第14話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
「此度の戦は大勝利! 皆の者、存分に飲めぇい!!」
宗麟殿の音頭と共に、祝宴の幕が上がった。
龍造寺との総力戦を制した大友陣営のあちこちから笑い声が上がり、次々と酒器が空けられていく。
あの日の宴も賑やかに思えたがこれはそれ以上だな。
「刮目せよ!此度の戦において武功第一を挙げたのは立花宗茂が家臣一ノ瀬雪夏! 見事、龍造寺家の重臣、鍋島直茂を退けてみせた!」
上座から名を呼ばれ、私は居住まいを正して進み出た。
「あの直茂を相手によくぞ生き残り、そして退けた。これはわしからの褒美だ。受け取るがよい!」
「謹んで頂戴しよう」
押し戴くようにして受け取ったのは、一対の『白銀の籠手』だった。
見た目の重厚さに反して軽く、月明かりを反射して白く輝いている。
「ガッハッハ!気に入ったか?これは宗茂と同じ工に作られた特別な逸品よ」
「あぁ。とても良いな」
褒美、か。
ふと、父がくれたぬいぐるみを思い出す。私には似合わない可愛らしいものばかりだったが、あれを貰うのは嬉しかった。
新たな籠手の感触を確かめていると、陣の入り口がにわかに騒がしくなる。
「おぉ!道雪、紹運!来たか!」
「はっはっは! 遅れてすまない! 毛利の抑えがあったとはいえ、愛しいリヒトや雪夏の活躍を見逃すとは一生の不覚!」
「………………!(コクコクコク)」
毛利家の牽制に出向いていた道雪殿と紹運殿が、祝宴に駆け込んできた。
紹運殿が瞬きする間に私の目の前へ滑り込み、両肩を掴んで頭を激しく撫で回し始めた。
「わっ、と......! じょ、紹運殿、髪が……っ!」
普段厳しい母も、仕合に勝った日は頭を撫でてくれたものだ(ここまで激しくはないが)
むず痒いが、悪い気はしない。
「母上、雪夏が困っています。……父上もご無事で何よりです」
「おお! リヒト、務め御苦労!」
宗茂殿が苦笑いして宥めるのも聞かず、今度は道雪殿が私の背中を力強く叩く。
「聞いたぞ雪夏! 第一の武功とは恐れ入った! 有言実行したな、偉いぞ」
「うむ。宗茂殿に恥じる戦を見せるわけにはね」
「はっはっは! 言うではないか!」
「はぁ、僕は君が無事ならそれだけで良いのだけれど……十吉!君もお師匠に一言注意してくれるかい?」
宗茂殿が、遠くで給仕をしていた十吉くんを呼ぶ。
盆を抱えた小さな影が小走りで近づいてきた。可愛い。
「姉ちゃ! 第一の武功、おめでとうばい!」
「十吉くん」
その顔は、自分のことのように誇らしげだ。
「でも、宗茂様に心配かけちゃいけんよ?」
「う……」
御本人に言われるよりも、十吉くんに諭される方が余程堪えるな。少しは考慮するとしよう。出来ればだが。
「おいガキ、酒がこぼれそうになってんぞ」
「わっ! 三郎のおっちゃん、急に後ろから声かけんでよ!」
「ちっ、誰がおっちゃんか」
三郎殿が憎まれ口を叩きながら十吉くんの盆を支え、私の方へ酒器を差し出した。
「ほらよ、新入り。お前が一番の功労者だ、飲め」
「……いや、私はまだ……」
「あぁ? 元服前なこたぁねぇだろ」
忘れていた。戦国と同じ時代ならば飲酒は当然か。
些か背徳感はあるが、折角の祝宴で断るのは野暮だ。郷に入っては郷に従え、だな。
「すまない、戴こう」
「おう」
注がれた白い酒を口に含む。思ったよりも口当たりが良く、呑みやすい。
「旨いな」
「そりゃそうだ。勝利の美酒って奴だからな」
勝利の美酒。
酒が喉を通り、心地よい熱が全身を巡っていく。
褒められることへの喜び。自分の力が認められ、この陣営の役に立てたという誇り。
それらが胸の中で弾け、私は自分でも驚くほど熱を帯びた声で宣言していた。
「皆の期待に応えられるよう……次も必ずや、私が一番の武功を挙げてみせよう!」
「「「おおーーっ!!」」」
兵たちから歓声が上がる。
宗茂殿が優しく微笑み、道雪殿と紹運殿が満足そうに頷き、十吉くんが跳ねて喜んでいる。
私は酒器を持ったまま、その光景を静かに見渡した。
家族。仲間。私の居場所。
「(このみんなの笑顔を、必ずこの手で護ってみせる。自分の全てを投げ捨てても……私なら、それが出来る)」
強すぎる想い。純粋すぎる誓い。
勝利の美酒に酔いしれる私の心は、誰にも気づかれることなく、小さな”怪物”を孕んでいた。
次に待ち受ける戦場で、それが全てを粉砕する絶望へと成長するなど、この時は知る由もなかった。
第一章 ~完~
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