第10話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
絶え間なく続く地鳴りが、月山富田城の最期を告げていた。
城門近くにひっそりと佇む古井戸――地下実験室へと繋がる隠し通路の出口で、宗茂はもがき暴れる男を担ぎ上げていた。
「放せっ! 私は残るんだ! 皐と一緒に……眠らせてくれ!!」
泥と埃に塗れた義久が、狂乱して叫ぶ。話せと背中や頭を叩かれるが、非力な男の力など、宗茂にとっては痛くも痒くもない。まさに無駄な抵抗だった。
だが、宗茂の足取りはひどく重い。
(……僕は、どうすればいい)
宗茂は血が滲むほど強く唇を噛み締めた。
領民を犠牲にしてまで禁忌に手を染めた義久の罪は、決して許されるものではない。生かして連れ出し、裁きを受けさせる。それが武士としての、大将としての正しい責務だ。
しかし、泣き叫ぶ義久の姿に、宗茂の『子』としての心が悲鳴を上げていた。
愛する家族にもう一度逢いたい。共に眠りたい。その痛切な想いが痛いほど理解できてしまう。自分だってそうだった。
あの雨降りしきる耳川で、火の手上がる高屋城で、父や母、敬愛する師と最期を共に出来ればどれ程良かっただろうか。
本当ならば、娘の側に居させてあげたい。己の内でせめぎ合う正義と情の板挟みになり、宗茂はただ、後ろ髪引かれる思いで地下室を後にすることしか出来なかった。
その時だ。今にも崩れ落ちそうな城内から、一つの影が姿を現した。
「宗茂殿!」
一ノ瀬雪夏だった。満身創痍の彼女は、その背には何故か絡繰人形――サツキを背負っていた。
(あぁ……羨ましい……)
宗茂は絡繰の真実を知っている。
あの絡繰人形は鉄の身体ではあるが、義久にとっては"妻"そのものなのだ。
きっと、彼女はそんなことは知らない。
それでもここへ"連れてきた"のだ。義久へ逢わせるために。
彼女には本質を見抜く力がある。それがどこまでも羨ましかった。自分には無いものだから。
(僕も……決断しなくちゃ)
宗茂は義久を乱暴に下ろし、足踏みにする。そして、己の情を断ち切るように、震える手で刀を抜いた。
「……覚悟」
努めて冷静に、冷淡に、声が上擦りそうになるのを宗茂は必死に堪えた。
しかし、上段に構えた刀は振り下ろされること無く、音を立てて地面へと転がった。
「……駄目だ。僕には、出来ない」
その光景を固唾を飲んで見守っていた雪夏、静かにサツキを床へ下ろした。そして、躊躇うことなく宗茂の胸元へ歩み寄り、その震える背中を優しく抱きしめた。
「もう、良いんだ」
「雪夏……」
「もう、十分だよ。宗茂殿」
温かな抱擁と、責務から解放するような優しい声。
その瞬間、宗茂の心を雁字搦めに縛り付けていた見えない糸が、ふつりと切れた。
足の力を緩め、義久の拘束が解かれる。
「あぁ、サツキ……!」
自由になった義久は弾かれたように駆け出し、床に伏すサツキを見つけるや否や縋り付いた。
「無事かい、ひどい傷だ……っ」
義久は彼女の冷たい鉄の身体を抱き寄せ、その身を案じるように何度も撫でた。
「ますたー……申し訳ありません」
「良いんだ……君が戻ってきてくれて嬉しいよ、サツキ」
宗茂は義久の姿にいつしかの自分を重ねる。
これで良かった。心からそう思える姿だった。
宗茂はその光景を静かに見届け、憑き物が落ちたようにほんの僅かに微笑んだ。何が正しいのかは、まだ分からない。だが、今の自分の選択に後悔はなかった。
「行こう、雪夏」
宗茂は雪夏の手を取り、崩れゆく城跡を背に歩き出す。
かつての幻影を振り返ることはしなかった。
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崩落の轟音が響く地下実験室。
義久は、動けなくなったサツキの肩を抱きかかえながら、愛しい娘が眠る巨大な円筒の前に辿り着いていた。
「魂の定着率、零……。すまない、皐。失敗してしまった……今度は側にいるからね」
膝を突き、円筒を愛おしそうに抱く義久。
その背中に、サツキが静かに寄り添った。
「ますたー……常識的に考えて、私の心臓部を移植対象に設定することを推奨します。この核は新型との繋がりが強い。定着の成功率は飛躍的に上昇すると演算されます」
「馬鹿なことを言うな! そうしたら、君はどうなる!?君まで失ったら、失敗したら私は……!」
激昂して振り返った義久は、妻の面影を宿したサツキの微笑みを見て、言葉を詰まらせた。
「早月……?」
「はい、ますたー」
義久が見たのは幻影か。
しかし、彼は自分が信じたい物を信じることにした。"失敗することを恐れるよりも何もしないことを恐れろ"。
それがこの世界に転移する前から、義久が『本間宗次郎』が掲げている誇りだった。
いつだって挑戦を続けてきたからこそ今がある。
「……ああ。そうだな、早月」
義久は涙と共に頷いた。
頭上から巨大な瓦礫が降り注ぐ中、彼は迷いなく愛娘のための工具を手に取った。
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