始まり
超大陸パンゲア。
かつて人類が繁栄を遂げた場所。
しかし、それも今は昔のこと。
百年前に現れたと言われる魔王によって、今では大陸の十分の一まで人類世界は追われてしまった。
だというのに、人類はその残りでさえも奪い合うように戦い生き続ける。
これはそんな失われ続ける世界で生きる少女とーー死者たちの話である。
あるダンジョンにて。
そもそもダンジョンはかつて人類、または魔物が防衛のために棲家にしていた場所である。
そのほとんどは廃棄され、野良の魔物が棲みつき、人類にとっては治安の悪い場所。
だが、一部の人類にとってはお宝の宝庫である。
「おっ! これなんだろう?」
少女は泥だらけの指でそれを目線の高さまで持ち上げる。
地面に無数に転がる小石でも、ダンジョンの壁の破片でもない石。
だが見たところは人工的に加工されただけの石。
「早速。《復元》」
両手で石を包むようにして、少女は呪文を唱える。
すると、手の中が光を放つ。
「復元完了。これは〜、ピアス、かな?」
掌から摘んだのは勾玉状の石。
石の種類は分からないが、宝飾品として加工されたものだった。
「安物そうだけど持って帰ろう」
少女はポケットに勾玉状の石を入れて上からポンポンと叩く。
そして少し進む。
(うへー。魔物いるよ)
ダンジョンを進んでいると少女以外の足音。
壁際に寄って観察すると、『スケルトン』だ。
それもただのスケルトンじゃない。
剣と兜を装備した強そうなやつ。
(だけど兜と剣は売れるしな〜。でも怖いし)
考えた末に、少女は諦めてダンジョンの別の道に向かう。
その際には白い石で壁にバツマーク。
こうしないと少女はダンジョンで迷ってしまう。
それから二時間以上。
少女は小さなダンジョンを何度もぐるりぐるり。
お宝になりそうなものを見つけては《復元》の魔法で価値を上昇させた。
こうすることで少しでも日銭を多くするのだ。
「今日はこのぐらいかな」
ポケットはまだまだ空きがある。
というかいつもより少なかった。
だけどその理由は分かっている。
このダンジョンを少女は何度も何度も繰り返し踏破していた。
そのため価値のありそうなものは取り尽くしていたのだ。
(そろそろ別の場所に潜らないとな〜。お金を稼げなくなっちゃう)
ダンジョンを出て少女は将来のことを考えた。
少女の名前はアリア。
まだ十六歳のトレジャーハンター。
といえば聞こえは良いが、実際は盗掘師。
毎日ダンジョンに潜ってはお宝を集めて売り払う仕事だ。
アリアの今日の成果は勾玉状の石と落ちていたナイフや皿だった。
これで夕食ぐらいにはありつけそうだ。
アリアは日が暮れる前に帰宅する。
帰宅場所は小さな町の、さらに汚れたスラム。
戦争で疲弊した人類世界では珍しくもない場所。
そのひとつが少女の居場所だった。
「おじさーん。今日も見てみて〜」
スラムで数少ない店舗。
そこの店主に声をかけるアリア。
「おっ、来たな」
店主はドワーフのおじさん。
ドワーフ特徴の蓄えられた口髭で笑う。
「今日はなんだ? 石ころとーー」
「石ころじゃないって! ピアス! 勾玉状の!」
「金物屋に石のピアスを持ってくるな」
残念ながら勾玉状の石は返品される。
「ほう。ナイフと皿は鉄か。ナイフも本数あるし良いだろう」
店主はエプロンのポケットに太い手を入れると、掴んだものをアリアに投げ渡す。
「ええ! これだけ!?」
渡されたのは銅貨が数枚。
これではパン一個だ。
「文句言うな。これだけじゃ夜間の一個も作れねえんだぞ? 十分だ。嫌なら返すか?」
「あ、ありがとう! それじゃあな!」
アリアは銅貨を掴んでスラムを出る。
この小さな町には唯一のパン屋があり、そこで食事を買うのが日課だった。
銅貨でパンを買い、アリアはスラムの自宅に戻る。
「ただいま〜」
そう言いながらも家には誰もいない。
アリアには両親も兄弟も居なかった。
産まれながらもスラム人。
まるで馬小屋のような場所で、本当の馬小屋から貰ってきた藁を敷き詰めたベット。
アリアにはそれしかない。
だけど他の子供は家も収入もないんだから、アリアは恵まれていた。
パンを食べて明日に備えてすぐに眠ってしまう。
そしてぎゅっと両手を絡める。
「今日もありがとう」
アリアの唯一の魔法《復元》。
この魔法がアリアを救ってくれていた。




