第7話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
冷たい雨が降り始めた森の中。
地に這いつくばる私の頭上に、無数の長槍が振り下ろされようとしていた。
終わるのか。こんなにあっけなく。
歴史を変え、皆を護れる。その過信が私をこの死地へ追いやった。
「……塵に還せ」
島津の兵たちが槍を突き立てようとした、その時。
空気が弾け、鼓膜を破るような落雷の音が轟いた。
私と敵の間に、目も眩むような光の柱が落ちる。
「ぬぉぉっ!?」
「な、なんだ!?」
土煙が舞う。密集していた島津の盾が雷の直撃を受け、数十人の兵士が黒焦げになって吹き飛んだ。
もうもうと立ち込める煙の中から、一人の男が足を引きずりながら姿を現した。
「遅くなってすまないな、雪夏」
「ど、道雪……殿……?」
その姿は痛々しかった。雷の力に身を焦がしたのか、金髪と長い耳は薄く焼け、甲冑の隙間から煙が上がっている。口の端からは血が滴っていた。
「どうして……本陣の守りに就いていたはずでは……!」
「愛する子供が危機に陥っているのだ。親が駆けつけるのに、理由など要るものか」
道雪殿は血の混じった咳を吐き、私を背にして島津の前に立ちはだかった。
「……大友の雷神か。雷に身を窶しての強行突破とは。褒めてやろう、長耳」
義弘が盾の隙間から進み出て、道雪殿を睨みつける。
「だが、無駄な足掻きだ。貴様もろとも、我らの鉄の波に飲まれるが良い」
「ふん。島津義弘か。立花の誇りが舐められたものだな」
道雪殿は愛刀『雷切』を構え直し、私へ向かって低く告げた。
「雪夏。走れ」
「えっ……?」
「お前はまだ若い。こんな所で死んでいい命ではない。ここは私が食い止める。だから、リヒトの元へ……宗茂の元へ戻れ!!」
「だ、駄目だ! そんなことをすれば道雪殿が……! 私の驕りが招いた事態だ、私が責任を……!」
「馬鹿者ッ!!」
道雪殿の一喝が森に響き渡った。
「確かにお前は突出してしまった。それは事実だ。しかし、責任を取る必要はない。子が過ちを犯したのなら、親が責任を取る。それは当然のことだ! お前はすでに、我ら立花の大切な『家族』なのだからな!」
家族……胸の奥が締め付けられる。
私の両親もきっと、私を愛してくれていたと思う。ただ、目の前にいるこの人は見ず知らずの私を無条件で愛し、護ろうとしてくれている。
「道雪殿……っ」
「いいから行けぇ!! あの子を、頼むぞ!!」
私がよろよろと立ち上がり、泥まみれの足を一歩後退させた、その時だった。
「……感傷など、戦場には不要。まとめて串刺しにしてくれる!」
義弘が低く唸り、自身の身の丈を超える皆朱の槍を頭上へ高く構えた。
筋肉が膨れ上がり、血管が浮き出ている。
「死ね」
空気を叩き潰すような破裂音。
放たれた長槍が、砲弾のような速度で私を真っ直ぐに狙って飛んでくる。
ダメだ……躱せない……
「——雪夏ッ!!」
ほんの瞬き程の一瞬、私は強い力で突き飛ばされていた。視界が横に回転し、泥の中へ転がる。
「……えっ?」
顔を上げた先。
そこには、私の代わりにその場に立ち塞がった道雪殿の姿があった。
生々しく、肉と骨を砕く音がした。
道雪殿の背中を突き破り、真紅に染まった槍の切っ先が覗いている。
「ど…………道雪、殿……?」
道雪殿の口から大量の鮮血が溢れ落ちる。
彼は貫かれた槍の柄を震える手で掴み、崩れ落ちそうになる体を保った。
そんな、嘘……ダメだ。道雪殿……!
「……泣く、な……馬鹿娘、が……」
え、あ……なみ、だ……
「まだ、だ……! 我が愛しき子らを……そう容易く、絶望には渡さん……ッ!!」
道雪殿が自らの貫く槍を掴んだまま、前へ、義弘の方へと歩を進めた。
致命傷の身体から、青白い雷光が激しく迸る。
「なっ……貴様、その死に体でなぜ動ける!?」
感情を見せなかった義弘の顔が、初めて驚愕に歪んだ。
私のせいだ。私のせいで、道雪殿が……
「雪夏……私から、離れるな……!!」
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