第11話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
月山富田城を背に、私と宗茂殿は毛利の本陣を目指した。
義久殿を捕らえることはしなかったがサツキ殿と二人で崩落寸前の城の地下へと消えていったのだ。話に聞いた娘と共に最期の刻を過ごすのだろう。恐らくは助からない。
でも、それで良いんだ。
家族がバラバラになる辛さを我々は痛い程理解している。
……また1人。私の未熟さゆえに大切な仲間を家族を失ってしまった……
三郎殿……。
あの天守から落ちたのだ。きっと一溜りも無いだろう。
「雪夏……気に病むことはない……三郎は、武士と、して……誇り高く、散ったんだ……」
三郎殿は宗茂殿の謂わば兄弟同然だ。涙を流すのも当然だ。また、彼を孤独にしてしまった。
今すぐにでも三郎殿を探しに行きたい。せめて、傍らで……しかし、戦勝報告をしない訳にはいかない。毛利家の皆も多大な被害を受けている。
苦しいのは、犠牲を払ったのは我々だけでは決してないのだ。
そんな重い足取りの中で我々は漸く本陣へと帰還を果たした。
既に戦後処理が始まっており、大量の絡繰兵の残骸が文字通り山のようになっている。大軍で陣を張っていたいえ、よくぞこの数の絡繰人形を仕留められたものだ。毛利軍の被害も甚大であったようたが、その強さを垣間見た気がする。
「よく戻ってきてくれました。お疲れ様です。貴殿方の活躍無くしてこの勝利は得られなかったでしょう。先日の言葉、取消させていただきます」
宗茂殿がことの顛末を隆景殿に説明すると驚く程素直に、しかしいつも通り平坦な口調で隆景殿は頭を下げる。
「あの尼子義久に侍る精強な絡繰兵。絡繰人形と言いましたか。アレには我々も手を焼いていたのです。倒しても倒しても、また強くなって立ち上がり、何度辛酸を舐めさせられたか分かりません」
余程の被害を受けたのだろう。サツキ殿の事を話す隆景殿はほんの僅かに表情が曇る。
よく考えればサツキ殿より隆景殿の方が何と言うか機械的だな。似て非なる存在だ。
「だが、僕たちも決して犠牲を払わなかった訳ではありません。大切な仲間を……」
宗茂殿は静かに眼を伏せた。
私も主に習い黙祷を捧げる。こんなところで失っていい御仁ではなかった。もっと一緒に宗茂殿の元で彼の望む大空へと羽ばたきたかった。
「?他にも仲間がいたのですか?それは残念です。私もお逢いしたかった」
「……なっ!」
私は一瞬で顔が熱くなった。あの場に居た人間を居なかった事にして良いわけがない!
我々の仲間を侮辱するなんて!
「雪夏!」
「あっ……」
気付けば私は腰の刀に手を掛けていた。宗茂殿の制止が無ければ引き抜いていたかもしれない。何と浅はかなことを……
「すまない、宗茂殿……」
「どうしましたか、由布殿?私は何か失礼なことを……?」
さしもの隆景殿も私の蛮行に驚いたのか、慌てるように眼鏡を押し上げる。
「いや……三郎殿を、小野鎮幸が最初から居なかったかのように言うものだからつい……」
私は冷静になり頭を下げた。今は争う時ではないからだ。ここで感情的になればそれこそ三郎殿の顔に泥を塗る事になる。
「申し訳ありません。小野殿に何か?」
「我々の大切な仲間です。もう、逢えないなんて……」
通夜のような空気が流れる。
「……?何か勘違いをされていませんか?」
隆景殿が訝しげに眼鏡を上げる。
「もし、小野殿の事を仰ってるならあの方はどなたですか?」
言われるがまま、隆景殿が指差した方から激しい打ち合いの音が聞こえているのが分かる。
視線を向けると、そこには全身包帯まみれにした見覚えのある大柄の男が、毛利元春殿とそれは楽しそうに手合わせをしていた。
「はっはー!やるじゃねぇか!あん時は期待してなかったが、俺の見る目がなかったな!!」
「そりゃ、どうも。もう少し手加減してくれよ。こっちは怪我人なんだ……よ!!!」
まるで実戦のような激しい打ち合い。お互い木を使っているが動きは真剣そのものだ。
三郎殿も槍の使い方も上手いことこなしているじゃないか……ん???
「そうじゃない!!!何故生きてるんだ!!!三郎殿!!!!!」
「おう、雪下。完璧に槍を使いこなせてるだろ?」
「あぁ、見事な槍捌きだ。やはり、小野鎮幸には槍術がよく似合う……って違う!!」
「なんだよ。変だぞ、お前」
「三郎……」
宗茂殿は私と三郎殿の間に割って入り、何も言わずにその大きな巨躯を抱き締めた。
「君が生きてて本当に良かった……」
「あんたを置いて死にはしねぇよ、宗茂様」
困惑しながらも三郎殿は宗茂殿の頭に手を起き、気恥ずかしそうに強く撫でるのだった。
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「よい。ご苦労だった。立花の若駒」
「はい。ありがとうございます」
「由布も、大層な活躍だったそうではないか。あの人形を破るとはますます気に入ったぞ」
吉田郡山城。元就殿の鎮座する広間に我々が呼び出されたはあの戦から3日後だった。
相変わらずはだけた着物の上にマントを羽織っている。ただ違うのはその膝にはちんまりと輝くんが座っていることだ。
可愛らしい。
「……欲を言えば、あの技術屋にもう一度逢いたかった。長きに渡る尼子との因縁……その最期を飾った者として、な」
元就殿の微笑みが僅かに引きつったように見えた。
史実においても、毛利元就のその半生は尼子との戦いだ。きっとこの世界でも似たようなものなのだろう。その微笑みからは意図が汲み取れないが、幕引きを自分の手で飾れなかったことへの寂寥な気持ちかもしれない。
「たが、約束は違えぬ。お前達の国を取り戻す為、軍を西へ向ける。勿論、旧領は安堵するから心配するな」
「はい!ありがとうございます!」
宗茂殿は深々と頭を下げ、私と三郎殿も後へ続いて頭を下げる。
「取れるのならばそのまま九州一統を果たしても良い。精々島津と仲良くしてくれ」
「つまりはお婆様は背中は任せたぞ、と言いたいのです。我々は東にも眼を向けねばならないのです」
輝くんがまるで注釈だと言わんばかりにフォローしてくれる。
周囲は笑いの渦に包まれ、宗茂殿が姿勢を正して堂々と言い放った。
「勿論です!毛利家が苦難の際には必ずや我々がお味方します!」
「そうか」
元就殿のはただ短くそう返答したが、微笑みが感情的なことには気が付くことが出来た。
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