第3話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
「いやぁ、めでてぇ! 今夜は祭りじゃの!」
「ほんなこつ困っとったじゃ。ありがたかぁ」
十吉くんの説明と、苦労して運んだ山の主の肉が証明になったのか、怪しまれることもなく(やましいことはないのだから当然だが)、ありがたいことに私は村人たちの歓迎を受けた。
十吉くんからも聞いていたが、大人の実体験もある生々しい話は山の主に対する村人の恐怖や不安を知るに十分だった。それだけに退治することが出来て本当に良かったと思う。
ただ、唯一疑問を挙げるとすれば……
「少し、気になる事があるのだが、良いだろうか?」
「なんじゃ?」
「先程も申し上げたように、私には魔物退治の心得が(嘘だが)ある。だけど、それを差し引いても決して討伐できないような魔物には感じなかったのだが……」
空気が一瞬にして凍るような様を感じた。しかし、一瞬伏し目になった村の翁たちも逡巡した後に目の前に座っていた口髭が立派な翁が口を開いてくれた。
「こん村に来て、気付いたことはなかと?」
「気付いたこと……?」
私は反射的に辺りを見回したが言われてみれば最初から違和感はあったのだ。会う方一人ひとりと挨拶を交わしたが、思い返せばこの村には"ある人たち"が居ない。
「若い男……少なくとも働き盛りと言える男性が居ない?」
そう、子供を連れてる女性や十吉くんのように少しだけ痩せては居るが、私と同じくらいと思われる少女もいる(私が少女と呼ぶに似つかわしい外見かは別として)。しかし、男性がいない。
それこそ村の男児では一番年長なのは十吉くんかもしれない。後は畑仕事をしている分よぼよぼとは言わないまでも、少しだけ頼りない肉付きの翁ばかりだ。
「戦にの。駆り出されてしもったじゃの」
翁のその言葉を聞いて、私は昼間に十吉くんが語っていた言葉を思い出した。
『父ちゃは戦に行って、そのまま帰って来なくて……』
室町か戦国か…いずれにせよ国同士で戦がある時代なのだろう。
この村の働き盛りの男たちは皆、どこかの大名に徴用されてしまったのだ。だから、村には女子供と年老いた者しか残されておらず、山の主という脅威に抗う術を持たなかった。
平和な時代で育った私には想像もつかない、あまりにも残酷な現実。
戦火が直接届かなくとも、戦はこの小さな村から確かに日常を奪い去っていた。
「……無遠慮なことを聞いてしまった。申し訳ない」
「いやいや、謝るこたぁなか。あんたは村の恩人たい。さあ、冷めんうちに食うてんしゃい」
「姉ちゃ、山の主ばおいしとね!」
翁の皺が深く刻まれた笑顔と十吉くんの笑顔に、私は少しだけ救われた気がした。
もし私がこの世界に落ちてこなかったら、十吉くんは、そしてこの村の人々はどうなっていたのだろうか。
私が温かい汁物に口をつけようとした、その時だった。
『――カンッ! カンッ! カンッ!』
突如として、村の静寂を切り裂くような半鐘の音が鳴り響いた。
歓迎の空気に包まれていた村人たちの顔が、一瞬にして凍りつく。
「な、なんね!? こげな夜更けに!」
「村長! お、おおごとたい! 山の裏手から、や、野盗の群れが下りてきとうばい!」
血相を変えて駆け込んできた村人の言葉に、私は弾かれたように立ち上がった。
「野盗だと……!?」
数は、と問う前に、外から聞こえてくる無数の足音と松明の明かりが異常な事態を告げていた。ざっと見積もっても二十や三十ではない。働き手がいなくなったこの小さな村を制圧するには、あまりにも十分すぎる暴力だ。
「お、おなごと子どもば避難させんか! なんでもよか。使えそうなもんは全部持ってきんしゃい!」
怯える村人たちの悲鳴を聞き、私は迷うことなく傍らに置かれていた十吉くんの亡き父親の小太刀を手に取った。
「十吉くん、君も逃げなさい!私も戦う。また、この小太刀を借りるよ」
「ね、姉ちゃ……」
「大丈夫。魔物に比べたら、人間の相手の方が造作もない」
十吉くんの震える手を優しく解き、私は努めて明るく笑ってみせた。
強がりではない。
幼い頃から母に叩き込まれた稽古の数々を思えば、素人が振り回す刃など止まって見える自信がある。
「早く皆と一緒に隠れて!」
十吉くんの背中を押し、私は悲鳴と怒号が交錯する広場へと飛び出した。
燃え盛る松明の明かりの中、すでに数人の野盗が逃げ惑う村人へ刃を振り上げようとしている。
「一ノ瀬流剣術・一刀ノ伍《枝垂桜》――」
私は地を蹴り、男たちの懐へ潜り込んだ。
振り下ろされる鉈の軌道を最小限の動きで躱し、手にした小太刀の柄尻で的確に鳩尾を突き上げる。
怯んだ隙に手首を打ち据えて武器を弾き飛ばし、流れるような連撃で三人を瞬く間に地面へと這いつくばらせた。
「……ふぅ。やはり、この程度か」
手応えの無さに息を吐く。粗暴ではあるがやはり素人。体格差も大きくはない。
これなら私一人でも、村の皆を十分に護りきれるだろう。小太刀を握り直し、そう確信した時だった。
「おい! 先陣がやられたぞ! 女だが手練れだ、囲め!!」
怒号と共に、山の裏手から次々と新たな松明の炎がなだれ込んでくる。
五、十、十五……暗闇から湧き出すように現れる野盗の群れに、広場はあっという間に埋め尽くされてしまった。
その数、ざっと見積もっても二十は下らない。
「くっ……!」
この人数を無力化し、制圧できるか……?
しかし、ここを一歩でも退けば、後ろにいる十吉くんたちが容赦なく殺されてしまうかもしれない。
「やるしかない……!」
私は小太刀を強く握り締め、黒い波のように群がる野盗たちへ向かって真正面から駆け出した。
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