第11話
「追えぇぇ!! 立花の残党だ!!」
「絶対に逃すな! 宗茂の首を獲った者には莫大な恩賞が出るぞ!!」
背後から迫り来る無数の松明の明かりと、獣のような怒号。
岩屋城を迂回してきた龍造寺の追撃隊が、死神となって我々の背中へとにじり寄ってきている。
「ちぃっ......! ここまで嗅ぎつけてきやがったか!」
最後尾の三郎殿が忌々しそうに毒づく。全身の傷から血を流し、既に満身創痍だ。
「三郎殿! 後ろは私が……っ」
「馬鹿野郎!! お前は宗茂様を連れて一歩でも前へ進め!!」
三郎殿の怒鳴り声に、私は肩を震わせた。
だが、限界を迎えた宗茂殿は泥の中に倒れ込み、私にも彼を背負う力は残っていない。
「十吉。……覚悟はよろしくて?」
「うん。……姫様こそ、足ば震えとるよ」
不意に、誾千代殿と十吉くんが泥だらけの手をぎゅっと繋ぎ合わせた。
「な、何を……」
「お兄様! 雪夏! 三郎!」
誾千代殿が、震える声で叫んだ。
「今まで、わたくしたちを護ってくれて……ありがとうございました!」
「姉ちゃ! 絶対に生き延びて、また笑ってね!」
「ま、待て! お前たち、何を……っ!」
「今度は私たちがあなた方をお守りしますわ!」
そう言うと二人は枯れ枝を派手に踏み折りながら、あえて別の獣道へと駆け出していった。
「こっちよ! 立花の姫はここですわ!!」
「追いつけるもんなら追いついてみろばーい!!」
「あっちだ!! ガキの声がしたぞ!!」
追っ手の松明の明かりが、一斉に二人が消えた獣道の方へと向かっていく。
二人が自ら囮となり、敵の目を引きつけてくれたのだ。
「や、やめろ……行くな……! 誾千代ぉぉっ!!」
宗茂殿が泥に爪を立てて絶叫する。
三郎殿が動けない宗茂殿と私の腕を掴み、反対側の暗がりへと乱暴に引きずり込んだ。
違う……! こんなはずじゃなかった……
護るための力だったはずだ。
それなのに、私は刀を握ることもできず、最も護るべき存在である子供たちに庇われ、彼らを死地へと放り出してしまった。
「あぁぁぁっ……、あぁぁぁぁぁっ……!!」
冷たい雨の中、私の慟哭は深い闇へと飲まれていく。
罪悪感に押し潰されながら、私は絶望の泥濘を、ただ無様に這いずり回るしかなかった。




