第6話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
やがて開けた盆地に出ると、無数の旗印がはためく巨大な陣幕が見えてきた。
「父上、母上。宗茂、野盗討伐より只今帰還いたしました」
陣の奥にある一際大きな幕舎の前で、宗茂殿が声をかける。なるほど、母君もご同行されているのか。
立花道雪は正史であれば齢7歳の娘を城督を譲っている豪胆な御仁だ。この世界でも男女の差など分け隔てないのだな。
一人納得している私を他所に、勢いよく幕が跳ね上がった。
「おぉ! リヒトォ!!」
飛び出してきたのは、足を引きずる一人の男性だった。
「よくぞ無事で帰ってきた私の愛しい息子よぉ! 怪我はないか!? 野盗の残党に寝込みを襲われたりしていないか!?」
猛烈な勢いでまくしたてながら宗茂殿を撫で回すその姿に、私は目を丸くした。
『リヒト』
道中で彼が、家族だけが呼ぶのだと教えてくれた真名だ。
透き通るような白い肌に、美しい金髪。顔立ちは宗茂殿と瓜二つ。
だが、横の髪から突き出ている耳が、人間離れして異常に長い。
(エ、エルフ……!?)
紛れもないファンタジー世界の住人。
異世界とは言うが私の"本来の世界“とも別の世界が存在するのか……私が呆然としていると、横で三郎殿が深くため息をついた。
「おい新入り、顎が外れてるぞ。あれがこの陣の総大将、立花道雪様だ」
「あ、あぁ……なるほど、道雪殿か。通りで瓜二つだと……いや、いやいや待ってくれ、宗茂殿の金髪は父親からの遺伝だと……。史実なら、実父は高橋紹運のはずでは……?」
「ああ? 何ぶつぶつ言ってんだ」
私の史実の知識が、根本からへし折られる。
そんな私の混乱などお構いなしに、背後の十吉くんがのほほんとした声を上げた。
「わぁ、耳の長かぁ! 三郎のおっちゃん、あれ引っ張ったら伸びると?」
「やめとけガキ、道雪様はああ見えて機嫌を損ねりゃ本物の雷を落とすぞ。お前なんか一瞬で黒焦げだ」
「ひえっ」
十吉くんが私の背中に隠れる。
いや、雷って……確かに私の知見でも雷神と名高いがそれは異名であって……
ダメだ! 頭の処理が追い付かない!
「耳、引っ張ってみる?」
「うわぁ、よかと!?」
「やめろ、ガキ!」
「父上、落ち着いてください。それより母上は……」
宗茂殿が苦笑いしながら尋ねた、その直後だった。
『ズザーーーーッ!!』
幕舎の奥から、土煙を上げるほどの猛烈なスライディングで「黒い影」が飛び出してきた。
影はそのまま空中でアクロバティックな前宙を決めると、『ダァァン!』と無駄に重たい着地音を響かせて宗茂殿の目の前に降り立つ。
この御仁……強い。
無駄にダイナミックな動きに反して一切の隙がない。不用意に近付けば2.3発は撃ち込まれる。
「……母上、ただいま戻りました」
「…………(コクコクコクッ!)」
機能的な黒い装束に身を包んだ鋭い目つきの女性。この方が宗茂殿の母君であったか。
これ程の実力なら護衛として陣幕にお連れしているのも納得だ。
ペタペタペタペタペタペタペタペタ
一切言葉を発さず、ものすごいスピードで宗茂殿の全身を触って怪我の有無を確認すると、今度は『ガシィッ!』と骨が軋むほどの力で抱きしめる。
親の包容か……少しだけ、少しだけ羨ましい。
「母上……っ、苦し、です……」
「…………!(親指をグッと立てる)」
いや、あそこまでは少し嫌かもしれない……
「……あの黒いのが高橋紹運様だ。見ての通り、口を開くことは滅多にねえが、いちいち動きがうるさい」
三郎殿がまたしても的確な解説を入れてくれる。
「そうか。流石は"風神"や"乱世の華"と称されることもある武将。見事なまでの身のこな、し?え、紹運??」
私の頭は完全にショート寸前だった。
「た、高橋紹運……? 母上? 高橋紹運が、女性……!?」
「宗茂様を産んだ実の母君だぞ?」
エルフの道雪(父)に、無言で動きがうるさい紹運(母)。
私の知る史実が欠片も息をしていないではないか!
「忍者みたいでかっこよかー!」
のんきに目を輝かせる十吉くんの横で、私はついに頭を抱えた。
「んん? そう言えば、リヒト。その綺麗なお嬢さんと好奇心旺盛なお子さんは……まさかお前、嫁と隠し子か!?」
「ばっ…違います! 彼女は雪夏。村を野盗から護ってくれた僕の恩人で――」
「魔物狩りの名人で僕のお師匠様たい!」
「あ…」
「なんだ?お前、狩人か。その癖人を斬るのに『手慣れた』太刀筋に見えたが」
「…………(コソコソコソ)」
「どうした、"お理"?なに?じぇーけー最高?なんだ、それは?」
「…………!(親指をグッと立てる)」
「姉ちゃはじぇーけー?言うん!?かっこよか!」
「いや……」
「器量の良さそうなお嫁さんじゃないか、なぁ!」
「だから、違--」
「じぇーけーってのは魔族狩りの部族か何かの名か?確かに動きやすそうな装束だが」
「ちょっと静かにしてくれないか!?」
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