第6話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
僕は背中を預けた木の幹から、信じられない光景をただ見つめていた。
数十人の野盗に囲まれた、完全なる死地。 しかし、そこで刃を交える二人の背中は、どういうわけか酷く楽しそうに、弾んで見えた。
「おい! 右が甘ぇぞ!でかい口叩いたんだからしっかりやれ!」
「三郎殿こそ、足がもつれているのではないか? 少しくらい休んでも良いが」
「舐めんな!この程度なら片手で十分だ!」
戦場の真ん中で、彼らはまるでいつもの陣幕でじゃれ合っているかのように、軽口を叩き合っている。
三郎の体は限界などとうに超えているはずだった。 肩で激しく息をし、立っているのすら不思議なほどの重傷。しかし、彼の体から立ち上る気迫は、刀を振るうごとに弱まるどころか、むしろ熱を帯びて増していくように見えた。
決して後ろへは退かず、雪夏の死角になり得る所を見事に補っている。
そしてその三郎を信頼し、完全に背中を預けた雪夏は——美しかった。
白銀の籠手を煌めかせ、まるで本当に背中に『羽』が生えているかのように、重力を感じさせない軽やかな身のこなしで野盗たちの攻撃をいなしていく。
二人とも全てを一人で抱え込もうとする似た者同士だ。そんな二人が息を揃えた見事な連携。
三郎が受け止め、崩した敵を、雪夏が風のようにすり抜けて刈り取る。 雪夏が攻め入り、空いた隙を、三郎が怒号と共に塞ぐ。
「すごい……」
僕の口から、純粋な感嘆の息が漏れた。
生まれも育ちも、背負っているものすらも全く違う二人。
『あの小娘が、お前と共に将来の大友家を支え、新たな未来を創り上げる「双璧」になるであろう』
いつか、宗麟様が戦場で嬉しそうに語っていた言葉が脳裏に蘇る。
あの時は、武力という側面での評価だと思っていた。 だが、違ったのだ。
この絶望的な状況の中で、泥臭く立ち上がり、僕を護るために背中を預け合っている二人の友。
「双璧、じゃない……」
僕の口角が、自然と柔らかく吊り上がった。
「二人は、僕を空へ連れて行ってくれる……僕の『双翼』だ」
この二人がいれば、何とかなる。 根拠のない、しかし絶対的な確信が僕の胸を満たしていた。
「ひぃぃっ! な、なんだこいつら! 全然崩れねぇぞ!」
「ば、化け物だ! 逃げろぉっ!!」
やがて、いくら群がってもかすり傷一つ負わせられない二人の圧倒的な連携と気迫の前に、野盗たちは完全に戦意を喪失した。 彼らは武器を放り出し、我先にと山を転がり落ちるようにして逃げ去っていく。
「ふぅ……我々の勝利だね」
「……へっ、だらしねぇ連中だぜ」
逃げゆく背中を見送った後。 雪夏と三郎は、ふっと同時に構えを解き——そのまま糸が切れたように、二人揃って泥の中へと仰向けに倒れ込んだ。
「雪夏! 三郎!」
僕は驚き痛む身体を無視して、二人の元へ駆け寄った。
「だ、大丈夫かい!?」
血相を変えて覗き込むと、二人の胸は静かに上下し、規則正しい寝息が聞こえてきた。極度の緊張と疲労から解放され、その場で深い眠りに落ちてしまったのだ。
「……なんだ、生きてるじゃないか。本当に、無茶ばかりして」
僕は安堵のあまり、その場にへたり込んでしまった。
「お、お侍様……っ」
不意に、背後から震える声がした。
振り返ると、先程まで僕たちに石を投げ、「疫病神」と罵っていた村長や村人たちが、泥だらけの地面に深々と額を擦り付けて平伏していたのだ。
「あ、あのような酷い仕打ちをした我らを……命懸けでお救いくださり……っ! なんと御礼を申し上げればよいか……!!」
彼らはボロボロと涙を流し、何度も何度も地面に頭を打ち付けて感謝の言葉を紡いでいた。
『君の罪は、誰かの救いになっている』
初めて人を斬り、絶望に震えていた雪夏に僕がかけた言葉。 あの時は、まだどこか独りよがりな『剣』としての救済だった。
しかし今は違う。確かに、この村の人々の命と未来を、その温かい絆で護り抜いた『英雄』なのだ。
「……頭を上げてください。僕たちは、武士として当たり前のことをしただけです」
この人たちを護れて本当に良かった。僕はできる限り優しく微笑んで応えた。
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数刻後。
村人たちの厚意により、僕たちは雨風を凌げる上等な小屋へと案内され、綺麗な麻布と手拭い、そして僅かばかりの食事を分けてもらうことができた。
傷の手当てを終え、部屋の隅で静かに燃える囲炉裏の火を見つめる。
僕のすぐそばでは、雪夏と三郎が並んで眠っている。
(ふふっ……)
泥と血を拭い去った二人の寝顔は、戦場でのあの鬼神のような姿が嘘のように、年相応のあどけないものだった。
「……ありがとう」
僕はそっと、二人の麻布を首元まで引き上げた。
これからは、もっと険しい修羅の道が待っているかもしれない。 僕の力だけでは、全てを護り切ることは到底できないだろう。
だから。
「これからも頼りにしているよ。……僕の自慢の、双翼」
囲炉裏の火が弾ける静かな音が響く中、僕は二人の寝顔を見つめながら、そっと感謝の言葉を伝えた。
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