第6話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
井戸の横にある隠し階段。宗茂は前を行く義久の背中を追っていた。
やろうと思えばすぐにでも制圧できる。しかし、『君が父親に逢えるように私が協力してあげよう』この言葉が耳から離れないのだ。
『お前を父親の元へ送ってやる』の言い回しにも聞こえるが、義久の狂喜的に光る目。あれは言葉通りの意味で言っていることは理解ができた。
「さぁ、この扉の奥で"娘"が眠っているんだ。少し散らかっているが、部屋の物には触れないでくれよ?"配置"と言うものがあるからね」
促されるまま、宗茂は義久に続き隠し地下の部屋へと入った。
そこはあの異様な天守とは比べようのない名状しがたき光景だった。
最初に目を引くのは部屋の最奥で怪しく発光する筒状の器だ。よく見ると色の着いた水、なのだろうか。それがその器全体を満たしている。何よりも異様なのが、その器の中で膝を抱えて浮いている"少女"の姿だ。
「なんだ、"これは"……」
「娘の『サツキ』だよ」
「娘って……一体何故、こんな……?」
宗茂には目の前で起きている事象も、義久の言葉も全てが理解できないことだった。自分の知る世界とは余りにもかけ離れている。この世界とは別の理に生きていた彼女。雪夏ならば理解できる光景なのだろうか?
「この世界、面白いよねぇ」
義久は話し始める。
「ここの文明レベルはどうあっても低い。私の知ってる戦国時代と同等だろうね。だから、最初は小説の話みたいにタイムトラベルしたのだと思ったよ。機械いじりが大好きでねぇ。これから独立だって時にこんな時代に来てしまったものだから絶望したよ。そんな時にね、私を拾ってくれたのが"サツキ"だったんだ」
「その……娘のこと?」
「あぁ、ごめんね。"早月"と"皐"。妻と娘は同じ名前なんだよ。漢字は違うがね。読み方は一緒。素敵な名前にしたいと思ったら妻の名前以外思い浮かばなかったのさ」
義久は愛おしそうに器の中の少女を見つめる。
「出雲にね。不思議な魔物が生息しているのさ。そいつから鉱石が取れるんだが、なんとね!死んだ後部位によって物質が変わるのさ!夢のようだろう?一体討伐すればアルミやチタン、鉄なんでもござれさ!興奮したよ……!尼子家の暮らしを豊かにする発明をし、私は婿養子として温かく迎え入れて貰った。争いの道具は作らなかったけど、それでも大殿様も義父様も私のことをよく褒めてくれたものさ」
「……あの、絡繰兵は?争いの道具の最たるものじゃないか!」
「……あれはプロトモデルと伝えたろう?」
「プロトモデル……?」
「あぁ、すまないね。君の容姿で片仮名が通じないのも面白いよ。おっと、君の容姿を愚弄している訳ではないのだからそんな怖い顔しないでくれよ。つまりは試作量産機さ。上に居たサツキを"直す"ためにね」
「"あれ"が、妻だと言っていたが……」
「妻も娘も病に倒れてしまったからね。私が"作り直さなければ"ならない。だからその為に実験をしたのさ。機械いじりは大好きだがああいった類いは専門外だからね。たくさん失敗してしまったが、ようやく完成した"自信作"だよ」
何処までも歪だった。
妻と呼びながらも作品として扱う。恐らくは義久自身にも分からなくなっているのだろう。
ただ、彼の心は当に壊れていることだけは宗茂にも分かった。その気持ちすらも。
「まさに天啓だったよ。『とある御仁』が設計図だと寄越してくれたのさ。絡繰兵とそれを応用した絡繰人形のね。『彼』は……いや、『彼女』だったかも?何度か御逢いしたが、逢う度に姿が違っていてね。まぁ、この世界では些事なのだろう?」
「貴方は妻や娘が絡繰の姿であっても愛することが出来るのですか?」
「できるさ」
悩むことなく義久は答えた。
余りにも真っ直ぐな言葉に宗茂も少したじろいでしまう。
「先程の話ではないが、姿形が変わることなど些事だ。人間だって衰えれば顔も変わる、当然のことではないか。ならば、その人を人となすのはなにかね?心だろ?」
「心……?」
義久は振り返り、宗茂の目を真っ直ぐに覗き込んだ。
「そうさ。先程の娘さん。雪夏と呼ばれたり雪下とも呼ばれていたね、何故だい?」
「彼女は名前は一ノ瀬雪夏。別の世界から転移してきた。そして、覚醒を果たして由布雪下と言う戦国武将の魂と……」
問われるがまま、宗茂は言葉を紡いでしまう。義久の持つ異様なペースに完全に呑み込まれていた。
「では、彼女は一ノ瀬雪夏であり、由布雪下でもあると言うことだろう?何か変わるのかい?由布雪下に……覚醒?をしたからとは言え、彼女は彼女ではなくなったのかね?」
「……彼女の、ままです……」
宗茂は頷くしかなかった。
この男は間違いなく狂っている。だが、その狂気から導き出された論理は、あまりにも純粋で、宗茂には反論する言葉が見つからなかった。
「しかし、その『覚醒』というのは実に面白いねぇ。別の世界の魂を、つまりは2つの魂を宿している者がいると言うことかい?」
「……」
「まさか、設計図にあった『あの内容』に覚醒と言う名が付いているとはね。最初から注意書きしてくれれば良いものをあの御方も人が悪いねぇ。いや、最初から悪い人なのかな」
義久はもはや宗茂には構わず、独り言のようにぶつぶつと呟きながら天井を見上げ、ゆっくりと口角を吊り上げた。
「私がサツキに組み込んだもう一つの『魂』が、君たちの言う『覚醒』にどこまで通じるか……これは疑似覚醒というやつかな?上が少し楽しみじゃないか」
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『願わくば……我に七難八苦を与えたまえ』
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