第四話【心境の変化】
- 山岸花菜目線 -
(あはは……やっちゃった)
花菜は今日の放課後、気分転換に公園に来ていた。自販機でジュースを買い、先にトイレに行った。
そしてトイレから出た時、公園には子供が複数人いた。年齢は小学生ほどだろうか。
子供たちはサッカーをしており、それなりに盛り上がっていた。
そこに、花菜は参加した。
「お姉ちゃん、サッカーいけるの〜?」
「ふふふ、私はこれでも運動神経は良い方なんだよ」
花菜はその言葉に後悔することとなった。最初は花菜も楽しんでいたが、しばらくして小学生の体力や技術には敵わず、足を挫いてしまった。
花菜は子供たちが責任を感じぬよう、少し休めば治ると強がった。それを信じた子供たちは公園から立ち去った。
その時――。
「えっと、何してるの?」
その声を聞いた花菜は驚いた。そこに居るはずもない人物の声がしたからだ。
それから花菜は彼の背中に乗った。嫌な顔は何一つせず。すべて見透かしていたのだ、足を挫いたことも。
そしてマンションまで運ばれ、部屋まで戻ってきた。幸い、荷解きはほとんど終わっていた。あとは足が挫いていてもできる、花菜はそうは考えていた。
そう思い、花菜が一歩を踏んだ時。足首に痛みが走り、転んだ。
その音を聞いて、彼は飛んでくるようにやって来た。
「だ、大丈夫!?」
花菜の様子を見た男はすぐに行動した。
「ちょっと待ってて」
「え?」
花菜は痛みを忘れ、彼の背中を見ていた。
そして一分も経たない時間で彼は戻ってきた。
「はやい……」
「俺となりだから」
「え?」
驚きの告白により点になる花菜を置き、彼はすぐに患部を氷で冷やし始めた。
「花菜」
その声に花菜は思わず、ドキッとした。
それからのことは花菜もあまり覚えていない。気が付いたら、袋に入った氷と湿布だけ置かれていた。
そして隣の部屋の扉が閉まる音がした。
(なに、これ……)
手際がいい。それに、よく見ると湿布が三枚置かれている。今日、翌朝、晩ということだろうか。
さり気なく置いて行った。
「お、お礼しないと……」
お礼をいいと言われたが、花菜の頭には聞こえていない。
花菜はお礼を言いに行こうと立ち上がろうとしたが、痛みで立ち上がれない。今日は諦めてもう寝ようと花菜は決めた。
「お風呂は明日にして、今日は勉強お休みかな……」
それだけを呟き、花菜はベッドに飛び込んだ。
窓から朝日が差し込み、瞼を開ける。見覚えのない部屋が目に映る。そして、ようやく覚醒した。
「あ゙ーだる……もう朝か」
寝起きの俺は少し機嫌が悪い。
声が掠れ、傍から見れば、ただのヤバい奴だろう。だが、これに関しては仕方がない。寝起きなんて誰にも治せないのだから。
妙に頭と体が少し痒い。
(あーそうだった。昨日……)
俺はそこでようやく、昨日の出来事を思い出してきた。足を挫いたカーストトップの花菜をおぶって、家まで送ったら同じマンションで、氷袋と湿布を置いて帰った。
それで、帰ったら食事もお風呂もろくにせずにベッドに飛び込み……か。
重い体を俺は起こし、時計を見る。昨日早く寝たからだろう。時刻はまだ四時ほど、幸い登校まではまだ三時間以上ある。
いまのうちに朝食とシャワーを済ましてしまおう。
それから一時間ほどで朝食とシャワーを済ました俺はなんとなくだが、ベランダに出たくなったため、出ることとした。
開けると、まだ春になったばかりで少し肌寒い風が頬を撫でている。だが、俺的には涼しいところだ。
「ふぅ……」
そのとき、隣からガラガラっとベランダの引き戸が開く音がした。
「ん〜今日も頑張ろ」
「……え?」
「え?」
おかしいぞ、なんか横から声がしたような気がする。まぁ、気のせいだろう。うん、絶対そうだ。
そう思いつつ、俺は恐る恐る横に振り向くと、そこにそれは居た。
「あ、あはは……奇遇だね」
「そ、そうだな……」
「……」
「……」
なんだこの状況!? 別に悪いことをしたわけじゃないのに、ものすごく気まずい!今すぐここから消えたい!後ろに五歩ぐらい戻りたい!
そう、横には妖精……もとい、花菜が立っていた。
目にした瞬間、昨日の出来事が一気に蘇る。
花菜をおぶった……勝手に部屋に入った……。
順に蘇る。
(やべぇ……今思うとめちゃくちゃ恥ずいことしたな、俺……)
「……」
「……」
それからさらに五分ほど、お互いに静寂の時が流れた。
(気まず過ぎる……何か話さないと……)
そして、その静寂を突き破ったのは俺ではなく花菜だった。
「……そ、その昨日はありがとうね」
「あ、う、うん……別にお礼とかはいいから……」
「じゃ、じゃあ私、勉強してくるから」
「わ、わかった……じゃあまた学校で」
「……うん」
そんな軽い……俺にとっては重い会話を終え、花菜はベランダを後にした。
あの感じだと、おそらく花菜も俺と同じ理由でベランダに出たのだろう。ただそのタイミングが被っただけ。
- 山岸花菜目線 -
(な、なんで!? なんで被るの!?)
勉強をすると秋夜に言った花菜はいま現在、ベランダの引き戸に身を任せてながら顔を手で覆っていた。
耳は茹でタコのように真っ赤で、今にも沸騰しそうなほどに。
時刻はまだ五時半。登校まではまだまだ時間がある。
「べ、勉強しなきゃ……」
花菜はまだ少し痛む右足を引きずりながら、机と向き合った。
時刻は七時半。
俺は学校の準備をしていた。昨日から朝にかけて色々とあったが、今日こそは普通で、平和に暮らせるだろう。
その気持ちのまま、俺は玄関の扉を開けた。そして横を見る。
(よし、出会わないな)
隣の玄関は開く気配がしない。やはり、運命とかではなく、先ほどのはただの偶然なのだろう。
そんな気持ちで俺は少し、心が軽くなった。
「ってか、エレベーターぐらい作ってくれよな……」
俺のマンションは八階建て、ここらマンションの中ではそこそこ大きい。だが、ほかのマンションは四階でもエレベーターが付いている。のくせ、ここはエレベーターがない。
俺の部屋は五階だから、まだマシな方なのだが、俺より上の階は大変だろう。
そんなマンション会社に愚痴を溢しながら、階段を下る。
道路に出ると、俺と同じの制服はちらほら見え始める。男子の大半は半袖が……すげぇな、おい。
そんな登校してくる生徒を眺めつつ、イケないという気持ちがあるものの、俺はバッグからラノベを取り出し、読む。
それから何事もなく、無事に俺は登校できた。




