第3話いきなり遭難
第3話 いきなり遭難
(ここは…?)
(またしてもいきなり転生。さすがに慣れたとは言え、急に転生させられても困っちゃう)
今まで明るい部屋にいたせいで目が慣れない。それでもじっと辺りを見回して状況を確認する。
パチッパチッと何かが爆ぜる音。ザーザーと言う雨の音。その割には濡れた感じがしない。
ふとほの明るい部分があった。
ゆらゆらと焚き火が奥で睦まじく抱き合う2人の男女の顔に陰影を付けている。
(あ、レオンハルト王子、とリリア嬢。て事は、何度も見た遭難イベ!)
「これは、どう言う事ですか?」
三人だけなら多少の無理は出来る。二人に状況を確認すべくフランチェスカはリリアに向かって話し掛けた。
「あの、私が迷子になって脚を挫いたんです。そこに王子が偶然通り掛かって、雨を避けるようにこの洞窟に」
何度も見たテンプレ。普通の悪役令嬢なら悔しがるんでしょうけれど、私はこの二人には何の思い入れもない。先を促す。
「何故抱き合っていらっしゃるの?」
「雨に濡れたままだと風邪をひくからと、私のドレスを…その、脱いで乾かしているので上着をお貸しいただいたのです。それで、逆に殿下がお風邪を召されては、と思いこうして2人で身を寄せ合って」
「状況は分かりました。では助けが来るまでそうしてらっしゃるといいわ。雨が小降りになったら助けを呼びます」
フランチェスカの真意を測り兼ねるといった風に二人は顔を見合わせた。邪魔者の出現にも二人の世界の壁は依然として堅牢で、見つめ合う姿はフランチェスカがいるにも関わらず愛の世界に進みそうだった。
洞窟の外を見る。雨は一時の強さがおさまり、後は通り過ぎるだけに見えた。
(ほんと、おめでたい二人だわ。私のドレス、それにハイヒールの姿でここまで来れると言う事はさほど遠くない、しかもヒールなんてほとんど汚れてないじゃない。洞窟で抱き合うレベルじゃないわ)
そう思いながら洞窟の外まで出ると、ここは少し小高い丘のようになっているらしく、見下ろす形で辺りが見える。数人の兵士が木陰から見えた。
(きっとこの周辺を守ってるのね。ラッキー。)
助けを呼ぶ算段が付きほっとした所で、離れた位置から草を掻き分ける音が聞こえた。
咄嗟に洞窟の中に引っ込む。
「本当にあるんだろうな」
「ある、あるけどこれで終わりにしてくれよ」
どこか聞き覚えのある声がした、と思ったら男二人が洞窟に入って来た。
薄ぼんやりとしか分からないが、ニルス・クライドだ。
もう片方の男は分からない。だが何となく察しは付いた。クライド家はだいぶ瀕していて、そこをフランチェスカが助けた事になっている。
真っ当な取り引きとは思えない間柄。ニルス・クライドの方が何か弱みを握られているのだろう。
(あ、これだ)
「あなた達、どなた?」
「うわっ、誰だ」
フランチェスカに気付き男が声を上げる。
「私はフランチェスカ。雨宿りをしていた所です。雨がやんだら出て行きますのでお構いなく」
「あ、奥にも二人もいるのか。今日はやめとくか。邪魔したな」
取引を持ち掛けた男がそう言って帰る素ぶりを見せる。一方でニルス・クライドはフランチェスカを見ても表情に変化がない。
(ん?ニルス・クライド子爵は私の事を知らないのね。て事はこの前の夜会よりも前の時間に転生してるのね)
奥で抱き合った男女二人は身分が知れる事を恐れてか、ひと言も発しない。
「少し帰るのはお待ちなさい」
「なんだ!?」
フランチェスカが何者か分からないが、こんな所にいる女にロクなのはいないだろう、と言う考えが透けて見える。
(ま、ロクな女じゃないのは確かかも)
「その男、クライド家の子息に話があるの」
「え!?」
