閑話 マゼラン_6
そんな彼女がいなくなったと聞いた時、
サークリット同様、マゼランも立ち尽くした。
いや、サークリット程ではないが、生きる気力が抜けていく気がした。
そんなマゼランの背を叩き、叱ったのは紫音に起きた本当の顛末を知らない父。
「かの方がこの国を去った今、かの方が望んだ未来を護れるのは
お前だろうがっ!!!
かの方に再びお目見えする時、ココがダメになっていたら、
お前はなんとお詫びするつもりだっ!
しゃんとせんかっ!!!!!」
当初、手を離れた長男可愛さに身代を抵当に入れた愚かな者と蔑まれた父は
2年弱で借金を返し、今もどんどんその身代を大きくしている。
そんな父をかつて嘲笑していた者たちが、
先見の明があるなどともてはやすのだから、馬鹿馬鹿しい。
父はかつて、借金を心配するマゼランにこう言った。
自分はタナカ譲に未来を見たから、商人として賭けに出ただけだ、と。
父には彼女が光る原石に見えたらしい。
そして、父の真贋が正しかった事は証明された。
付き合いが深まる中で、
タナカが王太子妃シオンと知ると、父はより深く彼女を崇拝するようになった。
だから、シオンが国を去った事に心を痛めていたのは父も同じ。
でも、国ではなく、この世を去ってしまったのだ、と
シオン・ウードランドがこの国を再び訪れても、彼女とは二度と会えないのだと
マゼランは喚きたかった。
もちろん、そんな事は誓約により、絶対に出来ないが・・・・・・
でも、叩かれた背の痛みと父の潤んだ目を見て、正気に戻った。
そうだ、こんな事をしている場合じゃない、と・・・・・・
抜け殻と化したサークリットに辞表を叩き付け、城を降り、
薬草園の管理をしつつ、紫音がずっと気にしていた孤児院を見舞う。
紫音の遺志を継ぐ。それこそ、マゼランに遺された道しるべ。
そんな忙しい日々を送っていたマゼランの元へ
黒い仔猫の指輪繋がりで、神官長に話を聞いた。
サークリットが竜の降臨の儀を行い、紫音を取り戻すつもりだと・・・・・・
マゼランはずっと放置していた友、ダウウルクの元へ駆け込んで
詳しい話を聞き、同行を求めた。
ダウウルクは最初渋っていたが、
課されたトレーニングを毎日やり切るうちに認めてくれた。
しれっと、処理されてない辞表もダウウルク経由で取り戻し、破棄した。
そして、ついにその日が来た。
確率が低かろうが、何だろうが、譲るつもりはない。
サークリットなら、望む未来をきっとその手に掴むはずだ。
サークリットとはそう言う男だ。
ワイバーンの背にしがみ付いて、大きく広がる空を見据え、マゼランは誓う。
「貴女の身体は私がきっとお守りします。
だから、どうか、どんな形でもいい。早く帰ってきてください・・・・・・」




