第4話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
月山富田城、天守。
絡繰兵や無数の罠を抜け、ついに私たちは最上階の襖を蹴り破った。
当主が座す、荘厳な広間――私たちは無意識にそんな光景を想像していた。
しかし、目の前に広がっていたのは異様な空間。畳は剥がされ、部屋の至る所に未知の金属部品やガラス管、そして幾重にも巻かれた奇妙な図面が散乱している。まるで、町工場のようではないか。
「んん? おや……」
部屋の奥。机に向かって何かの作業をしていた男が、鬱陶しそうに振り返った。
無精髭を生やし、着物の着崩れなど一切気にしていない様子の男。そしてその後ろには、息を呑むほど美しい一人の女性が無表情で控えている。
この男が尼子義久……?
追い詰められているとは言え一国の主としては余りにも覇気がない。
「侵入者が来たと言うから、てっきり毛利のお嬢さん達かと思っていたが……どちらさまだい?」
あまりにも間延びした、惚けたような声。
自らの居城に刃を持った敵が踏み込んできたというのに、男には欠片ほどの緊張感もなかった。
「毛利軍、立花宗茂だ。尼子義久殿とお見受けする。――大人しく投降して、絡繰兵を止めるんだ。抵抗するなら……その首、貰い受けるよ」
尼子義久殿は興味なさげに首を傾げた。
「立花……立花……。あぁ、九州の立花かい。君も確か有名人だったねぇ。まあ誰でもいいさ。君たちが派手に暴れてくれたおかげで、旧型の『プロトモデル』から実戦の『デェタ』がたっぷり取れたからね」
プロトモデル? データ?
この世界の言語は戦国時代に近い。英語も和製英語も伝来の物以外ではそう多くは使われていないはずだ。
「ん?あぁ、そうか。一応名乗っておくかい。私が尼子義久で間違いないよ。ただ、覚えておく必要はない。すぐに退散するからね」
「逃がすと思うのかい?」
宗茂殿が一歩前に出て、静かに刀の鯉口を切る。
しかし、尼子義久殿はどこ吹く風だ。
「残念だけど、私は尼子義久を名乗ってはいるが、戦闘能力は皆無でね。争い事は苦手なのさ」
「名乗っているとはやはり貴方も転移者か?」
「転移者?なるほどそうか。私のような人間を転移者と呼ぶのかい?歴史にはそこまで詳しくなかったが、毛利元就が女性だとは聞いたことがないからね。魔物と呼ばれる謎の生き物も生息しているし、別の世界とは思っていたが転移か。勉強になったよ」
尼子義久殿は頭を掻きながらも嬉しそうに手にした手記にメモを取る。
……当たり前のように"鉛筆"を使っている。こんな現場では今さら驚かんが……
「さて、立花さんやそこのお兄さんには興味ないが、君は色々知ってそうだねぇ。もう少し話を聞かせてくれてもいいんだよ?」
「申し訳ないけど……そこまで時間はかけられないんだ」
瞬間。
宗茂殿が神速の踏み込みで尼子義久殿との間合を一気に詰める。流石の速さだ。
その刃は尼子義久殿の首筋へと真っ直ぐ向かう。
「--サツキ」
一瞬の出来事だった。
宗茂殿の刃は首級を上げることなく、甲高い音と共に防がれる。
「……やっぱり君も絡繰だったか」
宗茂殿が少しだけ悔しそうに呟く。
その刃を防いだのは義久殿の側で控えていた美しい女性だった。いつの間にか腕そのものが刀へと換装されている。
激しいつばぜり合いの後、女性は宗茂殿の腹を蹴り上げ、宗茂殿は躱すために間合を再び取らされる。
「平気か、宗茂殿!」
「大丈夫。彼女、中々手強そうだね」
「人だと思ったが、あいつも絡繰兵か?」
「プロトモデルと"サツキ"を一緒にしないでもらえるかい?」
義久殿は、傍らに控える女性の頬を愛おしそうに撫でた。サツキ……?
「ねぇ、サツキ。ほら、彼らに自己紹介をしてやりなさい」
「はい、ますたー」
これまで戦ってきた絡繰兵が発するような無機質なシステム音ではない。確かに声は平坦だが、人の声その物ではないか。
「自律支援型絡繰人形えーえむじー320。通称『サツキ』と申します。以後、お見知りおきを」
サツキと名乗った女性はゆったりと頭を下げる。
絡繰人形だと……?まるで人間だ。
「"妻"であり、私の最高傑作さ。……ああ、もう少しだ。あと少しで、失われた私たちの『宝物』が地下で目を覚ます」
義久殿は壁の一部に手を触れた。
重い音が鳴り、義久殿の背後の床が開き、四角く沈み込む。
「お喋りに付き合ってくれてどうもありがとう。私はやることがあってね、ここいらでお暇させていただくよ……サツキ、彼らの相手をしてやってくれ。時間はいくら掛かっても構わない。地下で待ってるよ」
「はい、ますたー」
昇降機か!
義久殿がその床へと移動するとそのまま下へと消えていく。
「宗茂殿!地下だ!」
「あぁ、急ごう!」
天守を後にしようと振り返るが、当然それを阻む者がいた。
「"常識的に考えて"通すわけがありません」
サツキ殿の大振りが我々の行く手を塞ぐ。
「ここを通りたくば私を倒してから行け、と言ったところか」
「時間を稼ぎすぎる程、僕たちが不利だ。本隊が持たない」
宗茂殿が不意に私と三郎殿の肩を叩く。
「じゃあ、後は頼んだよ」
宗茂殿はそう言うと脱兎のごとく階段へと続く入り口へ走るが、当然サツキ殿の凶刃が襲いかかる。
「--逃がしません」
瞬間、火花が散った。
私と三郎殿でそれを防ぎ、我らが主君は一瞥することなく、そのまま天守を後にした。
「 --よし!"ここは通さねぇ"!」
「すまない、サツキ殿。立場が逆転してしまったね」
地下へ降りていく宗茂殿の背中を見送り、私と三郎殿は残された『護衛』――サツキ殿へと改めて向き直る。
「"常識的に考えて"不愉快だと判断します」
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