↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/55

第2話

★戦国武将×偉人★

混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!

 冷たい雨が降りしきる、漆黒の森の奥深く。

 私は大木の根元にうずくまり、ガタガタと震える手で、腰に差してい刀を抜き放った。


『私がいなければ、皆、不幸になどならなかった』


 村人から投げつけられた石の痛みよりも、膝をつき、村人へ頭を下げる宗茂殿の姿が、私の心を完全に粉砕していた。

 道雪殿を死なせ、紹運殿を死地に残し、誾千代殿たちを暗い獣道へ放り出した。 私の「歴史を変えられる」という傲慢さが、あんなにも温かかった家族を、全て無惨に壊してしまったのだ。


「あぁ……っ、うぁぁ……っ」


 刀を、自身の首筋へと当てる。

 死ぬのは怖くない。

 ただ、このまま生き恥を晒し、これ以上あの方を心優しい宗茂殿を傷つける疫病神であり続けることの方が、私にとっては耐えられない地獄だった。

 力を込めようとした、その時。


「——雪夏ッ!! 駄目だ!!」

 

 背後から泥を跳ね飛ばす音が響き、不意に私の手が強く握り留められた。


「む、宗茂、殿……?」


 振り返ると、宗茂殿が倒れ込むようにして私にすがりついていた。


「どうして……っ、駄目だ、離してくれ!!」


 私は錯乱し、彼の腕を振り解こうと身をよじった。


「来ないでくれ! 私は疫病神だ! 私が皆を殺した! 私が、貴方の家族を、居場所を全て壊したんだ!!」

「違う! 雪夏、落ち着いて……っ!」

「違わない!! 私が刀さえ振るわなければ……道雪殿も宗麟殿も死ななかった! 紹運殿も誾千代殿たちもあんな目に遭わなかった! 貴方に……主君である貴方に、あんな惨めな思いをさせることもなかったんだ!!」


 叫びながら、私は首に当てた刃にさらに力を込めようとする。

 しかし、宗茂殿は抜き身の刃をその手で掴む。血を流しながら、決してその刃から手を離そうとしなかった。


「……宗茂、殿……どうして……っ」

「……君のせいじゃない。誰のせいでもないんだ……!」


 宗茂殿は熱で朦朧とする体を無理やり起こし、泥にまみれた私を、まるで壊れ物を扱うように、力強く、そして優しく抱きしめた。


「っ……あ……」


 彼の体から伝わる、痛いほどの熱。 それは、私が壊してしまったはずの、あの温もりそのものだった。


「僕たちは……確かに多くを奪われた。父上も、母上も、宗麟様も。……誾千代たちも」


 宗茂殿の声が、ひどく震える。

 当然だ。彼自身こそが、最愛の家族を全て失った、最も心を痛めているはずの「奪われた側」の人間なのだ。


「だけど……。初めて人を斬って震えていた君が、僕たちを護るために、自ら進んで修羅の道を歩んでくれたことを……僕は知っている」

「あ……」


 あの日。 初めて人を斬り、罪悪感と恐怖に震えていた私に、彼は言ってくれた。『君の罪は、誰かの救いになっている』と。


「護りたかったんだよね。自分の手を血で汚してでも……僕たちの、あの笑顔を」

「あぁ……、あぁぁ……っ」


 宗茂殿の腕の中で、私の口から嗚咽が漏れ始める。


「……奪われるより、奪う方が……ずっと辛かったはずだ。君は、自分の心を殺してまで、僕たちのために剣を振るってくれていたんだから」

 

 その瞬間、私の心の中で、何重にも縛り付けていた強がりの糸が、音を立てて弾け飛んだ。

 本当は、怖かった。 人を斬る感触が。皆が死んでいく戦場が。 歴史という強大な波に、たった一人で立ち向かう孤独が。

『自分ならできる』という驕りは、その恐怖を隠すための、ただの脆い鎧に過ぎなかったのだ。


「君はもう、一人で罰を背負わなくていい。……疫病神なんかじゃない。君だって僕の大切な……大切な、家族なんだから」

「あぁぁぁぁぁっ……!! わぁぁぁぁぁぁっ……!!」


 降りしきる冷たい雨の中、私は宗茂殿の胸にすがりつき、声を上げて泣きじゃくった。

 幼い頃、どんなに厳しい稽古で傷ついても、決して見せることが許されなかった涙。 張り詰めていた緊張と罪悪感が、彼の優しい言葉によって全て溶かされ、あふれ出していく。

  ただの一人の少女として、私は初めて、自分の弱さと痛みをさらけ出して大声で泣いた。

 宗茂殿は何も言わず、私の気が済むまで、ただ静かに背中を撫で続けてくれた。


やがて——。


「……ごめんなさい、宗茂殿。……ありがとう」

「良いんだよ……ほら、三郎がしかめっ面だ。早く戻ろう……」


 永遠にも似た夜の闇を洗い流すかのように降り続いていた雨が、いつしか小降りになっていた。

 東の空の木々の隙間から、微かに白み始めた夜明けの光が差し込んでいた。


ご覧いただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。