第4話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
「だからこそ、裏をかく」
私は驚く宗茂殿たちに向かって、地面に刀の鞘で簡単な図を描きながら口早に説明した。
「軍評定でも話したと思うが、島津の『釣り野伏せ』は、中央の部隊が敗走を装って敵を深く誘い込み、左右に伏せていた部隊が退路を断って殲滅する戦法だ。……つまり、今は森の左右に、私たちを殺すための伏兵が息を潜めている」
「さっきも言ってたが前線の兵に伏兵の存在を伝えねぇなんて、お館様たちが野蛮人と呼ぶのも無理ねぇぜ」
「恐ろしい戦法だね……。あんなに激しい殿の抵抗を見ては誘い込まれるのも無理はない」
宗茂殿が険しい顔で頷く。
「うむ。だからこそ、この抵抗の裏をかける。宗麟殿の本隊が突破するのはもう少しの猶予があるだろう。敵の罠に実際にハマり、森の入り口手前まで前線を押し上げてほしい。しかし、それより先は足を止めて誘いに乗らないでほしい。その隙に、私が別動隊を率いて、左右に隠れている伏兵の側面を直接叩く!」
「お前一人でか!? いくらなんでも無茶だ!」
三郎殿が声を荒らげるが、私は力強く首を振った。
「無茶ではないよ。敵の配置と意図が分かっている奇襲など、物の数ではない。……行かせてほしい、宗茂殿」
私が真っ直ぐに見つめると、宗茂殿は少しの逡巡の後、力強く頷いた。
「わかった。本隊の動きは僕が何とか留まるようにしよう。任せてくれ。……毎度の事だけど、絶対に無理はしないだね、雪夏」
「あぁ!頼んだぞ、宗茂殿!」
私は数人の精鋭だけを連れ、本隊から離脱して森の側面へと密かに回り込んだ。
果たして、深い茂みの奥には、息を殺して大友軍の突撃を待ち構える島津の鉄砲隊と伏兵たちが身を潜めていた。
やはり、私の知識通りだ……!
「一ノ瀬流剣術・一刀ノ肆《乱れ桜》!」
私は一切の躊躇なく、伏兵たちの死角からその中心へと躍り出る。
「なっ!? 敵襲だ! 側面から……ぎゃあっ!」
「ば、馬鹿な! なぜ我らの配置がバレて……うわぁっ!!」
完全に意表を突かれた島津の伏兵たちは、陣形を整える間もなく別動隊の急襲によって次々と崩れ去っていく。
左右の伏兵が壊滅したことで、島津の必勝戦術『釣り野伏せ』は完全に機能不全に陥った。
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「……なんち?」
森の奥の本陣で待機していた家久の元に、血相を変えた伝令が駆け込んできた。
「申し上げます! 左右の伏兵が、敵の別動隊によって完全に捕捉、撃破されました! 敵本隊も森の入り口で足を止めており、我らの誘いに乗りません!」
「……こりゃあ、完全に読まれちょったな」
家久ののんびりとした顔から、初めて余裕の笑みが消えた。
「大筒の威力に目を奪わせちょいて、本命の罠を看破したか。しかも伏兵を少数の手勢で叩き潰すち、とんでもなか化け物がおるごたっど」
彼は忌々しそうに頭を掻きむしると、スッと冷徹な戦術家の目つきに戻った。
「しゃあんなか。こい以上は無駄死にじゃっど。全軍、完全に退け!! 薩摩の国境まで退却じゃ!」
家久の迅速な判断により、島津軍は完全に高城川原から撤退していった。
大友軍の、完全なる勝利であった。
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「やった……! やったぞぉぉっ!!」
大軍勢の歓喜の咆哮が、戦場を揺るがす。
血振るいをして戻ってきた私を、宗茂殿が満面の笑みで出迎えてくれた。
「見事だよ、雪夏! 君の言う通りだったね。君の知識がなければ、大友軍は壊滅していたかもしれないよ」
「あぁ。皆が無事で、本当に良かった……」
宗茂殿の労いの言葉に、私は心の底から安堵の息を吐く。無事に勝利だ。歴史を覆すことができた。
本来であれば、ここで大友軍は歴史的大敗を喫するはず。それを食い止めることができた。
誰も死なせない。このまま私が全てを護る。
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大友軍の勝利に沸く日向国から遠く離れた、島津本陣。
その進撃を阻むための最終防衛線となるその陣営では、異様な光景が広がっていた。
「前へ!! 歩調を乱すな!!」
「「「チェスト!!」」」
地鳴りのような足音が響く。
数百の兵士たちが、巨大な円盾を隙間なく並べ、その隙間から長大な槍を突き出した『巨大な針鼠』のような異様な密集陣形を組んで前進を繰り返していた。
「遅い!! 盾の角度が三寸甘い! 貴様のその三寸の隙が、隣の同胞の命を奪うと知れ!!」
「チェスト!」
怒号を飛ばすのは、筋骨隆々にして歴戦の傷跡を全身に刻んだ、巨木の如き大男。
一糸の乱れすら許されないその練兵は鬼気迫る勢いの下行われていた。
「……相変わらず、無茶苦茶な練兵をしちょっど、義弘兄ィは」
敗走してきた島津家久が、呆れたようなため息を吐き、島津四兄弟の次兄にして、島津軍の実質的な総大将 -島津義弘へと声をかける。
◆◆◆
【島津義弘】
鬼島津ともあだ名される、戦国時代において最強と謳われる武将の一人。数千の手勢で大軍を打ち破り、関ヶ原の戦いでは壮絶な敵中突破『島津の退き口』を成し遂げた。
◆◆◆
「戻ったか、家久」
「面目ごわはん。大友の奴ら、見たこっもなかようなデカい大筒を持っちょりました。そいに加えて、こっちの『釣り野伏せ』を完全に読み切って伏兵を潰してきた、とんでもなか小娘がおってもして……」
言い訳交じりに戦況を報告する家久殿。
しかし、義弘は巨大な長槍を地面にドスッと突き立て、全く動じる様子を見せなかった。
「……些事よな」
義弘の瞳の奥に獰猛な光が宿る。
「戦とは、個人の武勇や奇策だけで決するものではない。強靭なる肉体、一糸乱れぬ規律、そして死を恐れぬ絶対の『軍』。それこそが、最強の盾にして最強の矛となるのだ」
義弘が腕を振り上げると、教練をしていた数千の兵士たちが、一斉に巨大な盾を掲げて長槍を構え、一つの巨大な鉄壁を形成した。
隙間一つない、圧倒的かつ暴力的なまでの『集団の力』。
「我ら島津の精鋭たちの前では、個の武も、小手先の知略も等しく無意味。ただ全てを蹂躙し、血の海に沈めるのみよ」
「「「チェスト!!!」」」
義弘は、遠く日向国の空――迫り来る大友軍の方角を見据え、獣のような低い声でポツリと呟いた。
「――モロン・ラベ(来たりて、取れ)」
それは、遙か昔、三十万の大軍を相手に一歩も退かなかった古代の王の言葉。
絶望が……すぐそこまで迫っていた。
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