第11話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
それからも私たち立花軍の活躍もあり、敵陣深くへと陣を押し込むことに成功した。
大友家本隊は、ついに肥前の国境・筑後川の対岸にて、龍造寺家の本隊と対峙することになる。
見渡す限りに広がる両軍の陣と、無数にはためく旗印。
なるほど。これまでの局地戦とは比較にならない、数万の兵が激突する正真正銘の『総力戦』。大地が揺れているようだ。武者震いとはまさにこの事か。
「……あれが、肥前の熊と呼ばれる龍造寺隆信の本陣」
馴れない馬の手綱を握りながら、私は対岸の中央に陣取る異様な光景に目を奪われていた。
「おい、あれを見ろ。なんだあの巨大な輿は」
三郎殿が怪訝そうに目を細める。
敵陣の中央。騎馬や床几ではなく、数十人もの兵士たちが肩に担ぐ巨大で豪奢な『御輿』に常軌を逸した巨漢が鎮座していた。
しかし、それを担がされている兵たちの姿は、一様に痩せこけ、装備もボロボロだ。
苦痛に満ちた呻き声をあげ、奴隷のような扱いをされている。
そうか、宗麟殿があの時仰っていた……
確かにあの者は熊ではなく豚だな。
「ギャハハハハ! 大友の弱兵どもめ! 我が前に立ち塞がる者は、一人残らず挽肉にしてくれるわ!」
◆◆◆
【龍造寺隆信】
大友宗麟と並ぶ九州三強の一人、肥前の熊。
一代で支配勢力を拡大した戦国大名。
◆◆◆
はち切れんばかりの肥満体型。脂ぎった顔に浮かぶ酷薄な笑み。
史実でも馬に乗れない程の肥満であったと言われているがここまで醜くはなかっただろう。
一国の主というよりも、暴君の姿そのものではないか。到底許すことなどできない。
「全軍、突撃ぃ!!」
隆信の号令と共に、龍造寺軍の先陣が地鳴りを立てて川を渡り、私たちの陣へ殺到してくる。
総力戦の火蓋が切られた
「迎え撃て! 西国無双の意地を見せてやれ!」
三郎殿の号令で、立花軍も一斉に槍を構えて応戦する。
私も刀を抜き、宗茂殿を護るべく前線へと躍り出ようとした、その時だった。
「……退け。そこは私の通る道だ」
喧騒を切り裂くような、低く静謐な声。
直後、前線を支えていた立花軍の足軽たちが、言葉通り"吹き飛ばされた"。
人とはあんなにも軽々しく飛ばされるものなのか……?
「なっ……!?」
土煙の中から現れたのは、一人の騎馬武将だった。
手には、戟のような巨大な長柄の武器が握られている。
「鍋島、直茂……!」
宗茂殿が息を呑む。
◆◆◆
【鍋島直茂】
龍造寺家の重臣。
天下人に『天下を取るには知恵も勇気もあるが、覇気だけがない』と称された武将。
◆◆◆
「覇気がないとは……冗談が過ぎる」
目の前の男は恐ろしいほど静かだが、肌を刺すような『死』の気配を纏っていた。
「……邪魔だと言っている」
鍋島殿が一閃する。
ただ、横薙ぎに振られた長柄は、数人の兵を両断し、立花の前線を容易く食い破ってみせた。
まずい。これでは折角押し上げた前線が崩壊してしまう。
「……強い」
私は無意識に呟いていた。
これまでの相手とは違う。あの男は、間違いなく一騎当千の『本物』だ。
「おい、直茂! 何を手こずっておる! 前がつっかえておるではないか、味方ごと押し潰してでも進めい!」
後方の御輿の上から、隆信の苛立った怒号が飛ぶ。
味方ごと押し潰せ?
自軍の兵をなんだと思っている。戦国大名としても、あまりに常軌を逸した指揮だ。
しかし、直茂はその暴虐な命令に反発するでもなく、ただ一瞬だけ辟易としたように眉をひそめるに留める。
この異常な主従関係。それに、あの武将の身のこなし……。
なんだ、この違和感は。
点と点が繋がりかけるが、それを考察している暇はない。鍋島殿の凄まじい闘気が、真っ直ぐに宗茂殿へと向けられたからだ。
「まずい!宗茂殿、下がってくれ! あの男は私が止める!」
「雪夏!?」
馬を蹴り、自らが前へと躍り出る。
頭上から振り下ろされる長柄を、一ノ瀬流の体捌きで刃を合わせる。
しかし、受け止めることすら許されない重量が両腕にのしかかった。手にした刀が中程からへし折れ、両手から感覚が消え失せる。
くっ……すまない。
「……はぁぁぁぁ!」
「よく"受け流した"な。小娘」
馬は潰れ、骨が軋む。それでも私は折れた柄を握りしめて鍋島殿を睨みつけた。
「はぁ、はぁ……同意だ」
「では、逝ね」
「雪夏!!」
宗茂殿の悲痛な叫びが響く。鍋島殿が長柄を振り上げ、無慈悲な死の刃が私の首めがけて振り下ろされようとした
――まさにその時だった。
「「うぎゃああああ!!」」
突如、戦場の中央付近から龍造寺兵たちの悲鳴が上がった。
視線を向ければ、大友家の総大将である宗麟殿が自ら前線に躍り出て、敵兵をちぎっては投げの大立ち回りを演じている(これも言葉通りの意味だ)
「ガッハッハ!! 豚が!! 見た目に反してちまちま戦いおって!! さっさとこっちへ来てわしと戦え!!!」
図星を突かれた隆信が、御輿の上で顔を真っ赤にして怒り狂う。
「宗ぉぉぉぉぉ麟んんん!!! 直茂ぇ! 何をさっとしておる! 早く奴を止めにいかんか!!!」
「……ちっ」
私の頭上に刃を振り下ろそうとしていた鍋島殿が、忌々しそうに舌打ちをした。
そして、不本意そうに私から視線を外し、長柄を引き戻す。
「……命拾いしたな」
短くそれだけを言い残し、踵を返して宗麟殿のいる中央戦線へと馬を走らせていった。
「大丈夫か!? 雪夏!」
宗茂殿と三郎殿が駆け寄ってくる。
私は折れた刀の柄を握りしめたまま、荒い息を整えてゆっくりと立ち上がった。
「大事ない。大事ないが……漸く分かった」 「何がわかったってんだ?」
「この違和感の正体だよ」
兵を使い捨てにする巨漢の暴君と、それに辟易としながらも従う最強の武将。
脳内で一つの仮説が形作られる。
そうだ。むしろ、最初からその可能性を考えるべきだった。彼らも"覚醒"した武将であるのは疑いようもない。
ここは異なる世界から転移転生した者が集まる戦国だ。ただ、一番の過ちは私や紹運殿"だけ"が同じ世界から来たと決めつけていた事だろう。
もし私の仮説が正しければ……
この窮地を脱することが出来ても、この世界は何処までもカオスな盤上なのかも知れない。
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