第10話
★戦国武将×偉人★
混沌極める乱世で、少女が運命に抗うIf戦記。予測不能な異世界戦国時代の幕開け!
あれから一週間くらい経っただろうか。私は晴れて合戦の地へ足を踏み入れていた。
肥前の国境。
龍造寺家との小競り合いを続けている。
「押し込めぇっ! !」
三郎殿の号令と共に、立花軍の兵たちが次々と敵陣を押し込んでいく。
私も前へ立ちたいという気持ちを抑え込み、一番の大事である主の側を固めている。
「よし、このままいけば……」
「そこまでだ、立花の若造!!」
「我らが精鋭の陣、これ以上は一歩も通さん!」
戦場の土煙を裂いて、筋骨隆々な大男たちが私たちの前に立ちはだかった。
彼らは一斉に得物を構え、見事なシンクロ率で戦隊モノのようなポーズを決める。
「龍造寺家筆頭!成松信勝!」
「百の武勇!百武賢兼!」
「忠義の心!木下昌直!」
「無双の剛!江里口信常!」
「主君の盾!円城寺信胤!」
「「「「「我ら!龍造寺四天王!!」」」」」
私は思わず瞬きを繰り返した。
拍手をしそうになる気持ちをグッと堪える。一度だけ父とヒーローショーを観に行ったのだ。あれはとても良いものだった。
「……三郎。僕の数え方が間違っていなければだが」
「ああ。奇遇だな、宗茂様。俺の目にもそう見える」
三郎殿は刀の切っ先で、目の前でカッコいいポーズを決めている将たちを端から順番に指差した。
「いー、にー、さー、しー……ご。いや、五人いないか?」
「どう見ても五人いるね」
宗茂殿と三郎殿の冷静なツッコミに、ポーズを決めていた五人の大男たちがビクッと肩を揺らす。
「すまない。もう一度名乗ってくれるかい?」
宗茂殿が真顔で尋ねると、男たちは顔を見合わせ、成松殿が慌てて咳払いをした。
「え、ええい、やかましい!『四天王』とは我ら龍造寺を支える最も勇猛な武将に与えられた誉れ高き称号! 四人という数に囚われるなど笑止千万!」
「左様! ちなみに某は最近四天王に加入したばかりの五人目だ!」
端にいる円城寺殿がなぜか胸を張る。
「これがかの有名な龍造寺四天王か!素晴らしい!とても、華やかではないか!」
「いや、5人いるけど……」
「何を言う、宗茂殿!龍造寺家の四天王と言えば5人ではないか!」
思わず目を輝かせる私に、百武殿と江里口殿が喜色満面の笑みを浮かべている。
「ふっ……"分かってる"お嬢さんだな」
「とは言え、ここは戦場。手加減はせんぞ?」
龍造寺家きっての名将と名高い5人だ。
相手にとって不足なし!
「私は大友家家臣、立花宗茂が剣--一ノ瀬雪夏。龍造寺四天王方、尋常に勝負!」
「ほほう、見所のある小娘よ! その度胸だけは褒めてやろう!」
成松殿が大剣を構え直した瞬間、彼らから発せられる空気が一変した。
肌を刺すような闘気。
数多の死線を潜り抜け、主君のために命を懸けてきた猛将たちだけが持つ、重く、確かな『誇り』を感じる。
「行くぞ! 我ら四天王の完璧な連携攻撃、その身に刻んでくれる!」
五人の巨漢が一斉に地を蹴った。
成松殿と百武殿が正面から大上段に振り下ろし、木下殿と江里口殿が左右から退路を塞ぐ。遅れて飛び込んできた円城寺殿が、死角からの刺突を狙う。
無駄のない、見事な五位一体の連携だ。
「雪夏、三郎! 一度引くんだ、あの連携は危ない!」
宗茂殿の鋭い声が響く。
常であれば、主の命に従うべき場面であることは理解できる。
だが、私は一歩も退かなかった。いや、退きたくなかったのだ。
「……見事だ」
迫り来る五つの凶刃を見つめながら、私は彼らへの敬意と共に、冷静にその軌道を分析していた。
恐ろしく研ぎ澄まされた連携。
しかし、母はまるでこのように多人数を相手取る方法まで教示してくれていた。両手に木刀を持ち、さらに足元の石を無数に蹴り飛ばして『死角』を作ってきたのだ。
その稽古に比べれば、武将たちの洗練された動きは、むしろ素直で読みやすい。
「一ノ瀬流剣術・一刀ノ肆《乱れ桜》」
ドンッ、と地を蹴る。
私は彼らの連携を崩すため、五つの武器が交差する『中心』へと自ら飛び込んだ。
「なっ……自ら死地に!?」
「いや、違う! 軌道が――!」
成松殿の大剣を峰で滑らせて逸らし、その遠心力を利用して左の木下殿の武器を弾く。空いた死角へ滑り込み、百武殿と江里口殿の体勢を崩させ、最後に放たれた円城寺殿の刺突を半身で躱し、その首筋へ刃をピタリと寸止めした。
「そこまでだ」
私の静かな声に、五人の動きがピタリと止まる。
彼らは首筋に当てられた冷たい鋼と、一瞬で制圧された自分たちの状況を理解し、愕然と息を呑んだ。
「……見事な剣技だ、娘。我らの負けだ」
成松殿が静かに得物を下ろす。それに倣い、他の四人も次々と武器を引き、龍造寺の兵たちは潮が引くように退却していった。
「雪夏! 無茶な飛び込み方を……怪我はないかい!?」
敵が退いた直後、宗茂殿が血相を変えて駆け寄ってきた。
「大事ない、宗茂殿。私の剣は、あの歴戦の猛将たちの連携にも対応することが出来た。しかしながら流石は龍造寺四天王。素晴らしい武だ」
私は刀を鞘に納め、自分でも驚くほど弾んだ声で答えていた。
「ったく、大将の背中を護らねぇで突っ走ってんじゃねぇよ」
三郎殿が私の頭を軽くこずく。
「確かにそうだな。すまない、宗茂殿。貴方も大事ないか?」
「うん、僕は大丈夫だ。単身で心配はしたけど、あの連携を前に良く立ち回ったね」
「あぁ!実に見事な連携だった!」
私の心臓は、激しい戦闘の余韻とは違う、甘い熱情で高鳴っていた。
平和な世では私の力はある意味過剰であった。しかし、この戦国の世では『誰かを護るための力』として十分に発揮できる。
「よし。次はどうする? もう少し前線を押し上げるか?」
「今はこれ以上深追いする必要は……」
宗茂殿の声をよそに、私の足は自然と次の敵陣へと向かいかけていた。
「おい、新入り」
ふと、横から三郎殿の低い声が飛んできた。
「お前、今……主君の命令より、自分の太刀がどこまで通用するか試すことを優先しなかったか?」
「っ……!?」
胸の奥を冷たい刃で撫でられたような感覚に、私は足を止めた。
「そ、そんなことはない! 私は最適な戦術を選んだまでだ!」
「……そうかよ。ならいいがな」
三郎殿はそれ以上は何も言わず、踵を返した。
私は自らの手のひらを見つめる。
護るための手段だったはずの剣。
だが、その手は今、自身の過去が肯定された喜びに震え、もっと自分の価値を証明したいと願っている。
それに気づいた時、私は自分の中に生まれた小さな『綻び』に、少しだけゾッとした。
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