第8話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
器の中にいる少女を嬉しそうに見つめる義久を、宗茂は茫然と眺めることしか出来なかった。
『その人を人となすのはなにかね?心だろ?』
宗茂はその言葉に強い衝撃を受けた。
確かに、義久の言う通りかもしれない。姿形が変わっていても、心があればそれは本物と相違ないのだ。目の前の男の執念ならば、それすらも可能にしてしまうのかもしれない。
親に……敬愛し、自らの手本としていた両親に、宗麟に、もう一度逢えるのなら……
その思いが溢れでて止まらないのだ。
しかし、武士として、誇り高き最期を向かえた彼らの死を冒涜するわけにはいかない。
子としての心と武士としての心。
まさしく相反する2つの心が今の宗茂をより苦しめる。
「愛する者にもう一度逢いたいと言うのは人として、当然の葛藤だよ。恥じ入ることはない。もう時期"サツキ"の魂が再びこの"器"へと宿る。そしたら君の大事な人たちも私が"作り直して"あげるからね」
「……その子のように?」
「ん?御遺体はないのかね?まぁ、心配する必要はないよ。別個に"核"を用意すれば良いさ。この"サツキ"と同じように時間はかかるがね」
「……"核"?」
「上にいたサツキのように本人の"核"があれば定着は早かったのだがね。私も早計が過ぎたと後悔しているよ。しかし、このサツキを造り始めたのは皐を弔った後だったからね」
「……ちょっと待ってください」
宗茂には拭いきれない疑問があった。
「その口振りだとまるで遺体が必要だったみたいではないですか。"核"とは一体何ですか?」
「ん?気になるのかい?なら少しだけ説明してあげよう。絡繰人形と絡繰兵は構造が少し異なっていてね。鉄の身体だと言うのは同じだが、絡繰人形は"早月"本人を使用しているのさ」
「!?」
「勿論、全てではないよ?主に美しい皮膚や骨格。そして、核となる『心』」
聞けば聞くほど泥濘に嵌まるような感覚だった。元々話の半分以上も理解は出来ていなかったが、自分なりの解釈をしようとしていた。
しかし、もし自分の解釈が合っていれば、義久の行っていることは死への冒涜処ではない。
「……では、その『心』とは、そこに眠る"サツキ"を目覚めさせて、何を持ってして"皐"の心があると言うのですか?」
宗茂は問いかける。義久は先程、サツキを『作り直した』と言っていた。
では、目の前の器の中で眠る『少女の姿』は、一体何なのだ。
義久は、まるで子供に教えるような無邪気な笑顔で答えた。
「心は当然、心臓に宿るのさ。本来はね」
「心臓……?」
「そう。絡繰の核は"心臓"なんだ。上のサツキも、妻である早月の鼓動を止めた心臓を使っているのさ。しかし、皐の心臓はもう灰だ。"代用"を使うしかない。口惜しいがね」
薄々気付いていた。
しかし、余りにも荒唐無稽な話に頭が理解を拒んでいたのだ。
「まさか……その代用って。いや、それだけじゃない。絡繰兵の核も……!?」
「当然、心臓だよ。領民たちのね」
義久は悪びれる様子もなく、あっさりと肯定した。
「サツキを完璧に直すための実験さ。失敗は許されないからね、何度も何度も練習するしかなかった。そのせいで城下の領民は全て居なくなってしまったけれど……おかげで完璧な絡繰人形と、たくさんの絡繰兵を作り上げることが出来たんだ」
その言葉に、宗茂の頭が真っ白になった。
大勢の民を犠牲にして、自分の娘を蘇らせようというのか。領民を護るために剣を振るってきた宗茂にとって、それは到底理解できない、許されざる蛮行だった。
「ふざけるな……! 大勢の犠牲の上に成り立つ命に、何の価値がある! 僕なら……そんな命など絶対に受け取れない!」
しかし、義久は全く動じず、ただ悲しげに宗茂を見つめ返した。
「君に、我が子を想う親の気持ちがわかるかい? 全てを投げ打ってでも、ただもう一度だけ父上と呼んでほしいと願う、この親の絶望が」
「……なら、貴方に! 親を案じ、多くの死を背負って生きる子の痛みがわかるのか!」
宗茂の脳裏に、自らを盾にして散っていった道雪と紹運、宗麟の姿が焼き付く。
義久は薄く微笑んだ。
「平行線だねぇ。これ以上話しても無駄のようだ」
『インストォル、完了』
「皐の魂が核に定着したようだ。これで目覚めるぞ……!私たちの愛しの我が子が!!」
突如として、耳をつんざくような音が地下室に響き渡る。巨大な円筒の培養液が激しく光り泡立った。
「……!?何が起きた!!!」
光と音が収まっても、円筒の中の少女が目を開くことはなかった。ただ、冷たい水の中で静かに揺蕩うだけだ。
「……何故目覚めない、サツキ! 皐!!」
義久が血走った目で器を叩き、絶叫する。
「……拒否しているんだ」
「なんだと……?」
「彼女は、大勢の犠牲の上に成り立つ命など望んでいない。……もう、眠らせてあげてくれ」
「違う! 違う違う違う! そんなはずはない!!……そんな訳……」
「義久殿!」
「魂の定着率……零パァセント……だと」
完全に焦燥しきった義久は、頭を抱えて後ずさり、背後の柱の窪みに強く手を押し当てた。
突如、地下室全体が激しい地鳴りと共に揺れ始めた。
「一体何を!?」
「もう一度、もう一度だけ逢いたかったんだ……これが最期の挑戦だった……もう、終わりだ……」
義久はその場にへたり込み、娘の眠る器に寄り添う。
「私はここでサツキと眠る。絡繰兵も時期に活動を停止するだろう。君も早く逃げると良い。この城は……崩落するからね」
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