第1話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
私たちは、冷たい雨を凌ぐため、山の中腹にある小さな廃村に身を寄せていた。
「ゴホッ……、がはっ……」
「宗茂殿! しっかりしてくれ!」
板間に横たえられた宗茂殿の顔は土気色で、額からは不気味な汗が滲み出ている。限界を超えた疲労と、傷。 三郎殿もまた、壁に寄りかかったまま身動き一つできずにいる。
「だめだ……薬も、食料もない。このままじゃ宗茂様が保たねぇ……」
三郎殿が掠れた声で唸る。 私は己の手を見た。泥と血にまみれ、激しく震え続けている手。
誾千代殿と十吉くんは、無事に逃げ切れただろうか……
最悪の想像ばかりが脳裏をよぎる。あの非力な二人が、暗い山中で野盗や追っ手から逃げ延びられるはずがない。
ダメだ。考えてはいけない……いけないのに……。
「あぁ……っ」
息が詰まる。私の驕りのせいで、皆が死んでいく。
「……雪夏」
不意に、微弱な声で宗茂殿が私を呼んだ。
「泣かないで、くれ……。君のせいじゃない……だい、じょうぶ、だから……」
力なく宗茂殿は私の手を握る。
そうだ。ここで絶望している場合ではない。彼らを、これ以上失うわけにはいかないのだ。
「宗茂殿!待っていてくれ!」
私は弾かれたように立ち上がり、降りしきる雨の中、一人で山を駆け下り、明かりの灯る麓の村へと向かった。
とにかく身体を動かさないと悪い事ばかりを考えてしまう。三郎殿だって我々を庇い歩きもう限界だ。
私が、私が何とかしないと……!
「頼む! 少しでいいから食べる物を分けてくれ!」
私は村の中腹にある周りに比べても大きい家の戸を叩き、泥にまみれた頭を地面に擦り付けて懇願した。
「……その身なり……お前、侍か?」
戸の隙間から現れた村の男たちは、私を見るなり、手に手に鍬や鎌、そして石を握りしめていた。
「ふざけるな! お前らはいつも身勝手に我らから生きる糧を奪う!」
「戦火を招く『疫病神』め! さっさとこの村から出て行け!」
投げつけられた石が、私の額に直撃し、視界が赤く染まった。
「あ……」
「出て行けぇっ!!」
容赦なく投げつけられる石礫と、憎悪に満ちた罵声。 それは、戦火に怯える民衆の当然の自己防衛だろう。
「……てめぇら、誰に向かって石を投げてやがる!!」
不意に、背後から怒号が響いた。 重傷を押して這うように追いかけてきた三郎殿が、刀の柄に手をかけて村人たちを睨みつけていた。その後ろには、肩で息をする宗茂殿の姿もある。
「よせ、三郎」
宗茂殿が震える手で三郎殿を制止した。 そして、熱で朦朧とする体を折り曲げ、村人たちに向かって深く、深く頭を下げたのだ。
「宗茂殿……っ!?」
「……貴方たちを不安にさせてしまったこと、深くお詫びする」
泥水の中に膝をつき、平民に頭を下げる若き大将。 その姿を見た瞬間、私の心の中で、かろうじて繋ぎ止めていた最後の糸が『プツン』と音を立てて切れた。
違う。こんなはずじゃなかった……!
「とっとと帰れ!」
僅かばかりの芋と野菜を乱暴に投げつけ、勢い良くその戸は閉まる。
「恩に切ります。ありがとう……雪夏、ほら君のおかげで……」
違う、違う……
彼をあんな惨めな目に遭わせるために、私は剣を振るったわけじゃない。 私が驕らなければ。私が歴史を変えられるなどと思い上がらなければ。彼は今頃、温かい城で家族と笑い合っていたはずなのだ。
「あぁ……あぁぁぁっ……!!」
私のせいだ。私が、全てを壊した。私は、疫病神だ。
私がいなければ、皆、不幸になどならなかったのだ。
「雪夏……?」
顔を上げた宗茂殿が、異変に気づいて手を伸ばす。 しかし、私はその手を恐ろしいものから逃げるように振り払い、再び雨の暗闇へと駆け出した。
「待て! 雪夏!! どこへ行くんだ!!」
背後から宗茂殿の声が響く。
私は耳を塞ぎ、ただ無心で暗い森の奥深くへと走り続けた。 冷たい雨が、私の体温と、生への執着を全て奪い去っていく。
『もう、誰も傷つけたくない』
自分の存在そのものが罪なのだと完全に押し潰された私は、誰にも見つからない深い闇の中で、この円環を終わらせようとした。
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