プロローグ
第一部の最終章になります
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
「はぁっ……、はぁっ……!」
暗い森の中。
誾千代と十吉は必死に手を繋いだまま、道の悪い斜面を駆け下りていた。
わざと音を立てて囮になった背後には、彼らを標的と定めた龍造寺の追撃部隊が迫っている。
「きゃあっ!」
「うわぁ!」
誾千代はぬかるみに足を取られた。十吉が慌てて引き起こそうとするが、二人の体力はすでに限界を迎え、共に激しく転がり落ちる。
「ごめんなさい……十吉。私のわがままに付き合わせて」
「姉ちゃ達を護るためばい。こ、これくらいどってことなか」
強がりなのは分かっている。
お互いにその手は酷く震えていた。父と母、家すらも失い、自らも死地を歩いている道中だ。
彼の言う、姉ちゃ。一ノ瀬雪夏は自分の責任だと己を責めていた。きっとあの戦で何か起きたに違いない。もし、それが両親を失う切っ掛けなのだとしたら?
誾千代は自分の中で込み上げる黒い感情を必死に押さえ、唯々十吉の手を強く握った。
気付けば松明を持った十数人の龍造寺兵がぐるりと周囲を取り囲んでいた。
「見つけたぞ! あの身なり立花の姫だ!」
「ガキとはいえ油断するな! さっさと首を刎ねて、隆信公に献上するぞ!」
下卑た笑いと共に、無慈悲な刃が振り上げられる。
「姫様! 逃げて!」
十吉が誾千代の前に両手を広げて立ち塞がり、ぎゅっと目を閉じた。
誾千代もまた、恐怖に震えながら身を縮める。
――しかし。
振り下ろされるはずの刃は、いつまで経っても二人には届かない。
恐る恐る目を開ける。
先程まで彼らを囲んでいた兵士たちは、全員が白目を剥き、泥の中に転がって気絶していた。
「な、なんね……?」
「……こんな幼子まで狩り立てるとは。腹立たしいな」
静謐で、圧倒的な威圧感を放つ低い声。
闇の中から現れたのは、巨大な剛戟を携えた一人の男だった。
「鍋島……直茂……?」
誾千代の顔から血の気が引く。
先日の戦いで大友軍を苦しめた、龍造寺家最強の猛将。彼が自ら追ってきたのであれば、もはや一縷の望みもない。
直茂は馬から降り、ゆっくりと二人を見下ろす。
死を覚悟した、その時。
直茂の視線が、誾千代の耳へと向いた。
「その耳……貴様は雷神の娘か?」
「え……?」
直茂はふっと剛戟を下ろし、忌々しそうに夜空を仰いだ。
「全く。『義』すら弁えぬ豚の真似事など、手伝ってやる義理はないわ。己は蟄居を命じられた身だしな」
「な、どういう……?」
呆然とする二人に、直茂は背を向けた。
「……ついて来い。悪いようにはせん」
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