005話 初依頼Ⅰ
依頼の書かれた羊皮紙を手に、僕たちはアルカディアの西門をくぐった。
雲一つない青空の下、風がそよそよと街道の草木を揺らしている。目指すは街から歩いて三十日分ほどの距離にある「常緑の森」だ。
ライノ「よしっ! 秀、エルナ、初依頼張り切っていこうぜ!」
大剣の柄をポンポンと叩きながら、ライノが先頭を元気に歩いていく。
エルナ「ライノ、はしゃぎすぎて体力を無駄に消費しないでください。森に入る前にバテても知りませんよ」
ライノ「へっきのへっちゃらだって! 秀もそう思うだろ?」
秀「あはは、でも慎重に行くに越したことはないよ。僕、街道で一回ヤバい奴に襲われてるし……」
【上位化】の力で身体能力も向上しているのか、長時間の歩行でも思ったほど足腰に疲労は溜まらない。歩きながら魔力の流れを意識する練習を試みていると、隣を歩くエルナが不思議そうにこちらを見た。
エルナ「秀……歩きながら体内の魔力を微調整していますね? 新人とは思えない器用さです」
秀「え、あ、うん。なんとなくコツを掴もうと思って」
ライノ「マジかよ、お前ストイックだなあ! 俺も負けてらんねえ!」
軽口を叩き合いながら進むうちに、街道の脇に鬱蒼と茂る巨大な木々の群生——「常緑の森」の入口が見えてきた。木漏れ日が落ちる森の奥からは、どこか冷やりとした気が漂ってきている。
秀「ここが……常緑の森か」
僕たちは足を止め、それぞれの武器や魔力に異常がないか確認し、緊張感を持ち直して森の木々の中へと足を踏み入れた。
木漏れ日が差し込む森の径を進みながら、草むらで薬草を探している最中、ライノがふと歩みを止めて僕を振り返った。
ライノ「なあ秀。お前、『訪問者』のスキル持ってるだろ? 正直に言っていいぜ……お前、前の世界で死んでここに来たクチか?」
いきなりの質問に、僕は思わず手を止めた。
秀「え……ライノも、もしかして……?」
ライノ「おう! 俺は前の世界で暴走した馬車から子供をかばってな。ドカンといかれて目覚めたらこの世界だったってワケだ」
あっけらかんと笑うライノに驚いていると、屈んで薬草を摘んでいたエルナが静かに立ち上がり、自分の三角帽子を少し直した。
エルナ「……驚くことではありませんよ、秀。私もです。私のいた世界では過酷な魔導実験の事故に巻き込まれ、命を落としました。気がついた時には、エルフの幼子としてこの世界に転生していたのです」
秀「二人とも……そうだったんだ。僕は日本っていう国の福岡タワーにいたんだけど、巨大な鳥が突っ込んできて衝突事故に巻き込まれて……気づいたらこの世界に来てたんだ」
ライノ「福岡タワー……? よくわかんねえけど、巨大な鳥の激突事故かよ! 災難だったな……。まあでも、お互い一度死んで別の世界から来た者同士ってことだな!」
エルナ「ええ。元の世界も、ここに来た経緯も全員バラバラ。けれど、こうして一つのパーティーとして出会えたのは、単なる偶然ではないのかもしれませんね」
二人の言葉に、胸のつかえがすっと下りていくのを感じた。
秀「そうだね……元の世界には戻れないかもしれないけど、二人と話せてよかった。この世界で、一から頑張ろうって思えたよ」
互いの秘密と「過去の死」を明かし合ったことで、僕たち三人の間の空気は一気に和らぎ、パーティーとしての絆がぐっと深まったのを感じた。
会話を続けながら薬草を摘んでいると、ふと二人の話す「前の世界」の情景が頭に浮かんだ。
ライノのいた中世風の街並みや、エルナのいた魔導技術に頼った世界——どちらの文化を聞いても、僕が住んでいた地球の発展ぶりとはどこか一線を画しているように思える。
秀「話を聞いてて思ったんだけど……僕がいた地球って、もしかして二人の世界よりかなり機械や科学の技術が進んでたのかも」
ライノ「科学……? 機械? なんだそりゃ、魔導具とは違うのか?」
ライノが不思議そうに首をかしげる。
秀「うん。魔法は一切なかったんだけど、空を飛ぶ鉄の乗り物(飛行機)があったり、世界中の人と一瞬で会話できる手のひらサイズの道具があったりしたんだ。夜でも街全体が電気で昼間みたいに明るくてさ」
エルナ「魔法が存在しない世界で、そこまでの利便性を築き上げていたのですか……? 道具だけで空を飛び、長距離の伝言を可能にするなど、私のいた世界の魔導技術でも容易ではありません」
エルナは驚いたように目を丸くし、顎に手を当てて深く感心していた。
ライノ「へえぇ! 魔法がないのにそんな凄えことができるなんて、地球って世界はとんでもねえな!」
二人のリアクションを見て、僕は少し誇らしくもあり、同時に「科学技術」という形で独自の進化を遂げていた元の世界の異質さを改めて実感していた。
秀「まあ、そのぶん便利すぎて忙しい世界でもあったんだけどね。……あ、あそこに依頼の薬草が生えてる!」
文明の違いに感心する二人を横目に、僕は森の奥で見つけた青く光る薬草へと駆け寄っていった。




