第13話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
筑後川の対岸、戦場の中央。
数万の兵が息を呑んで見守る空間が出来上がっていた。
一ノ瀬雪夏の刀と鍋島直茂の戟が、目にも留まらぬ速さで激突を繰り返している。
「凄まじい娘だ……」
陣の立て直しを図りながらその死闘を見守る大友本陣で、宗麟が愉快そうに口角を上げた。
ただ腕が立つだけではない。あの直茂を相手に、一歩も退かずに渡り合っている。宗麟の目には、あの娘が愛弟子である立花宗茂と共に、将来の大友家を支える『双璧』になる確信が浮かんでいた。
「よいか、お前たち! あの嬢ちゃんはこれからの大友に不可欠な宝だ。万が一の時は、お前たちが盾になってでも護り抜け!」
「「「ははっ!!」」」
「(懐かしい大航海時代を思い出すわ)」
本陣が宗麟の豪快な号令に沸き立つ中、立花宗茂は静かに彼女の背中を見据えていた。
「(……僕たちが護るまでもない、か)」
先程までは自ら死地へ飛び込んでいく彼女の背中に、強い心配と焦りを抱いた。
(私を……信じてほしい)
不思議なことに今の宗茂の胸には「彼女ならやってくれる」という信頼が生まれつつある。
その傍らで、三郎がぽつりと声を漏らした。
「……化け物め」
もしあの場にいるのが自分であれば、九州屈指の猛将とあれ程刃を交えることができるのか。圧倒的な武の才への、僅かな嫉妬心が三郎の胸で燻る。
その小さな焦燥を感じ取ったのか、宗茂が前を見据えたまま微笑んだ。
「三郎。僕たちも置いてかれないようにしないとね」
「……あぁ」
二人の若武者の視線は、再び激突を繰り返す戦場の中央へと吸い込まれていった。
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その戦況を、激戦の平原から遠く離れた小高い丘の上から、南蛮渡来の遠眼鏡越しに覗き見ている若武者の姿があった。
「こりゃあ、たまげた。おもしとかおごじょ(面白い娘)がおるねぇ」
のんびりとした薩摩弁が漏れる。
「あの鍋島と真っ向からやり合うとは……こん戦、大友の勝ちごたるな。こんこつは、兄上たちに報告せんば」
彼の冷徹な観察の目に、激戦の只中にある雪夏たちが気づく術はなかった。
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「はぁっ!」
「ふっ、甘いぞ小娘!」
遠眼鏡のレンズの先。
刃を交える雪夏と直茂の顔には、純粋な笑みが浮かんでいた。
敵味方や主君の命令すら忘れ、ただ互いの武をぶつけ合う。己の全力を引き出してくれる好敵手との交刃を、両者は心の底から楽しんでいた。
しかし、決着の瞬間は唐突に訪れる。
「さっさと始末せんか!ウスノロ!」
直茂が戟を振り下ろそうとした刹那。彼の耳に、憎き主の怒号が聴こえてきた。
『己の主が董卓である』その事実がノイズとして走ったのだ。
瞬きにも満たない動揺であったが、その『隙』雪夏の狙いだった。
「一ノ瀬流剣術・一刀ノ壱《桜吹雪》!」
戟が空を切るより早く、雪夏が懐へ潜り込み、その首筋に冷たい鋼をピタリと突きつけていた。
両者の動きが止まる。
戦場を支配していた大気の揺れが静まった。
「ふん……見事だ」
直茂はゆっくりと得物を下ろし、敗北を認めた。
「まさか、この己が一騎討ちで遅れをとるとはな」
「いや」
雪夏は刀を引き、静かに首を振った。
「貴方は宗麟殿とも打ち合いをしている。それに動揺を誘ったのは私だ。まともに戦えば勝てなかった。まだ、貴方程の高みへは至っていないな」
「……戦場に『もしも』はない。貴様の勝ちだ、誇れ小娘」
最強の盾であった直茂が敗北を認めた瞬間、龍造寺軍の士気は完全に崩壊した。
「ひぃぃっ! な、直茂が負けただと!!? 退け! わしを護れぇっ!!」
御輿の上で隆信が喚き散らし、龍造寺の兵たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
それを見た宗麟が、拳を天高く突き上げた。
「敵が崩れたぞ!! 今こそ大友の力を見せつける時! 全軍、突撃ぃ!!」
「「「おおおおおおっ!!」」」
大地を揺らす歓声と共に、大友家の全軍が追撃へと雪崩れ込んでいく。
龍造寺の崩壊を見届け、雪夏は刀を鞘に納めて自陣へと戻った。
「おかえり。見事な戦ぶりだったね」
安堵の笑みを浮かべた宗茂が出迎える。
「あぁ。ただいま戻った。見届けてくれてありがとう」
雪夏は笑みを返すのだった。
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