第7話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
三郎殿の一撃は完璧だった。
サツキ殿の身体が吹き飛び、壁に激突して大きな亀裂を作る。
「よっしゃ!」
「見事だ!三郎殿!」
「へっ……!これで宗茂様の元へ向かえるな、急ぐぞ!」
「あぁ!」
勝負は決した。そう私と三郎殿は確信し、階段へと向かおうとしたが、背後から飛んできた矢じりが前方の壁に突き刺さる。
恐る恐る振り返れば、サツキ殿の長い脚がこちらへ向けられていた。"足先"がスライドして足首があったであろう場所から再び矢が飛び出す。
「なんでもありか!!ちくしょうが!!」
私と三郎殿は左右へとそれぞれ回避する。
「……戦闘継続。だめーじは……常識的に考えて、許容範囲内です」
確かに手応えはあった。しかし、サツキ殿は異も介さない様子でこちらを窺う。平坦な、まるで本当にダメージがなかったかのようにすら感じた。
「本気かよ……」
「あの一撃を受けて立ち上がれるとはね。義久殿が絡繰兵と同じにするなと言うのも頷ける」
「感心してる場合か!行くぞ!」
そこからの戦いは、文字通りの地獄だった。彼女はすぐに立ち上がる。
何度も、何度でも。
我々の攻撃が効いているのかどうかすら分からない。手応えすらも無くなったように感じる。
まるで限界を知らない無尽蔵の体力だ。ここは人間ではなく絡繰か……!
私たちの体力の方が確実に削られ、息が上がり始めていた。
「はぁっ……はぁっ……! なんだ、こいつは!」
「待て!三郎殿!!」
三郎殿の槍の軌道が、疲労でほんの僅かに鈍る。サツキ殿がその致命的な『隙』を見逃すはずがなかった。
「排除します」
三郎殿が手にしてる槍は無情にも蹴り上げられ、その反動で三郎殿も上体が大きく逸れてしまう。このままではマズい!
「一ノ瀬流剣術・一刀ノ参《秋桜》!」
三郎殿に向けられた槍先を咄嗟に受け流すがサツキ殿の勢いを止めることは出来ない。
そのまま上体を捻り、身体を側宙返りさせ、重い脚が私の肩にのしかかる。
「がはっ……!?」
床に叩きつけられ溜まらず血を吐く。
「雪下!!」
三郎殿の声が一瞬遠く感じた。
「三郎殿!避けて!」
「しまっ……」
重い衝撃音と共に、三郎殿の身体が天守の壁を突き破り、はるか場外へと吹き飛ばされていった。
「三郎殿ぉ!!!」
「常識的に考えて、次はあなたの番です」
サツキ殿の手はいつの間にか槌の形状へと換わっていたが、再び最初の刀の形状へと可変する。
視界が揺れる。三郎殿は無事なのか……?早く行かなければ……。ここで、ここで伏する訳にはいかない。立たないと……。
私は、刀を杖代わりにして、ゆっくりと立ち上がる。足の力が一瞬抜けるが、そのまま強く床を踏みつける。
「はぁっ……、まだまだ……これからだ」
「……理解、不能です」
サツキ殿の動きが、ぴたりと止まった。
そのガラス玉のような瞳が、私を真っ直ぐに捉えている。
「生体反応、低下。内蔵の損傷。肉体の疲労度、限界値を突破。常識的に考えて、立ち上がれるはずがありません。何故、そこまでして……?」
「私だって……分からないよ」
「……?」
私は荒い息を吐きながら、確かな熱を込めて告げた。
「だけど、込み上げてくるんだ。この力は何のためにあるんだ、と。我が主を……宗茂殿を大空へ羽ばたかせるための翼ではないのかと。私は決して倒れてはならない。『白銀の翼』は決して折れてはならない!」
その言葉が響いた瞬間。
サツキ殿の美しい顔に、わずかな綻びが生じたように見えた。
「常識的に考えて、『一ノ瀬雪下』は翼ではありません。その理屈は通りません」
「理屈なんてないよ、サツキ殿。貴女は主を、義久殿を何故守るのに理由があるのか?」
「理由、そう指示を……」
「指示がなければ主を見殺しに出来るのか?貴女は絡繰人形だから命令しか従えないのか?」
私は精一杯丹田に力を込め、杖代わりをしていた刀の刀身を抜き、正しく構え直す。
「そんなことはないはずだ。私が立つ理由も貴女が立ち塞がる理由も全て同じ、そうだろ?」
「理解……不能です」
「理解しなくても構わない!心に従ってる、ただそれだけだ」
再び私とサツキ殿の刀と刀が混じり合う。
サツキ殿の動きが僅かながらに鈍っているのを感じる
「それと、一つ訂正させてほしい!」
「……?」
「私の名は『一ノ瀬雪夏』!そして、この身に宿す魂の名は『由布雪下』だ!!」
「……!?」
(斬釘截鉄——)
宗茂殿が教えてくれた言葉が脳裏に蘇る。
迷いを断ち切り、鉄をも斬り裂く強い意志。
何を斬るべきか。私の刃が断つべきものは何か、すでに答えは出ている。
迫り来るサツキ殿の一太刀を紙一重で躱し、私は静かに踏み込んだ。
「——はぁっ!」
刃が、サツキ殿の胴体を真横に一閃する。
「……見事」
サツキ殿はその場に俯せになって倒れた。
「鉄を"断ち切る"まではいかないか……結局迷いが生じてしまったかな。私も修行が足りない」
ふらつきながらも太刀を鞘に納める。
早く、三郎殿を……探さ、ね、ば……
私の意識はそこで途切れた。
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