第12話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
戦場の中央。
総大将である宗麟殿が、その巨躯を盾にして鍋島殿の長柄の猛攻を真っ向から受け止めている。
恐らく、我々の為に時間を稼ごうとしてくれたのだろう。互角に見える打ち合いも、純粋な武人である鍋島殿が徐々に押し始めている。
このままではいけない。
「宗茂殿!私に、宗麟殿を助けさせて欲しい。私ならばあの御仁の隙を作れるはずだ!」
「しかし……」
「私を……信じてほしい!」
宗茂殿は私の折れた刀と瞳を交互に見つめると、諦めたように静かに頷いてくれた。
「……わかった。僕はここで一旦陣を立て直す。雪夏、絶対に無理はしないでくれよ」
「あぁ、約束する」
「おい、新入り。そんな刀じゃ素手の方がマシだろうがよ」
横から三郎殿が舌打ちをしながら、予備の刀を鞘ごと放り投げてきた。
「こいつを使え。次、折ったら給金から引くからな」
「感謝する、三郎殿!」
私は真新しい刀を抜き放ち、再び死地へと地を蹴った。
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「ぐおおっ……!」
鍋島殿の重い一撃を籠手で受け止めていた宗麟殿が、大きく体勢を崩され、そこへ容赦のない刃が振り下ろされる。
「--一ノ瀬流剣術・二刀ノ参《秋雨》!」
私は宗麟殿の前に滑り込み、三郎殿から借りた刀と鞘を交差させてその一撃を弾き逸らす。
くっ……やはり重いな。刀が折れず良かった。
「小娘……性懲りもなく戻ってきたか」
「宗麟殿、ご無事か!」
「おお、嬢ちゃん! 助かったわい。しかし、こやつ……底知れぬ化け物だな!」
宗麟殿が荒い息を吐きながら豪快に笑う。
流石は我が主君の仕える御仁だ。
「鍋島殿は紹運殿と同じ別世界の魂を持つ覚醒者だ!」
「ほぅ……?己の他にもそういった者が居るのか……ふん。今世は夢幻の類いだと思っていたが」
「あやつもか!通りで有り得ん強さのわけだ!」
そう。有り得ない程強い武将なのも当然だ。もし、私と"同じ世界で、別の時代から転生する者"がいるのなら。
歴史上比類なき一騎当千の人物。
「暴君の下に仕える最強の人物。鍋島殿、貴方の魂は……『呂布』だな!」
◆◆◆
【呂布】
字は奉先。三国時代最強の武将と謳われる人物。
愛する者の為に義父を討ち取った、天下の裏切者とも呼ばれている。
◆◆◆
私以外にも転移者や転生者がいる世界だ。時を越え、いにしえの古強者が同じく転生していても不思議ではない。
私の推測に、鍋島殿は動きを止めた。
しかし、その反応はひどく冷ややかな、しかしどこか不思議な目を私に向ける。
「……何故だ?何故貴様の口からその名が……?」
「私は貴方が活きた時代よりも後世の生まれ。私の居た日本でも、呂布奉先の名は知らぬ者の方が珍しい」
「……何と。あの方の武名は中華全土に止まらず、海を越えて轟いていたのか」
頬を伝う水滴。
な、涙か……?
どう言うことだ。口振りからして呂布本人ではないのか?
このままでは離間の計を仕掛けるつもりが、当てが外れてしまう。
「礼を言う、小娘。己が尚、目指す武の骨頂は遥か高みへ届いていたか」
「……それは、間違いないね」
「では、その名に恥じぬよう己も全力を尽くそう……この現に生を賜り封じていたが、この時だけは古の名を名乗らせていただく」
鍋島殿の気が異常なまでに昂り始め、足元の大地が微かに揺れる。
「宗麟殿!一度下がられよ!殿は私が努める!」
「お嬢ちゃんも適当に引け!これは無理だ!」
「我が名は龍造寺家が家臣、鍋島直茂。我が魂は呂布軍が一番槍”張文遠”なり!!」
「張文遠だと!?」
「遼!来!来!!」
頭上から剛戟が振り下ろされる。
「……な!一ノ瀬流剣術・二刀ノ終《雨龍天晴》!」
交え合わせた刃から重い衝撃が全身を貫く。今度は上手く地面へと力を逃がす。地が割れ、両足が泥に埋まる。
「一度とならず二度防ぐか……面白い!」
◆◆◆
【張遼】
字は文遠。泣く子も黙るの語源になったとも言われる三国志魏軍の猛将。曹操に仕える前は呂布の下へ居たことで有名。
◆◆◆
予想が外れた。”あの暴君”の下にいる最強の武将といえば呂布だと思い込んでいたが。
だが、それなら尚のこと疑問が残り、憤りすら感じる。
「ならば何故だ!」
私は刀を構えたまま問い詰める。
「私の知る張遼は武勇に優れた義の将!何故また、あのような男に付き従うのだ!」
鍋島殿は小さく鼻を鳴らした。
「……武人として、どのような者であれ一度主君と定めたからには、その命に従うのが当然の理であろう。あの方が龍造寺の当主である以上、私は鉾を振るうだけだ。ふっ……それにしても己の武名もまた--」
「あれが董卓だったとしてもか!?」
「……はぁ??」
鍋島殿の口から、およそ戦場には似つかわしくない素っ頓狂な声が漏れた。
目を丸くして私を見つめている。
「あいつ……董卓……?」
「気づいていなかったのか? どう見ても董卓だろう。輿を担がせている兵の扱いを見ろ」
私が御輿の上でふんぞり返っている隆信を顎でしゃくると、張遼殿は信じられないものを見るように自らの主君を振り返った。
「あ、ああああっ……!!」
張遼殿が、頭を抱えて天を仰いだ。
「だからか! だからあやつのやり方にずっと言い知れぬ不安と反発を覚えていたのだ! なんということだ、私は二度も、二度もあのような豚に仕えることになってしまったというのか!!」
三国屈指の猛将が、陣の中央で頭を抱えて崩れ落ちている。
思っていたのとは少し異なるが、この明らかな『隙』を逃す手はない。
今の私では残念ながら本気の鍋島殿には勝つことが出来ないだろう。
だからこそ、この好機を利用させていただく!
「いくぞ!」
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