第1話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
目が覚めたら別世界だった。--なんて物語の話だと思っていた。
子供の頃、それこそ物心ついた時には竹刀を握っていたし、小学校に上がる前には居合までも修めていた私には尚の事理解ができない。
町道場の師範をしている父は見た目こそ厳格な親の典型だが、私に捧ぐ愛は尋常ではなかった。誕生日や対抗仕合で結果を出せば可愛い服やぬいぐるみをプレゼントしてくれた。(その為に私の部屋はぬいぐるみやフリフリの可愛い服で溢れ返りちょっとしたテーマパークになっている)
幼き頃から剣の道を行くのはそんな父の影響では全くなく、母親の歪んだ愛と言えた。
聴く所によると、2歳の私に初めて買い与えた玩具がチャンバラスポーツ用のスポンジ刀で、興味がない私に無理矢理握らせては手を取り素振りをさせ、挙げ句の果てに振りが雑になれば容赦なくそのスポンジ刀で叩いていたと言う。今思えば立派な児童虐待だ。
とは言え、今までの人生に不満などは無く、寧ろ強い(物理的に)女であれたことに感謝こそすれ恨みの一つも抱いてはいないのだ。
だからこそ、この状況を理解出来ずとも落ち着けているのかも知れない。
少し逸れたが、今私が置かれている状況を整理しよう。
辺りは一面の草原で遠近感が崩れ去る程の山に囲まれている。鳥や動物の鳴き声が響いているから最悪飢えの心配はなさそうだ。
『剣の道は修羅の道。生殺与奪は強者にのみ許される権利』だと、7歳の誕生日に山に捨てられた経験(しかも、フリフリの洋服でだ)がまさか活かせる時が来るだなんて誰が想像できる?
「取り敢えず、歩いてみるとしよう。山一つ越えれば人里も見えるかもしれない」
敢えて声を出すことで自分の行動の再確認をする。何よりも風の音と鳴き声しか聴こえないような超自然の場所だ。言葉を発さないといざという時に声が出せないというもの。
人が居ない可能性もゼロではない。
--が、その心配はなさそうだ。
人の声が微かに聴こえたのだ。それも目指している山の方から。
見渡す四方に木々が茂り、遠近感が無くてどれだけ歩いたか分からなかったが、どうやらそれなりに近づいていたようだ。
私も少し歩みを早める。
「………けて!………か!」
ん?
「助けてくれー! 誰かー!」
子供の助けを求める声だったか!
確かに少し地響きや木の枝が折れるような音を感じる。この距離になるまで聞こえて来なかったと言うことは大型の動物ではないだろうが、狼などの小型の肉食動物だと逆に厄介だ。的が小さければ有効打になるヶ所もその分小さいのだから。
木々が弾ける音と共に森から出てきたのは、痩せ干せた身体がよく分かる程に薄い甚平を着ている年端もいかない少年。おまけに裸足だ。
「こげなとこでなにしと!?」
なんて可愛い九州弁(?)だろうか。ここは九州地方か?
少年はこちらを一瞥するなり、私の袖を引っ張って一緒に走り出してくれた。勿論、来た道を戻る形で私は自分の轍を通る事になる。
「少年は何から逃げている?」
「何からって魔物に決まっとぉ! あいつ人間の匂いば追ってくるけん! もっと遠くに逃げな!」
「魔物?」
私の疑問に応えてくれるように森の中から黒い影が現れた。比喩表現では無く、本当に黒いのだ。光の吸収率が高過ぎる。まるで影に追われてるようで何とも名状しがたい。目を凝らし(最早背走状態だ)ようやく視認できた影の形を私の知識で語るならばドーベルマン、だろうか?
それをもう少し肉太にした図体だが、目と呼べる箇所が存在していない。これは黒過ぎて見えないのではなく、本当にないのだ。なるほど、匂いで追ってくると言うよりもそれ以外に検知する術がないという事か。それにドーベルマンに近い形ではあるが口先が丸々鼻のようだ。
「はは。ぶっさいくだな」
「なに笑っと!? あいつば人の肉が好物やけん! 追い付かれたら一環の終わりばい!」
「しかし、君は助けを求めていたようだが?」
「助けて欲しいんは当然たい。でも、姉ちゃみたいな細腕であいつば止められん!」
「ふむ。つまり、成人男性の腕力ならあの魔物を止められると?」
「あいつば首が弱点ばい。大人の狩人は--」
「なんだ。殺せない生き物ではないのだね」
私は走るのを止め、魔物と向き合った。距離にして100メートルといったところだろうか。
「姉ちゃ!?」
「見ていたまえよ」
残り5歩くらいの距離で魔物は私に向かって吠えながら飛び掛かってきた。鳴き声は犬と言うよりも虎に近く、獰猛な牙が鮫の歯のように生え揃った大きな口が首元まで開いている。頭ごと噛み千切るつもりらしい。
私は汚そうな唾を交わしながら呟いた。
「一ノ瀬流剣術•無刀ノ参《流水》」
静かに魔物の首に腕を回して一気に絞め殺すことができた。
うむ。少年の助言通り首は脆く、折った感触がまるで鶏だ。首が横に90度曲がり鳴き声も発さず絶命したと見ていいだろう。鼓動も聴こえない。
「う、うそ……やん?」
「君のおかげで助かった。ありがとう」
「いや、え?なして?」
「ん?君が首の弱点を教えてくれなければもう少し混戦していた可能性もあるだろう」
「そ、そげなこと聞いてる訳じゃなかと……」
「どういう事だ?」
「あいつば動きが素早いけん。大人の狩人は匂い袋を囮に、気をそらしてからゆっくりと近寄るたい」
「なるほど。そういう手もあるか」
「そういう手って……ばってん姉ちゃは瞬く間に魔物の後ろば回り込んどぉし、首ば締め殺すし訳わからんばい」
そこまでの事をしたつもりは無かった。見た目が凶悪故に本質が捉えにくいのだろう。素早いと言えば素早いが、厄介と言うほどではない。
だが、少年の困惑している様子からもやはり異常なのだろう。
此処が何処だか分からない以上はこの少年に警戒されるのは得策では無い(既に間合いを拡げられつついる)。
母も言っていた『使えるのなら父親を使え』
「少年。私は特別な鍛錬をしているのだよ」
「特別な……?」
「そうだ。あの程度の魔物ならば大した手間ではない。むしろ、もっと危険な奴が居ないか知りたいのだが……?」
「山ン主のことばい!?」
上手く釣れたようだ。
「山の主……? 詳しく教えて貰えないかな…?」
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