僕の死体 / 最愛の味 / 手 / 夢 / 春
《 お題 》
萩尾滋へのお題は〔はじめまして僕の死体〕です。
〔「?」の使用禁止〕かつ〔「声」の描写必須〕で書いてみましょう。
【僕の死体】
こと切れた僕自身を足元に眺めて言った。
ヒステリックなヴァイオリンの高音に似た声に刺された僕。
透明の僕から透明の血が流れていた。
僕の死体は僕にしか見えない。
透明の死体を透明の花で飾って弔いの鐘を鳴らそう。
僕以外の誰にも聞こえない透明の音を響かせて。
初めましてと見送ろう。
《 お題 》
〔最愛〕です。〔モノローグ禁止〕かつ〔味の描写必須〕で書いてみましょう。
【最愛の味】
彼の愛するのは、爽やかでほろほろとした崩壊を含有するスイーツだ。
留めておくことのできない少年時代のような。
目覚める直前の夢のような。
パティシエは報われぬ想いをパステルカラーに溶かしクリームにこめる。
口内で弾ける情熱は一瞬。
彼の望む味は実体ではないのだ。
儚い残滓の響き。
《 お題 》
〔甘えないで〕です。〔直喩禁止〕かつ〔「夕焼け」の描写必須〕で書いてみましょう。
【手】
空と海を分ける水平線が太陽を呑み込むのが怖くて、
母の手にそっと触れた。
とたんに「甘えないで」とうち払われる。
白く細いその指が銀のケースから煙草をつまむ。
僕は行き場のない手をまっすぐに伸ばし、5本の指を大きく開いた。
隠れようと急ぐ丸いきらめきを、逃がすものかと握り潰す。
《 お題 》
名無しのEさんは、「昼のベンチ」で登場人物が「さめる」、「雑誌」という単語を使ったお話を考えて下さい。
【夢】
広がる白い街並み光り輝く青い海。
この風景を眺めながら昼のベンチに腰かけて、ランチを食べるのが夢だった。
昔、雑誌で見つけたこの場所に恋をした。
切り抜きをお守りにして働いた。
いつかここへ来て、このベンチに座り、この街を見下ろすために。
さめることのない夢のなかに、僕は今生きている。
《 お題 》
「夕方のホテル」で登場人物が「さめる」、「春」という単語を使ったお話を考えて下さい。
【春】
ホテルの一室でいつものように珈琲を淹れる。
窓を開けると、張りだしていた暖色に染まる枝が揺れた。
枝と枝の狭間に遠く沈む夕陽が柔らかく空気を染めている。
光を受けて輝く枝先に、小さく芽吹く春の息吹を見つけた。
長い冬の眠りからさめる時が来たのだ。
僕もまた。




