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プロローグ

★戦国武将×偉人★混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記

 冷たい雨と、むせ返るような血の匂い。

 数十の敵に囲まれた絶望的な泥濘の中で、私は満身創痍の若き主君の前に立ち塞がった。


「……ゆ、きか?」

「待たせたな、我が主」


 折れた刀の代わりに拾い上げた無骨な刃を構え、私は敵の群れへと名乗りを上げる。


「私は立花家を支える銀翼――『由布 雪下(ゆふせっか)』!! 我が主の行く手を阻む者は、この翼が全て薙ぎ払う!!」


 白銀の軌跡が舞う。

 全ては、この気高き主君を大空へ羽ばたかせるため。


 だが。


 私が彼の本当の意味で『翼』になるのは、もう少し先の話。

 全ては、あの凄惨な夜の、未熟な誓いから始まったのだ。


   ◆ ◆ ◆


 二人の男女は骸に囲まれていた。

 異世界に相応しく、勝手に動き人を襲う骸ではない。先程までは命が確かにあった。二人の男女は先の潰れかけている刀や槍、鉈を武装していた野盗に囲まれていたのだ。

 その数27人。山の麓の小さなこの村なら簡単に制圧できる人数だ。

 しかし、男女は斬り伏せた。お互いの背を庇い合いながら村の防波堤になるべく27人の野盗をひとり残らず。

 血に塗られた白銀の甲冑を身に纏い、金髪蒼眼で少しだけあどけなさが残る美少年と、梳けば零れ落ちるような艶のある黒髪を頭の上でひとつに束ね、丈が少しだけ長いスカートにセーラー服を着た傷だらけの少女。

 その光景を近くで見守っていた村人たちは跪いていた。恐怖などでは断じてない。自然と、祈るようにして膝を折ったのだ。

 村を救った英雄二人に感謝の意を捧ぐために。敬虔なキリシタンのように。

 そよ風が血の匂いを何処かへ運び終えた頃。息を整えた少女は首に巻いていたスカーフで刀の血を拭い捨て鞘に収める。

 刀を振るったのは初めてではないが、人を斬り、命を奪う経験など平和な時代を生きていた少女にあるはずもない。

 数箇所に受けた刀傷が熱を込めはじめ、まさに焼けるような痛みを感じた。不幸にも刀傷を負う経験だけは人並み以上の少女はその熱が現実の物だと確信してしまう。

 夢ではないのだ。 


 人の命を奪う。


 護る為に剣を振るいなさいと教わった少女は、その護るべき剣で人の命を奪った事に激しく動揺した。刀を鞘に収めるまでは冷静に見えた少女も次第に震え、自然と両膝が折れた。長年の素振りの成果で、少女にしては厚い両の手で顔を覆う。

 目の前に広がる骸から隠れるように。言葉通りに目を背けた。

 永遠にも刹那にも感じる沈黙を破ったのは、先程まで背中を預けて共に戦った少年だった。


「僕が初めて人を斬ったのは今から2年前。今日のように村を襲う野盗を追い払った時だ。3人の男を斬り伏せた」


 少年は続ける。


「必死だった。自分も殺されるのではないかと恐怖に支配されていたのを今でも覚えてるんだ。それからも戦働きで156人の命をこの手で奪ってきた。今日で171人だ」


 少年は背を見せる少女の前に立ち、片膝をついた。


「それでも僕は命を奪うだろう。人から奪わねば生き長らえないような世界は間違っている。それでも……僕の手は小さい」


 少女が手を下げ少年を見れば、今までの少女のように手で顔を覆っていた。


「争いを止めることは出来ないんだ……だから今はせめて、僕は僕の民を守りたい。奪っていい命なんて順列なんて無いはずだけど、それでも僕の力だけでは全部を護れないから」


 少女に向けているようで少年自身の自問自答のようだった。少女にはそんな少年の姿が尊く清いものに見えた。自分にそこまでの強い心でいられるか分からない。少女は伏し目になるが、それを少年は許さない。

 少女の両肩に少年は手を置き言葉は続く。


「君が今日の日を罪と捉えるならばそれでも良い。それは間違っていない。だけど、その罪は僕の民を救ってくれた。見てくれ、あの村人たちの顔を。恐怖に震えていた民たちが、涙を流しながら君に感謝しているんだ。君の罪は誰かの救いになっているのを忘れないで欲しい」


 村から聞こえる感謝の声がようやく少女の耳まで届いた。

 次第に胸が熱くなる。

 鼓動の高鳴りは落ち着く気配も見せないが、先程までとは気持ちが違う。鼓動と共に重くなるようだった心臓が今は心地良い。

……そうか、あの笑顔を守る事が出来たのか。

 確かに私は罪を犯した。許されない事だ。いつかは罰が下るだろう。でも、その間だけでも彼らを護る為に剣を振るおう。

 少女は決意した。

 その決意に満ちた黒い瞳を少年の蒼色の瞳が真っ直ぐ捉え、満足そうに頷くと、少年は徐ろに立ち上がり名乗りを上げる。


「名乗るのが遅くなり申し訳がない。私は大友家家臣のリヒト·ツヴァイン。【立花宗茂】だ」

 

 彼の優しく透き通るような声が少女の耳から脳へ、やがて全身を駆け巡る。

 心臓の鼓動が大きく響き、胸の奥が燃えるように熱い。

 この日、少女、一ノ瀬雪夏の奥深くに刻まれた新たな感情の名は……


「私には生まれてよりこの方、剣の道しか歩んだことはない。しかし、研鑽の日々は平和な世にして何の意味があるのだろうかと考えていた……だが、今日この日。私は始めて己の歩んで来た道は間違えではない事を知った……! 一ノ瀬雪夏……汎ゆる障害を切り裂く為の刀として、貴方に忠誠を誓う! この身果てるまでお側に仕えさせて欲しい!!」


 忠義であった。

ご覧いただきありがとうございます!

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