第7話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
野盗の集団を撃退してから早一週間。
囲炉裏の火が不規則に爆ぜ、薬草を煮出す匂いが小屋の中に漂っている。
「お侍様、お加減はいかがですか」
戸口から顔を覗かせた村長が、湯気を立てるお椀を差し入れてくれた。 あの日以来、村人たちは持てる限りの食料と薬で私たちの世話をしてくれている。
「ありがとうございます。おかげさまで、随分と体が軽くなりましたよ」
宗茂殿が笑顔で受け取ると、村長は安堵したように何度も頭を下げて去っていった。 事実、宗茂殿と三郎殿の傷は驚くほど順調に塞がってきている。
「よし! このまま傷が癒えれば、城を取り戻しに行けるな!」
私が意気揚々と提案すると、向かいで薬湯を啜っていた三郎殿が、呆れたように長いため息を吐いた。
「お前なぁ……今頃はあの龍造寺と島津が九州で幅を利かせてる状況だぞ。いくらお前がちょっとばかり強くなったからって、たった三人でどうやって城を取り戻すんだよ」
「うっ……それは、そうだが」
反論できなかった。 以前の私ならもしかすれば「一人でもなんとかなる」と突っ張っていたかもしれない(今もほんの少しだけ思っている、反省だ)。
宗茂殿も苦笑いしながら頷いた。
「三郎の言う通りだ。今の僕たちには、兵も物資も、何より後ろ盾がない。龍造寺と島津を同時に相手取るのは現実的じゃないよ」
「確かに勇み足ではあったが、このまま山奥に隠れているわけにもいかないだろう?何か手立てはあるのか?」
「そうだね……毛利家を、頼ろうと思う」
その言葉に、三郎殿がガタッと音を立てて立ち上がった。
「正気か、宗茂様!? 毛利と言えば、俺たちと長年国境で小競り合いを続けてきた相手だ! 首を刎ねられても文句は言えねぇ!3人で城に向かった方がまだマシだぜ!」
「確かに因縁はある。でも、あくまで互いを牽制する程度の小競り合いで、決定的な敵対関係とまではいっていないはずだ。それに……」
宗茂殿は傍らに広げた古ぼけた地図を指差した。
「逃げるのに必死で気づかなかったけど、この村、もう豊前を越えて毛利の領地に入りかかっているようなんだ」
「なっ!?」
「楽観的過ぎるのかもしれないが、他に手はない。どうにか毛利家を頼り、再起の機会をうかがう。……どうだろう?」
三郎殿は渋々といった様子で頭を掻きむしった。
「……他に手がないなら、腹を括るしかねぇか。だが、危険な賭けだぜ」
「乾坤一擲……やるしかないのだろうね」
私たちは顔を見合わせ、頷き合った。
こうして私たちは、毛利家の本拠地である安芸国へと足を踏み出すことになったのだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ほ、本当に行かれるのですか?」
出立の朝。
小屋の前には大勢の村人たちが私たちを見送る為に集まっている。
体が動くようになってからは一緒に畑の土を弄り、子どもたちとも笑い合った。出会いの時の憎悪は、もう欠片も残っていない。
「随分と長居をしてしまいました。この恩は必ず--」
「とんでもねぇ!やめてください!」
「わしらこそ、感謝してもしきれない」
村人たちが口々に宗茂殿へ感謝の言葉を述べる中。
「おひい様……っ」
不意に、一人の男が進み出て地面に額をつけた。あの日、私に「疫病神」と石を投げつけた男だ。
「あの時は……本当に、取り返しのつかないことを……申し訳、ありませんでした……っ」
その震える身体には、不格好だが力強く育った大根がいくつか入った籠を大事そうに抱えられている。
「た、旅の糧にと……持っていって下さい!」
私は静かに歩み寄り、自身の額の傷跡にそっと触れた。
まだ少し痛む。だが、この痛みはもう悲しいものではない。彼らの日常を護り抜いた、誇り高き『銀翼』の証なのだ。
自然と頬が上がる。今尚頭を下げる村人の身体を起こしてその両手を握った。
「ありがたく頂戴しよう。貴方が泥にまみれて育てたお野菜は……今まで食べたどんなご馳走よりも、温かくて美味しかった」
「おひい様……っ、うぁぁっ……!!」
村人は私の手を力強く握り返し、子供のように声を上げて泣き崩れる。
「……それじゃあ、行くとするか」
「そうだね」
きっとここも、宗茂殿が護るべき場所になるのだろう。一度結んだ縁を絶やすことなく紡いでいく。それこそが、この高潔な我が主の強さだ。
広く遠くの空でも、彼が自由に羽ばたけるように。
私たちは、そのための強き翼になるのだ。
ご覧いただきありがとうございます!




