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第4話

★戦国武将×偉人★

混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!

 迫り来る無数の刃を、私は小太刀の峰と体捌きだけでいなしていく。


「一ノ瀬流剣術・二刀ノ壱《霧雨》——!」


 小太刀の鞘で手首を打ち、膝裏を蹴り、小太刀の柄で鳩尾を突く。命を奪わないよう極力手加減をしながら無力化していく。


 しかし、キリがないな……。

 この数では根気比べになりそうだ。


「ちぃっ、ちょこまかと! 構うな、この女は後回しだ! 先に後ろの村人をやっちまえ!」

「なっ……!」


 く、油断したか!

 私の太刀筋が一瞬鈍ったその隙を突かれ、三人の野盗が私を迂回して広場の奥へとなだれ込んだ。

 その先には、逃げ遅れた村人たちが身を寄せ合っている。


「やめろぉっ!」


 無骨な鉈が、村人たちへ向かって無慈悲に振り上げられる。

 届かない。

 このままでは彼らを護れない——!


「一ノ瀬流剣術・一刀ノ壱《桜吹雪》——!」


 理屈より先に、身体が動いていた。

 手首を返し、これまで頑なに避けていた小太刀の「刃」を、男の背中へと一閃する。


——斬ッ。


 肉を断ち切り、骨を滑る、生々しくも重たい感触。直後、むせ返るような鉄の匂いと温かい液体が私の頬に飛び散った。


「が、ぁ……っ」


 男が血飛沫を上げてその場に崩れ落ちる。


『人を、斬った』


 その事実が、私の脳髄を激しく揺さぶった。 紛れもない人間を、この手で殺めてしまったのだという凄まじい嫌悪感と恐怖。


「あ……、あぁ……っ」


 小太刀を握る手が小刻みに震え、足がすくむ。

視界がグラグラと揺れ、周囲の怒号が遠退いていく。


「隙ありだ、小娘ぇ!!」


 背後から迫るおぞましい殺意。

 ハッと振り返った時には既に遅く、私の頭上へ巨大な刃が振り下ろされようとしていた。


——キィィンッ!!


 澄んだ鋼の音が夜の広場に響き渡った。

 野盗の刃は私には届かず、横から差し込まれた美しい白銀の太刀によって、いとも容易く弾き返されていた。


「なっ……!?」


 驚愕する野盗の首筋を、一陣の旋風が撫でる。次の瞬間、男は声すら上げずに崩れ落ちた。


「よく持ちこたえたね。あとは僕が引き受けるよ」


 透き通るような声の主は、白銀の甲冑を身に纏う、金髪蒼眼の美少年だった。

 彼は流れるような所作で血振るいをすると、私の背後へ向かって鋭く指示を飛ばす。


「三郎! その子を村人たちと一緒に安全な場所へ!」

「おう! ほら小娘、邪魔だ。こっちへ来い!」


 いつの間にか背後に迫っていた三郎と呼ばれた傷だらけの男に腕を引かれ、私はよろめきながら広場の端へと退避させられる。


「離せ、私は……!」

「足手まといだ、大人しくしてろ!」


 三郎の強引な力に抗えず、私は広場の中央に残った少年の姿をただ見つめることしかできなかった。


 月光と松明の炎に照らされた彼の戦いは、凄惨な血の海にありながら、酷く不釣り合いなほど気高く、美しかった。

 四方八方から群がる殺意を涼やかな蒼眼で捉え、一切の無駄がない歩法で刃を躱し、流麗な軌跡を描いて敵を斬り伏せていく。


『美しい——』


 ドクン、と心臓が大きく跳ねた。

 先程まで私を支配していた、人を斬ったことへの恐怖や嫌悪感。それが嘘のように薄れ、視界が彼の舞うような剣技だけに染まっていく。


 見惚れていた。

 そして、激しく焦がれていた。

 ただ庇われるだけの存在ではなく、あの美しい旋風の隣に立ち、一緒に戦いたいという圧倒的な羨望が、私の全身を熱く焦がしていく。


「あぶねぇッ!!」


 隣で三郎が悲痛な声を上げた。

 少年の鮮烈な戦いぶりに目を奪われた野盗たちが、死角である真後ろから音もなく槍を突き出そうとしていたのだ。


「”これ”借りるぞ」

「あ……てめぇ、何しやがる!?」


 横にいた三郎の腰から無造作に太刀を奪い取り、私は地を蹴った。


「一ノ瀬流剣術・一刀ノ壱《桜吹雪》——!」

「速ぇ……なんだ、それ」


 一足で十メートル近い間合いを詰め、少年の背後へ迫っていた野盗の懐へ潜り込む。

 振り抜いた刃は一切の迷いなく男の胴を薙ぎ払い、反転の勢いのまま、続くもう一人の首筋に太刀を叩き込んだ。

 私は小さく息を吐いた。


「……怪我はないか?」


 太刀を真っ直ぐに構え直した私に、金髪の少年がゆっくりと振り返る。

 彼は足元に転がる野盗と、私の血に濡れた刃を交互に見つめた後、ふっと優しく微笑んだ。


「助かった。君は……”まだ”戦えるんだね」


 四方からは、残った野盗たちが憎悪を剥き出しにしてじりじりと間合いを詰めてきている。

 少年は白銀の刃を構え直し、静かに私の背中側へと自然と立つ。


「背中を、預けてもいいかい?」


 振り返らずに放たれたその言葉に、私の口角がつり上がる。初めて感じるこの気持ちはなんだろうか。

 しかし、返す言葉など一言考えられない。


「無論だ!」


 私と彼が野盗を殲滅するまでにそう時間は掛からなかった。

ご覧いただきありがとうございます!

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