第9話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
城全体を揺るがす激しい地鳴りが不規則に響いている。どれ程眠っていたのか……私は目を覚ました。何だ、この揺れは。
「……くっ」
全身の骨が軋む。だが、起き上がれない程ではないな。外もまだ暗いままだ。丸1日寝ていたのでなければ、そう時間は経っていないはずだ。
しかし、先程の揺れは地震だろうか?早くこの場を離れなければ。
身体を起こすと、結果的には相討ちとなったはずのサツキ殿がその場所に居なかった。
相手がまだ動けるのに気を失うとは、不覚っ……!
慌てて辺りを見渡せば、すぐそこで這うように動いているサツキ殿の姿があった。
私の方へは目もくれず、恐らくは身体の一部がが機能不全となったのか、右腕だけの力を使って階下を目指している。
「……"宗次郎"の、もとへ……」
「……っ!?」
再び天守が揺れ、戦闘によって既に痛んでいた支柱が軋み始めて遂には折れた。
「危ない!!」
支柱はまるで狙いを定めたかのようにサツキ殿の方へと倒れそうになる。私は咄嗟に跳ね上がり、避けることの出来ないサツキ殿へと向かう。
「一ノ瀬流剣術・一刀ノ壱《桜吹雪》!!」
倒れた支柱を剣圧ではね除け、私はそのまま這いつくばるサツキ殿を起きあげる。
「無事か!?」
「……?理解不能……私を助けるのは……合理的ではありません」
「危機に面している人がいるのに無視をしろと?そんな事が出来るわけないだろう?常識的に考えて」
サツキ殿は一瞬、呆気に取られたような顔を見せた様な気がしたが、すぐに元の仏頂面に戻ってしまった。
「……確かに、そうですね」
「あぁ、そうだろう?」
「しかし、サツキは人ではありません」
サツキ殿は私を払い除け、再び床に伏す。
「常識的に考えて、サツキなら無視をします。そのように命令を受けていません」
「……そうか」
私はサツキ殿を背負おうと肩を回す。再び揺れればこの天守は持たないかもしれない。
地震大国なのは異世界でも変わらないのか?
「何をしているのですか?一ノ瀬雪夏」
「何をってどういうことだい?早くこの城から脱出しないと危ないだろう。貴女もそのつもりで階段を目指していたのでは?」
「……理解不能。私は敵であり絡繰人形です」
「それがどうした?さっきから理屈っぽいな。確かにAIと会話している気分だよ」
絡繰人形だから当然なのか?
「貴女はさっき"宗次郎"の元へと仰っていたね。それは義久殿の本当の名だろう?そう呼ぶように命令を受けていたのか?」
「……受けていません。完全なえらぁです」
「ほら。貴女も同じだ。主君ではなく、義久殿を助けたいんだ。それはエラーなんてものではなく、貴女自身の心の声なんだよ。……よい、しょ」
私はサツキ殿を背負った。
なるほど。良い蹴りをするわけだ。中々に重い。しかし、見た目人間の身体に近いだけあり、僅かながらの柔らかさはあるな。
「本当に理解できません。私は絡繰人形です。心など……」
「ある。貴女が義久殿に愛されて造られたかよく分かった。着ている袴も素晴らしく上等だ。肌も柔らかく造られているし、ただの絡繰には到底思えないよ。綺麗事だと思うかい?」
これは断言できる。
義久殿はサツキ殿を妻と呼んでいた。そう言うのも納得な程、サツキ殿の身体は細部まで綺麗に作り込まれている。それだけじゃ、ないとは思うが。
「綺麗事かは解りません。しかし、思考回路が熱を帯びているのを感じます」
「ふふ。嬉しいってことかな」
私はサツキ殿の重い身体を背負い上げた。
「しかし、機体重量および、貴女の負傷状態を考慮すると……運搬は非合理かつ、不可能です」
「少し寝たから平気だよ。力も覚醒してから強くなったんだ……さあ、義久殿の元へと行こうか。サツキ殿」
「…………感謝します。一ノ瀬雪夏」
逡巡の後、サツキ殿は小さく答える。
さぁ、急いで下へ行かないと。
私は刀でサツキ殿の腰を支えて一気に天守を駆け出した。
「ふぅ…………確かに重いな」
「常識的に考えて、でりかしぃに掛ける一言だと判断します」
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揺れの感覚は徐々に短くなっていた。
サツキ殿が言うには城の倒壊が始まったらしい。私は未だ起動を停止していない罠をサツキ殿の指示で掻い潜り、何とか下へと向かっている。
途中途中見知らぬ絡繰兵の残骸が転がっているのは宗茂殿の手によるものだろう。
「はぁ、はぁ……後少しだ」
「はい。もうすぐ"宗次郎"が待っている地下に」
「……また、宗次郎と言ってるね」
「宗次郎……ますたーは異界では、一流の技術屋だったそうです。『浜松のえじそん』と呼ばれていたと自慢げに話していました」
元々技術者だからこの城に備わっている設備や絡繰などに現代実を感じるのか(サツキ殿以外は少しだけ古臭いが)……きっと界隈では名の知れた御仁なのだろうな。
もっと話をしてみたかった。
漸く城門まで辿り着いた。既に空は明け方で目を凝らさずとも視界が開けてきている。既に天守は崩れ掛け、揺れが起こる度に天井から瓦礫が落ちてくる程だった。
我々とほぼ同じくして城門近くの古井戸の方から悲鳴にも似た男の声が聴こえた。
「放せっ! 私は残るんだ! 皐と一緒に……眠らせてくれ!!」
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