第1話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
「ありえないありえないありえない!! なんで戦国時代に自律型の機械があるんだ!?」
背後から迫る、感情の欠落した無機質な駆動音。
私と三郎殿は、泥まみれになりながら出雲の山中を必死に駆け抜けていた。
「知るか! あれが毛利の言ってた尼子の『絡繰兵』って奴だろ!?」
三郎殿が後ろを見ながら毒づく。
私たちを追ってくるのは、木と金属で構成された人型の『何か』だ。息を切らすことも、怒声を上げることもなく、ただ一定の速度と歩幅で不気味に迫ってくる。
「魔法なら辛うじて納得できる!太古から奇術の類いは存在しているからな!でもあれは完全に機械じゃないか! 時代考証はどうなってるの!?」
「うるせぇ! 文句なら尼子の大将に言え!」
◆ ◆ ◆
「はぁ……はぁ……」
何とか追手を振り切り、毛利の本陣まで逃げ延びた私たちは、息を切らしながら床几にへたり込んだ。
「お帰りなさい。少しは尼子の『異常さ』が分かっていただけましたか?」
涼しい顔で茶を差し出してきたのは、毛利家の知恵袋・隆景殿だった。眼鏡の奥の瞳が、私たちを観察するように見つめている。
「……あれは、一体何なんだ」
私が息を整えながら問うと、半裸に大きな双峰をサラシで巻いだけと言う奇抜な容貌の元春殿が忌々しそうに鼻を鳴らした。
「あれが尼子義久の作った『絡繰兵』だ。あいつら、倒しても面倒なだけでつまらねぇ。何より……」
「何より、彼らは決して『疲労』も『恐怖』も感じません」
隆景殿が冷たい声で引き継いだ。
「我が毛利の大軍をもってしても、月山富田城を落とせない最大の理由がそれです。兵糧攻めも意味を成さず、あちらは休むことなく昼夜問わず完璧な防衛線を敷き続けている。……実に、狂った相手ですよ」
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遡ること三日前。
私たちは再び、毛利元就殿の広間に召し出されていた。
「紹介しよう。我が可愛い娘たち、毛利隆景と毛利元春だ」
「よろしくお見知りおきを」
「……おう。よろしくな」
眼鏡をかけた女性と、鼻息の荒い巨駆な女性が並んで立つ。
えっ?今なんと?
元就殿が静かに告げた。
「尼子討伐の策は決まっていたが、我が軍だけでは八割方死ぬ。故に初めは棄却したが……」
「しかし、駒が揃ったため、犠牲は軽く見積もって二割程度に収まるでしょう」
その言葉を受け、隆景殿が淡々と図面を指し示した。
「極めて合理的かつ簡単な策です。まず、我が軍の主力が正面から大立ち回りを演じ、敵の絡繰兵をすべて引き付けます。その隙に、少数精鋭が本丸へ突入し、操り手である尼子義久の首を獲る。以上です」
あまりにも真っ当な作戦だ。
「なんだ。まともな奇襲作戦じゃないか」
三郎殿が拍子抜けしたように言うと、隆景殿は冷たく眼鏡を押し上げた。
「囮となる部隊は、絡繰兵の猛攻により甚大な被害が出ます。生還は期待できませんでした。それでも最も効率が良いので採用しましたが……もっとも、問題は『突入部隊』の方です」
「あぁん!? 私が行けば、あんな鉄屑ども全員ぶっ壊してやるって言ったじゃねぇか!」
元春殿が、床を強く踏み鳴らして吠えた。
「姉様は黙っていてください。あなたは絡繰兵は壊せても、道中の罠をすべて力任せに踏み抜いて自滅するでしょう」
「なんだと! 罠ごと壊せば問題ないだろうが!」
「それが頭が悪いと言っているのです」
姉妹の言い争いを見て、我々は完全に理解した。
この作戦が棄却されていた理由は明確だ。仮に囮部隊の被害は許容できたとしても、本丸へ向かう精鋭が罠で全滅し、成功する確証が一切ない。
「……なるほど。そこで、僕たちの出番というわけですね」
宗茂殿が、静かに口を開いた。
「毛利軍が囮として敵を引きつける。その間に、罠を掻い潜り、確実に大将の首を獲れる『外の精鋭』が必要だった」
「ご名答です」
隆景殿の唇の端が、微かに吊り上がった。
「あなた方なら、この死地を越えられると計算しました。母様の推薦ですしね。私たちの手駒として、存分に働いてもらいますよ」
広間が一瞬、重い沈黙に包まれた。
しかし、私は先程から"あること"が気になりすぎて別の意味で我慢の限界が近付いている。
そろそろ、慣れなくては……
「……そもそも、その絡繰兵ってのは一体何なんだ? なんでそんなもんが--」
「ちょっと待ってくれ!!」
駄目だ……私としたことが真っ当な疑問を口にしようとした三郎殿の言葉を、全力で遮ってしまった。
こうなれば仕方があるまい。今はもっと重大な問題がある!
「失礼だが、お二人は元就殿のご子息で……吉川元春殿と小早川隆景殿で本当に間違いないのだな?」
「「はぁ?」」
私の突然の問いに、元春殿と隆景殿が同時に間の抜けた声を上げる。
「何故未だに毛利姓のままなんだ!? 史実なら『毛利の両川』として吉川家と小早川家に養子に出ているはずだろう! なにより、なぜ女性なんだ!?」
「はは。また、雪夏の知る歴史と違う所があったのかな?」
「オレが女なのは生まれつきだ!母様に強い身体で生んでもらったのさ!」
「それは良いことだな!しかし、それでは……」
「由布。何故我が娘たちを養子に出さねばならない?」
貴方が原因だったか。
合理主義なのに母親としての理性が強すぎる!
「……この非常時に何を言い出すかと思えば。本当に頭が痛いですね」
隆景殿が深々とため息をつき、冷ややかに眼鏡を押し上げた。
「戯言は終わりですか? では、直ちに出陣の準備を。これより月山富田城への潜入作戦を開始します」
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