが顔をあげたのだ。
すぐさま身体を反転して逃げる体勢になる。
「待ってくれ!」
「えっ!?」
アリアから思わずといった声が出た。
何度もスケルトンと遭遇したが、話しかけられたのは初めてだったのだ。
「あなた、喋れるの?」
「ああ。ああ! 喋れるぞ! 私には意識があるんだ!」
腕を広げてスケルトンはアリアに自分は敵意がないと示す。
だがしかし、腰には剣が差してある。
アリアはナイフを持ったまま逃げはしないが近付かない。
あくまでもすぐに逃げられる距離だ。
「警戒するのも分かる。私はイザベラだ。君の名前は?」
「……アリアだよ。ヒューマンのアリア」
この世界には人間族、土精族、森精族、獣人族が暮らしており、四種族合わせて人類と呼ばれている。
「私もヒューマンだ。ああ、いや。今は魔物のスケルトンだが、そこは信じてもらうしかない」
「い、一応は信じるよ。なんか必死そうだし」
アリアは少しずつだが、警戒心を落としていた。
本物のスケルトンなら腰の剣で追っかけてアリアを襲えば良いだけだし、それに彼女? 以外に魔物が居ないのも理由があるように感じていたからだ。
「ありがたい。数年ぶりの人類だったから嬉しくて」
イザベラが壁を見る。
そこには刃物で傷つけられたマーク。
無数にも思えるマークはもしかすると日にちなのかもしれない。
その狂いそうな数にアリアはゾッとしたが、イザベラを理解したいとも思い始めていた。
まず何を話そうかと考え込む。
そして素直に思ったことを口に出す。
「イザベラさんはどうしてここに?」
「……ああ。ここから離れた街で魔物の戦闘で傷ついてな。このダンジョンに逃げ込んだのだが、力尽きて死んでしまったんだ。気付けばこうしてスケルトンになっていたというわけだ」
「なるほど」
アリアはそう言うしかない。
嘘を吐かれていたとしても、アリアに嘘を見抜く術も勘もない。
「分かった。私はイザベラさんを信じるよ」
「そうか! 感謝する!」
「あはは! なんだか騎士様みたいな喋り方ですね!」
「いや、これでも騎士だったのだが……」
「すみませんでしたっ!」
これがアリアとスケルトンのイザベラの出会いだった。




