なにげにファンタジー
《 お題 》
『時間がない』を最初に使ってSSを書いてください。
【月光の窓】
時間がない、と小さな声が暗闇を駆ける。
パタパタと走る足音。
私は寝たフリをしたまま薄目を開ける。
足音が次々と増えていく。
白い壁に伸びた月光の刻む窓枠の影が、音も無く開かれる。
むわりとした夏の匂い。吹き込む涼風。笑い声がさんざめく。
ベッドから抜け出し私は足を踏み出していた。
窓の中へ。
《 お題 》
『当たりだね』を最初に使ってSSを書いてください。
【缶詰の中】
「当たりだね」
君は吐息を漏らす。
124個目の缶詰を開けてやっとお目当てを手に入れたのだ。
雲に覆われた虹色の海。
「いた!」
僕も息を殺して覗き込む。
途端に彼女と目が合った。
ピンクの髪の人魚の蠱惑的な微笑み。
ぞわりと悪寒が走る。
「なんて綺麗なんだ」
既に魅入られている君。
駄目だよこれは…
《 お題 》
『眠り』と『道程』を使って140字SSを書きましょう!
【微睡みの中】
いつしか森の奥へ奥へと分け入っていた。
過去に来た道は既に失われ、只闇雲に突き進む。
そんな道程で遂に巡り逢ったそれは、茫と仄白く輝いていた。
額に鋭い角を頂く純白の一角獣。
眠りの中にいるその背に手を伸ばす。
刹那、私は吸い込まれ、目を覚ました。
私の部屋?
違う、ここは微睡む彼の夢の中…。
《 お題 》
「夕方の書店」で登場人物が「ひっぱたく」、「猫」という単語を使ったお話を考えて下さい。
【本の中】
西日の射し込む小さな書店の狭い通路で、僕は立ったままその本を夢中で読み耽っていた。
ピシリッと何かが僕の手の甲をひっぱたいた。
にゃあと猫の鳴き声。
尻尾でも当たったのかと、僕は又文字を追う。
ピシリッ。
指が痺れる。
「買いなさいよ!」
眼前の本棚に、透き通る羽の妖精が腰掛け僕を睨んでいた。
《 お題 》
〔踊って、笑って〕です。
〔カタカナ語禁止〕かつ〔温度の描写必須〕で書いてみましょう。
【環の中】
丸、三角、四角…地面に描かれた図形の中を飛び跳ねる。
「え?」
描いた覚えのない六芒星につま先がつく。
閃光が走り突風が駆け抜ける。
頬を炙る熱と余りの眩しさに顔を覆った。
光が沈み目を開くと、私は一人。
風が唄っている。
くるりと取り囲む影が踊って、笑って、さんざめく。
夏の野原に私はいた。