ニルス・クライドは驚いた顔をしてフランチェスカを見た。何故自分を知っているのか、何故話があるのか、何故ここにいるのか全く理解出来ないといった風だ。
目を細めれば疑問符が山程あるのが見える(ような気がする)。
「貧すれば鈍する、と言う言葉があります。冷静な判断が出来ず悪手を打つ、と言う事です」
「なんだ、お説教かよ。それなら俺は帰らせてもらうぜ」
取引を持ち掛けた男は自分は関係ないといった風に洞窟を出ようとする。
「お待ちなさい。雨がもう少しでやむでしょう」
先程から雨音が段々小さくなり、男の声がはっきりと聞こえるようになった。
フランチェスカは雨を確認するかのように洞窟から出た。兵士の姿は相変わらず近くにあった。
「助けてー!!!!」
兵士に向かって叫ぶ。声の方向を探し、丘の上にフランチェスカの赤いドレスを確認すると、全員走り始めた。
取引を持ち掛けた男はフランチェスカの大きな声に驚いて思わず洞窟の奥の方へと逃げてしまう。
「ニルス、その男を捕まえなさい」
「えっ!?えっ!?」
振り返りざまそう口にすると急な命令でニルス・クライドも慌てふためいたが、自分の名を知っていて、かつ命令してくる令嬢には逆らえず男に飛びかかった。
揉み合いになり上に下になりながら2人が泥だらけになった所で兵士達が駆け付け男二人を捕らえた。
「国境警備第二中隊副隊長、ロザリア参りました」
ロザリアはフランチェスカの目の前に来ると直立不動で敬礼をした。
「チェス様。どう、なされました?」
(なるほど、ロザリアはここでは私の事を知ってるのね。しかもなんだか随分敬意を払われてる気がする。ああ、それで夜会では私の代わりに踊ってくれたのね。ありがとう)
「我が国の子爵が不逞の輩によからぬ企みを持ちかけようとした所を見つけたので呼びました」
「はっ!では2人を連れて行きます」
「ニルス、クライド家は悪いようにはしません。私に任せなさい」
ニルス・クライドの不安げな表情がすがる表情に変わった。もうこうなってはフランチェスカにすがるしかない。
「それと、遭難した男女が震えています。保護して救護をお願い」
「…」
ロザリアは奥の男女二人を見て、片方がレオンハルト王子である事を認めると狼狽えた。何故婚約者の前で裸同然で抱き合っているのだろう。それにもまして、チェス様は何と冷静で思慮深いのだろう。騒ぐ事なくこの二人の立場を落とさない事を考えていらっしゃる。
(そうよね、明らかに王子、だものね。どうしたらいいか分からないよね。)
「もしかしたら公に出来ない家名の方かも知れないので、遭難した男女、で処理してちょうだい」
「はっ!」
(やはり、チェス様はいつでもステキでいらっしゃる。私もこうありたい)
兵士達は男女二人をまとめて毛布で包み、外観から誰か分からないようにして連れていく。
「チェス様」
ロザリアが口を開く。
「何でしょう?」
「チェス様はどうしてこんなにも冷静な判断力と決断力と寛大さをお持ちなのでしょうか?」
(あ、来た。心酔。私に惚れてる。んー、そっか、夜会でのピンチを救ってくれる心優しき令嬢はここで誕生するのね)
「私は、己の無知と無力を知っているだけです。いつか、私一人では切り抜けられない事態が起きた時、助けていただけますか?」
「もちろんです!何なりと!」
「では、私が投げたバラを受け取って下さい」
「それは、どう言う意味、ですか?」
「ロザリアに助けを求める、と言う意味です」
「承知しました!」
フランチェスカを助けるという大役を仰せつかり栄誉であると満面の笑みを浮かべ、慌てて気を引き締め敬礼をするロザリアに敬礼で返した瞬間、バスタブに浸かり口まで潜りぶくぶくと泡を立てていた。
(フランチェスカのナイト、ロザリア誕生!)




