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第1話

★戦国武将×偉人★

混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!

「しっ……! はっ……!」


 立花山城の修練場。

 朝の冷たい空気の中、私は一人木刀を振るい、汗を流している。

 脳裏に浮かぶのは、先の総力戦で刃を交えた鍋島直茂殿の姿。

 あの一戦、本来はまともに打ち合って勝てる相手ではなかったろう。鍋島殿は戦場にもしもはないと言うが、三国最強の武将の力は、今の私の剣よりも遥か高みへとあった。

 悔しい。次にあいまみえる時は、小細工なしの純粋な地力で打ち勝たなければな。

 自然と木刀を振り下ろす力も強くなる。


「あら、朝から精が出ますわね、雪夏」

 

 背後から、鈴を転がすような可憐な声が響く。

 振り返ると、身の丈に合わない木刀を携えた横に長い耳の少女が立っていた。


「誾千代殿か」


◆◆◆

立花誾千代たちばな ぎんちよ

史実では立花宗茂の正室であり、立花道雪の娘。宗茂不在の折には、自ら武装して城を守ったと伝わる姫武将。

◆◆◆


 この世界では宗茂殿の実の妹君であり、道雪殿と紹運殿の血を引く姫だ。勝ち気な性格は私の知るイメージと相違ないが、兄である宗茂殿を「お兄様」と呼び慕う可愛らしい一面がある。

 顔付きは紹運殿に似て可愛らしいお顔立ちだが特徴ある耳は道雪殿のものと同じ。

 ふふ。これを言うと怒られるが人形のように愛らしいお方だ。


「おはよう。良い朝だね」

「おはようございます。……どうです? 朝餉の前に私のお相手をしてくださらない?」

「喜んで」


 私たちは向かい合い、木刀を構える。

 誾千代殿は時折こうして立ち会いを希望されるのだ。将来が楽しみだな。


「行きますわよ!」


 誾千代殿が地を蹴り、鋭い踏み込みから一撃を放つ。

 それを受け流すが、刀身から伝わる重さと速さは、年端の行かぬ少女のものとは思えないほど洗練されていた。


「甘いですわ!」


 次々と繰り出される連撃を躱しながら、私は内心で舌を巻く。

 まだ体が完成していないため力負けこそするが、その天性の武のセンスは疑いようがない。

 宗茂殿と同じく、道雪殿や紹運殿の血を色濃く引いている証拠だ。

 あと数年もすれば、間違いなく宗茂殿と肩を並べる武人に成長するだろう。

 そんな頼もしい未来を想像しながら、彼女の木刀を峰でふわりと逸らして体勢を崩させた、その時だった。


「姫様ー! 朝餉の支度ができとうよー!」


 修練場の入り口から、のんびりとした九州弁が聞こえてくる。

 お盆を抱えて小走りでやってきたのは、私の愛弟子・十吉くんだ。働かざる者食うべからず。戦に連れていく訳にもいかず、彼はお城に住み込みで、主に誾千代殿の世話係として働かせてもらっていた。


「わっ……と!」


 十吉くんの声に気を取られた誾千代殿が、バランスを崩して尻餅をつく。


「もう! 遅いですわよ、十吉! ご飯が冷めたらどうするおつもり!?」

「えぇ!? 姫様が朝餉前に身体を動かしてくるって飛び出したんじゃなか?? それにまだ湯気も立っとるよ?」

「そういう問題じゃありませんの! ……べ、別に、朝から貴方が忙しなくて寂しかったとか、そういうわけじゃありませんからね!」


 長い耳をピク付かせながら顔を真っ赤にしてそっぽを向く誾千代殿に、十吉くんは「はぇ? 寂し? 何かあったと?」とキョトンとしている。


「鈍物! 十吉の馬鹿! もう知りませんわ!」

「なんで怒っとると!? 姫様、待ってばいー!」


 修練場を出て行く誾千代殿の背中を、お盆を抱えた十吉くんが慌てて追いかけていく。

 

「あの歳頃の娘と言うのは気難しい物だな。私もあのような時分があっただろうか」


 私は木刀を下ろし、その微笑ましい光景を見送った。

 うむ。理不尽な主君の元で働くのもまた修行だ。武への道は険しいぞ、励めよ十吉くん。


「……はぁ」


 不意に、横から呆れ果てたような長いため息が聞こえた。

 いつの間にか修練場の入り口に寄りかかっていたのは、三郎殿だ。


「どうした、三郎殿。朝からため息などついて」

「お前なぁ……師弟揃って正真正銘の『朴念仁ぼくねんじん』かよ」

「朴念仁? 私が?」

「あー、もういい。面倒くせぇ」

 

 どう言うことだ?

 答えを出してくれぬまま、三郎殿は自身の頭を乱暴に掻き回すと、表情を引き締めて私を見た。


「そんなことより、この後大広間で『軍評定』だ。宗麟様からの指名で、お前も同席しろとさ。朝飯食ったらさっさと来い」

「軍評定……わかった。すぐに準備して向かおう」


 その時の私は、まだ胸を躍らせていた。

 次なる戦場はどこか。この剣で、どれほどの武功を立てて皆を護れるのか。

 出陣先が決まるまでの私は、さぞや能天気な小娘に違いなかった。


ご覧いただきありがとうございます!

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