プロローグ
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
※この章からシリアスと鬱展開が増えていきます
雨。泥。血の匂い
肺に鞭を打ち、ぬかるんだ獣道を這うようにして走っていた。
「はぁっ……、はぁっ……!」
下賜されたばかりの白銀の籠手は、すでに赤黒い血と泥にまみれている。本来の輝きは見る影もない。
私の肩には、力なくうなだれる宗茂殿の腕が回されていた。その体を支えながら、ただひたすらに暗い森の奥へと足を進める。
「……雪夏、もう……僕は……」
「喋らないでくれ。傷が開く」
背中から聞こえる宗茂殿の声はひどく掠れ、いつもの涼やかな響きは残っていなかった。その瞳からは光が失われ、焦点すら合っていない。
「追えぇぇ!! 立花の残党だ!!」
「絶対に逃すな! 隆信公の命だ、若造の首を獲った者には莫大な恩賞が出るぞ!!」
背後から迫る松明の明かりと、怒号。
龍造寺の兵たちが、死神となって我々の背中へとにじり寄ってきている。
「ちぃっ......! 嗅ぎつけてきやがったか!」
最後尾で血まみれの刀を握る三郎殿が毒づいた。彼の全身には無数の矢傷や切り傷が刻まれ、立っているのが不思議なほどの状態だ。
「三郎殿! 後ろは私が……っ」
「馬鹿野郎!! お前は宗茂様を連れて一歩でも前へ進め!!」
三郎殿の血を吐くような怒鳴り声に、私はビクッと肩を震わせた。
どうして。どうして、こんなことに……
ほんの少し前まで、私たちは確かに勝利の美酒に酔いしれていた。
皆が笑っていた。私の剣があれば、どんな敵が来ようと、あの笑顔を護り抜けると確信していた。
それなのに。
今の私には、立ち止まって刃を振るうことすら許されない。ただ逃げることしかできない。
『泥を啜ってでも、生き延びろ』
不意に、脳裏に声が響いた。
力強く私たちを抱きしめた、ひどく震えていたあの人の腕の感触。
ダメだ。思い出してはいけない。
今それを思い返せば、張り詰めた心は完全に砕け散ってしまう。
「ぐっ……、あぁぁぁっ……!」
声にならない嗚咽を噛み殺し、私はまた一歩を踏み出す。
護れなかった。何もかも。私の驕りが、全てを地獄の底へと突き落としたのだ。
誇りも、居場所も、全てを失った。
これは、たった一つの『綻び』から始まった、絶望への逃避行だった。
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