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第5話

★戦国武将×偉人★

混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!

 日向国、某所。

 激しく波打つ水面の向こう側に、島津の本隊が陣を構えている。

 対する我ら大友軍も、川の対岸を埋め尽くすほどの兵を並べていた。


「撃てぇぇぇっ!!」


 宗麟殿の号令が響く。

 最前線に引き出された『国崩し』が火を噴いた。空気が震え、島津の陣地へと鉄弾が次々と撃ち込まれていく。

 土煙が舞い上がり、敵の防柵が粉々に吹き飛んだ。


「ガハハハハ! どうだ! 我が国崩しの前には、いかなる陣も紙切れ同然よ!」


 本陣の床几から、宗麟殿の愉快そうな高笑いが聞こえてくる。


「敵の前衛が崩れたぞ! 今だ、一気に押し渡れ!!」


 先日の局地戦での勝利と、この新兵器の火力。味方の兵たちが鬨(とき)の声を上げながら、川を渡り対岸の島津軍へと殺到していく。


「一ノ瀬流剣術・一刀ノ肆《乱れ桜》!」


 私も先陣を切って敵陣へと斬り込んだ。

 迫り来る槍の穂先を紙一重で躱し、すれ違いざまに柄で急所を打ち据える。一人、また一人と敵兵が無力化され、私の周囲に空白地帯が出来上がった。

 このままいけそうだな。私の剣は、この戦場でこそ輝ける。

 心臓が高鳴り、全身に熱が巡るようだ。

 龍造寺の猛将・鍋島直茂と渡り合い、天才・島津家久の『釣り野伏せ』を看破して叩き潰した。

 私の知識と、この剣技があれば、歴史すら覆せる。

 そうだ。あの日『全てを護れない』と憂いていた我が主君の為に……


「よし、このまま敵の本陣まで……っ!」


 私がさらに深く斬り込もうとした、その時だった。


「——退け! 陣を下げよ! ここは持ち堪えられん!!」


 島津の将らしき男の叫び声と共に、前線で踏みとどまっていた島津の兵たちが一斉に背を向けて逃げ出した。

 彼らは岸辺を放棄し、後方に広がるなだらかな丘陵地帯と、深い森の方へと散っていく。


「おぉっ! 敵が逃げるぞ!」

「薩摩の野蛮人どもめ、我らの勢いに恐れをなしたか! 逃すな、追撃だぁっ!!」


 味方の兵たちが、我先にと敵の背中を追って突撃を再開しようとする。


「——待ってくれ! 全軍、一旦止まるんだ!!」


 宗茂殿の鋭い制止の声が響いた。


「宗茂殿?」


 振り返ると、白銀の甲冑を纏った宗茂殿が、険しい顔で逃げゆく島津軍の背中を睨みつけていた。


「いくら国崩しの威力があるとはいえ、島津の精鋭がこうもあっさりと背を見せるだろうか。嫌な予感がする」

「俺も同意見だ」


 血振るいをして戻ってきた三郎殿が、忌々しそうに舌打ちをする。


「前回の高城川原の時を思い出せ。あの時奴らは死に物狂いで激しく抵抗しながら退いていった。それに比べて今回は足並みが揃いすぎている。あからさまな誘いだ。何か釣り以外の策があるんじゃねぇか?」


 違う。

 島津の兵は撤退ならば徹底抗戦の足止め部隊を残す"捨てがまり"の戦法を用いる。

 決死の抵抗を見せるからこそ、釣り野伏せに敵は食らい付いてしまうのだ。

 しかし、その徹底抗戦は島津兄弟の力があってからこそのもの。並みの武将にあのような戦術が扱える訳がない。このような撤退にもなるだろう。


「……先日と同じ『釣り野伏せ』の動きなのは間違いないよ」

「だとしたら、前回新入りに伏兵を潰されたってのに、また同じ馬鹿の一つ覚えを仕掛けてくるか? 普通なら何らかの対策を講じてるはずだ」

「そうだね。やはり異常だ。全軍に停止の号令をかけ、陣を立て直そう」


 宗茂殿が本陣へ伝令を走らせようと振り返る。

 しかし、私はその腕を掴んで引き止めた。


「待ってくれ、宗茂殿。……これは好機だ」

「好機……?」

「敵が同じ手で来ているなら、私が再び伏兵の指揮系統を直接潰せば、島津は完全に崩壊する。それに策があろうとも、基本的には伏兵を叩ければ問題はないだろう?」

「おい新入り、調子に乗るな!!」


 三郎殿が私の肩を掴んだ。


「たまたま局地戦で上手くいったからって、敵の本隊相手に同じ奇襲が通用するとは限らねぇ! 殿の命令を待たずに単独行動をする気か!」

「だからこそだよ! 遅れをとれば、伏兵の配置が完了してしまう!」


 私は三郎殿の手を振り払い、宣言した。


「案ずるな! 私の剣があれば、どんな敵が潜んでいようと必ず切り拓いてみせる。伏兵の掃討は私に任せて、宗茂殿たちは本陣の守りを固めていてくれ!」

「待つんだ、雪夏!!」


 宗茂殿の制止の声を背中に浴びながら、私は地を蹴った。

 足取りは軽く、恐怖や不安はない。

 歴史を変え、主君の望む未来を築くのだ。家族や民が安心して過ごせる世を。私の力で……


『お前、今……主君の命令より、自分の太刀がどこまで通用するか試すことを優先しなかったか?』


 いつかの三郎殿の忠告が脳裏を掠めた。

 しかし、今の私にはその言葉を省みる余裕すらなかった。

 私はたった一人で、静まり返った森の奥深くへと躍り込んだ。


ご覧いただきありがとうございます!

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