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プロローグ

★戦国武将×偉人★

混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!

「皐(さつき)……眼を開けてくれ! 皐!」


 懇願は、冷たい虚空に消える。

 どれほど強く握りしめても、小さな手から熱が失われていくのを止めることはできない。床に伏した愛娘が、再びその愛らしい瞳を開くことはなかった。


 私は元々、この時代の人間ではない。

 この戦国の世、出雲の地に迷い込んだ一介の技術屋だ。


 見知らぬ世界で途方に暮れていた私を救ってくれたのは、尼子晴久公の美しく優しい娘。やがて彼女と結ばれ、婿養子『尼子義久』として尼子家に迎え入れられた私の人生は、まさに春の陽だまりのような幸福に包まれていた。

 戦や魔物もあったが、晴久様の配慮で前線に立つことはない。出雲の山深くに生息する魔物が落とす未知の鉱石が、『鉄』と似た性質であることを発見し、今までにない兵器を開発改良した功績が認められた故だ。


 この世界に順応し始めた頃、妻との間に宝物のような娘、皐が誕生する。

 1人きりのこの世界に始めて本当の居場所を得たように感じた。

 すべては、愛する妻と娘の笑顔を護るため。  

 その特異な素材を用いて、私は次々と新しい発明を世に送り出していった。

 晴久様が死去し、大国の当主という地位を得た所で、私にとっては2人を守るための研究環境を整える飾りに過ぎない。

 もっとだ。もっと豊かなくらしをさせねばならない。皐の世話をする『自律支援型絡繰人形』の試作を作り始めた。

 だが、運命の歯車は無慈悲に軋む。

 私が工房に籠りきりになっている間、皐は流行り病に倒れ、あっけなく私の腕の中で息を引き取ってしまったのだ。


「……違う。こんな結末、私は認めない」


 幸せにするんだ……こんなのは幸せじゃない! 

 慟哭する妻の隣で、私の思考は急速に冷え、そしてドス黒い熱を帯びていく。

 そうだ。私には、この時代の人間には理解できぬ高度な知識がある。出雲の未知なる物質もある。あの人形もあと少しで完成する。

 これからじゃないか。もうすぐ幸せになれる。

 だから、直せばいい。

 壊れた機械の部品を交換するように、この手で再び『命』を創り出せばいいのだ。

 

 私は寝食を忘れ、娘の"修理"に狂奔した。

 眠る娘の姿に妻は耐えられなかったのだろう。心を病み、やがて後を追うようにこの世を去っていく。

 大丈夫だ。お前もきっと私が直して見せる。


 あの日から、もう5年以上の月日が流れた。

 気が付けば、城下からは民の姿が消えている。負け戦が続き、将兵たちも離反し、広大だった尼子の領地はとうの昔に失われていた。

 残されたのは月山富田城と地下に築いた、この冷たく淀んだ実験室だけ。

 大丈夫。ここは日本一安全な場所だ。

 その程度で私の手は止まらない。止まるわけにはいかなかった。

 もう一度3人で暮らせるように。

 私はなんだってするさ。


「ふふ、アーッハッハッハッハ!! これであと少し、大願成就は近いぞ……!!」


 無機質な金属音と怪しげな駆動音が響く空間に、私の笑い声が反響する。

 部屋の中央にそびえ立つ巨大な円筒。緑色に濁った培養液に満たされたその中には、一人の少女が静かに眠っていた。

 私の愛しい娘『サツキ』。

 閉ざされたガラス越しに揺蕩うその姿。

 そこだけが、完全に時間が止まっているかのようだった。

ご覧いただきありがとうございます!

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