第8話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
自身の腹を貫かれながらも、道雪殿は一歩、また一歩と義弘へと歩み寄ってく。
どう見ても致命傷のはずだ。それでも道雪殿は止まらない。
青白い雷光が再び迸り、空気を焦がしていくようだった。そして、道雪殿の身体が、眩いほどの雷の光に染まる。
「散れぇぇぇッ!! 『雷切り』ィィィ!!!」
視界が真っ白になり何も見えなくなった。
直後、空を切り裂く轟音と共に、道雪殿の刀から放たれた無数の雷撃が、島津のファランクスへと文字通り『降り注いだ』。
「ぬぉぉぉぉっ!?」
「ぐ、ぎゃあああっ!!」
いかに強固な盾の壁を構築しようとも、雷の伝導からは逃れられない。
密集していたことが仇となり、島津の兵たちは次々と電流に焼かれ、完璧だった鉄の壁が大きく瓦解していく。
「ちぃっ……! 盾を離せ! 陣を解けぇっ!!」
義弘の焦燥に満ちた声が響く中、道雪殿の全身から放たれた極大の雷圧によって、腹を貫いていた長槍が粉々に弾け飛び、その拘束からついに解き放たれる。
道雪殿は私の襟首を乱暴に掴んだ。
「雷の推進力に耐えろ! 舌を噛むなよ!!」
「えっ……きゃあっ!?」
突如地面が爆発し、私たちは雷の化身と化して、一瞬にして島津の陣から空高くへと飛び退いた。
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「……父上!! 雪夏!!」
大友軍の本陣。
泥まみれになりながら空から降ってきた私たちを見て、宗茂殿が血相を変えて駆け寄ってきた。
「おい嘘だろ……道雪様!?」
三郎殿が絶句し、その場に膝をつく。
本陣の地面に横たわった道雪殿の腹部には、ぽっかりと絶望的な大穴が空き、赤黒い血が止めどなく溢れ出していた。
誰の目にも、もはや手遅れであることは明らかだった。
「いやだ……! 私のせいだ……私が陣を飛び出さなければ、こんな……っ!」
私は泥だらけの手で道雪殿の傷口を塞ごうとするが、血は指の隙間から残酷にこぼれ落ちていく。
「父上! しっかりしてください! 軍医を、早く!!」
宗茂殿が悲痛な声を張り上げるが、道雪殿は震える血まみれの手を伸ばし、宗茂殿の頬を優しく撫でた。
「……よい、リヒト。もう……十分だ」
「父上……っ」
「……不思議な、ものだな。見知らぬ世界に飛ばされ……最初は、どうなることかと思ったが」
道雪殿の口から、大量の血が溢れる。
「お理という……最愛の妻を得て。そして……お前やお誾のような、誇り高き子らを持てた……長き人生の中で最高の毎日だった」
道雪殿の濁りかけた瞳が、ボロボロ泣き崩れている私へと向けられる。
「雪夏……私と同じ境遇のお前を……独りにはできなかった……運命だと、思ったよ」
「道雪殿……あぁ、ああぁっ……!」
「自分を責めるな、雪夏。お前も……私の「娘」であり、同志だ……。リヒトの背中を、お前に託す。……いつか、我が息子を……大空へ羽ばたかせて、やってくれ……」
それが、雷神の最期の言葉だった。
ゆっくりと目を閉じた道雪殿の腕が、力なく地面へと滑り落ちた。
「父上ぇぇぇぇぇッ!!!」
雨空に、宗茂殿の絶望の叫びが木霊する。
しかし、戦場は悲しむ時間すら与えてはくれなかった。
『道雪様が、討ち死になされたぞぉぉ!!』
その凶報は、瞬く間に大友軍全体へと伝播した。
大黒柱である『雷神』の死は、大友軍の士気を根底から完全にへし折ったのだ。
「押し返せ!! 大友の腰抜けどもを海まで追い落せぇぇ!!」
「「「チェストォォォォ!!」」」
勢いを吹き返した島津軍が、怒涛の逆襲を開始する。
統率を失い、恐怖に駆られた大友軍の兵たちは、我先にと武器を捨てて逃げ惑った。
「退け! 全軍、後退せよ!!」
怒号と悲鳴が入り交じる中、島津の追撃に背を向けながら無様に後退し続けた。
そして、逃げ惑う中で、私は気づいてしまった。
「ここは……」
背後に激しい水音を立てて流れる、大きな川。
日向国の『耳川』だ。
歴史が、同じ道を辿っているのか……
大筒の力で、圧倒的に優勢だったはずの戦局。しかし、私の驕りが全てを台無しにした。
道雪殿の死をきっかけに軍は崩壊し、結局、史実と全く同じ『耳川の敗北の構図』が完成してしまっていた。
『お前のその「自分なら何とかできる」って驕りは、いつか必ず致命傷になるぞ』
いつかの三郎殿の言葉が、呪いのように脳裏に甦る。
私のせいだ……。私が歴史を変えられると、全てを護れると思い上がったせいで……皆を巻き込んでしまった……
絶望と自責の念で心が完全に折れ、手から刀が滑り落ちそうになった、その時だった。
「——下を向くな、小娘ェッ!!!」
私の背中が、丸太のような分厚い手で力強く叩かれた。
「そ、宗麟……殿……?」
振り返ると、そこには血と泥にまみれながらも、決して折れない大樹のように立つ、大友宗麟の姿があった。
「勘違いをするな! 貴様一人の過ちで、我が大友の軍が崩れたなどと思い上がるな!」
宗麟殿は、迫り来る島津の追撃部隊を指差した。
「全軍の命運を背負っているのは、総大将であるこのわしじゃ! 兵が逃げ惑うのも、将が死んだのも、全てわしの器が足りんかっただけの事!! 貴様が一人で絶望を背負い込む必要などないわ!!」
その言葉は、単なる強がりではないのがわかる。
幾万の命を預かる『大将』としての、圧倒的な責任と矜持。
「雪夏! 宗茂! よく聞け!」
宗麟殿は私たちを振り返り、いつもの太陽のような豪快な笑みを浮かべた。
「貴様らは、こんな泥沼で終わっていい命ではない! わしが大将の意地を見せてやる! ——お前たちは、ここから生きて帰ることだけを考えろ!」
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