002話 この世界について
老人は近くにあった丸太に腰を下ろすと、語りかけるように話し始めた。
老爺「この地は『アストリア』と呼ばれる世界じゃ。お主がいた世界とは異なり、ここには『魔力』という万物に宿る力が満ちておる」
秀「魔力……魔法が存在するってことですか!?」
老爺「左様。しかし誰もが自在に扱えるわけではない。人々は己の適性に応じた術を学び、生活や冒険に役立てておるのじゃ」
老人は遠くに見える壮大な街を指差した。
老爺「あそこに見えるのは中央都市アルカディア。様々な種族が集う平和な街じゃ。人間だけでなく、獣の耳を持つ者や、知識に秀でた種族なども共存しておる」
秀「種族まで……まるでRPGの世界ですね。でも、治安とかは大丈夫なんですか?」
老爺「良い質問じゃ。街の周りには凶暴な魔獣も生息しておるため、決して安全ばかりではない。じゃが、街を守るギルドが存在し、依頼を受けて魔物を退治したり街の治安を維持したりしておるのじゃよ」
老人は穏やかな笑みを浮かべ、僕に向かって手を差し伸べた。
老爺「右も左も分からぬまま路頭に迷うのも不憫じゃ。まずはわしと一緒に、あのアルカディアの街へ向かうとしようではないか」
老爺は一歩一歩踏みしめるように歩きながら、静かに語りを続けた。
老爺「アルカディアへ向かう前に、一つ大切なことを教えておかねばならん。この世界はな、今お主たちが踏みしめている『現世界(げんせかい)』と、その裏側に背中合わせで存在する『幻世界(げんせかい)』の二層から成り立っておる」
秀「現世界と……幻世界? 表と裏って、どういうことですか?」
老爺「文字通りの意味じゃ。現世界は私たちが今いる、形ある物質の世界。そして幻世界は、人々の記憶や魔力の澱みが形作る影の世界じゃ。二つの世界は重なり合っており、普段は決して交わることはない」
老人が掲げた杖の先端が、かすかに青白く光を放つ。
老爺「だがな……時折、その境界が揺らぎ、二つの世界が繋がってしまうことがある。現世界で起きた異常が幻世界へ影響を与えることもあれば、その逆も然り。そなたがこの地に流れ着いたのも、もしかするとその『境界の歪み』が関係しているのかもしれんのう」
秀「僕がここに来た理由が……その幻世界にあるかもしれないってことですか?」
老爺「ふむ、可能性の話じゃがな。まあ、焦ることはない。まずは街で身支度を整え、この世界の仕組みを少しずつ知っていくとしよう」
道すがら、老爺が取り出した古びた水晶球に手をかざすと、僕の身体から淡い光が溢れ出した。
水晶の表面に、この世界に流れ着いた者たちが得るという力と、僕自身の資質が文字となって浮かび上がる。
老爺は水晶球に浮かび上がった文字を二度見し、少し目を見開いて感心したように頷いた。
老爺「ほう……『訪問者』か。まあ、これはこの世界の住人なら誰もが生まれ持っておる基本的な力じゃから不思議はないが……」
老爺は指先で「上位化」の項目をなぞり、興味深そうに目を細めた。
老爺「この『上位化』というのは珍しいな。この世界では誰もが何かしらの固有スキルを一つ持っておるものじゃが、成長そのものを飛躍的に早める力とは……実に面白い。お主の努力次第で、どこまでも伸びしろがあるということじゃな」
さらに、基本5属性の適性と固有魔法である「召喚魔法」の文字を確認すると、老爺は満足そうに微笑んだ。
老爺「基本属性に加え、固有魔法は『召喚魔法』か。召喚術は魔力の使い方だけでなく、召喚対象との絆も鍵となる。この『上位化』の力があれば、術の扱いもあっという間に上達するかもしれんのう」
秀「自分だけの特別なスキルに、召喚魔法……! なんだか本当に凄そうな気がしてきました」
老爺「フォフォ、あまり調子に乗りすぎてはいかんぞ。どれほど才能があろうと、使いこなせねば宝の持ち腐れじゃからな。まずは街へ着いたら、基本的な魔力の扱いから試してみるとしよう」
街についてからは、どんなことが待っているのだろうか。
僕はそんな期待に胸をいっぱいにし、歩き続ける。




