004話 街での暮らし
身分証の発行手続きを無事に終えた僕は、街道を共に旅した老爺とギルドの前で別れることになった。
老爺「わしは少々用事があってな。……秀よ、自分の力を過信せず、だがその可能性を恐れるなよ」
意味深な言葉を残して人ごみの中に消えていった老爺の背中を見送り、僕はふぅと息をついた。
一人になった僕は、まず旅の拠点となる宿屋を確保し、冒険者ギルドでこの世界の依頼の仕組みについて教えてもらった。街の中は活気に満ちていて、珍しい露店や見たこともない料理の香りに心が躍る。
(さっきのスマホの通知……それに、老爺さんの最後の表情……気になることは山ほどあるけど、まずはここで生きていくための盤面を整えないとな)
【上位化】のスキルのおかげで、街の構造や基本的な魔法の練習方法も一通り頭に叩き込むことができた。
宿屋の部屋に入り、ベッドに腰を下ろした僕は、再び静まり返ったスマホの画面をじっと見つめた。僕がこの「アルカディア」で動き出すのと同時に、見えない裏側のギアも回り始めているような気がしてならなかった。
翌朝、宿屋の爽やかな朝光で目を覚ました僕は、街の探索と日用品の買い出しを兼ねてアルカディアの大通りへと繰り出した。
中央広場周辺の市場は、朝から活気にあふれている。見たこともない鮮やかな果物が山積みされた露店からは甘い香りが漂い、通り沿いの屋台からは香ばしい肉の焼ける匂いが食欲をそそる。
「いらっしゃい! そこのお兄さん、焼きたての『コカトリス串』はどうだい? 外はパリッと、中はジューシーだよ!」
「あ、じゃあ一本ください!」
【訪問者】のスキルのおかげで、銅貨と銀貨の計算も迷うことなくスムーズだ。受け取った串焼きを一口頬張ると、甘辛いタレと濃厚な肉汁が口いっぱいに広がる。
「うまっ……! 異世界のメシ、レベル高すぎだろ……!」
お腹を満たした後は、武具店や魔法道具のショップを巡った。ショーケースに並ぶ神秘的な宝石や、魔力を帯びて淡く光る羊皮紙の巻物を見るだけで、冒険者としての実感が湧いてワクワクが止まらない。
途中、獣耳を生やした子供たちが追いかけっこをしているのに出くわし、思わず笑顔になる。
(景色も料理も、見るものすべてが新しくて面白い。日本にいた頃の退屈な日常が嘘みたいだ)
【上位化】の力で街の地図やアイテムの相場もあっという間に把握できた僕は、すっかりこの賑やかな街の魅力に夢中になっていた。
街の散策をひと通り楽しんだ僕は、冒険者としての本格的な活動を始めるため、重厚な木製の大扉を押し開けて冒険者ギルドの建気に入った。
館内は喧騒に包まれており、巨大な掲示板の前で依頼を選ぶ冒険者や、酒場で盃を交わす猛者たちの姿がある。
受付カウンターへ向かうと、笑顔の職員が親切に対応してくれた。
「ギルド登録ですね。では、こちらの魔石に手をかざしてください」
指示通りに透明な魔石へ手を置くと、ぽわんと青い光が灯り、僕のステータス情報が羊皮紙に印字されていく。【訪問者】と【上位化】の恩恵により、手続きは滞りなく完了し、僕は無事にFランクの冒険者証を手に入れた。
職員「新規登録おめでとうございます、秀さん! それと……実はちょうど今、新人同士でパーティーを探している方がいらっしゃいまして。よろしければご紹介しましょうか?」
そう言って案内されたテーブルには、二人の先客が座っていた。
一人は、大きな大剣を背負った元気そうな赤髪の少年剣士ライノ。
もう一人は、三角帽子を深くかぶり、静かに本を読んでいる長耳の少女魔導士エルナだ。
ライノ「へい、お前が新しく入る秀か! 俺はライノ、前衛担当だ! よろしくな!」
エルナ「……エルナです。後衛で支援と攻撃魔法を担当しています。よろしく、秀」
秀「僕は秀です。適性は全属性と……一応、召喚魔法が使えます。よろしくお願いします!」
ライノ「召喚魔法か、すげーな! これで前衛、後衛、召喚術士のバランス良い3人パーティーの完成だな!」
気さくなライノと、どこか落ち着いたエルナ。二人の良き仲間と出会えたことで、僕の異世界冒険者としての第一歩が、いよいよ本格的に踏み出されたのだった。
そして初の依頼を受けることにし、ギルドの掲示板に並んでいた。
ライノ「よし、初仕事はこれにしようぜ! 『街外れの森での薬草採取と、小型魔獣の討伐』だ!」
エルナ「ふむ……難易度も手頃で、私たちの連携を試すには丁度いい仕事ですね」
秀「よし、決まりだな! 二人とも、よろしく頼むよ!」
依頼票を掲示板から引き剥がし、受付へ提出する。
活気あふれる街を背に、僕たち三人組は初めての戦場となる緑豊かな森へと向かって歩き出した。
——これが、後に「最果ての異界」をも揺るがすことになる僕たちの、小さくも大いなる第一歩だった。




