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Fable ― 異世界に転生した俺の物語 ―  作者: ソガシリュー11
第一章:死から始まる物語
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第1章 (第20話)『ログ1』

俺は、腕があった場所を見つめた。


うそだろ。


本当に、あいつにダメージを与えた。


俺が、本当に――


俺は顔面から地面に倒れ込んだ。


「……うん、もう無理」


今の攻撃で、魔力《マナ》を全部使い切った。


ああ、気持ち悪い……。


男はゆっくりと肩を下ろした。


悲鳴はなかった。苦痛にうめく声もない。


ただ、自分の腕が消えた場所を見つめ、それから兜を俺へと向けた。


……。


やばい。


背後では、まだ戦いが続いていた。


オルシクが雄叫びを上げ、大剣と斧をぶつけ合っている。アイコは二本の刃を紙一重でかわしながら、何やら意味不明な叫び声を上げていた。アエラルの魔法が、淡い青色の光となって広場を照らす。


そして、ルイスは――


ルイスは、立ち上がることさえままならなかった。


もう勘弁してくれよ!!


「そこまでだ」


男の声が広場に響き渡った。


なぜか、その声は全員の耳に届いた。


四人のローブ姿の人物は、ほとんど同時に戦闘を中断した。


アイコの相手は跳び退き、数歩離れた場所に着地した。オルシクと戦っていた人物は大剣を引き、アエラルと対峙していた女も剣を下ろす。


ルイスさえ、動きを止めた。


彼は荒い息を吐きながら、片手で胸を押さえていた。


「……何だ?」


俺はつぶやいた。


黒い鎧の男は、俺の横を通り過ぎた。


何をするつもりなのか分からず、俺は目でその背中を追った。


男は少し離れた場所で立ち止まり、ルイスへと視線を向けた。


「警告したはずだ」


ルイスはゆっくりと体を起こした。


「誰がお前にあいつを好きにさせるかよ」


男は兜を傾けた。


「まだ分かっていないようだな」


残った手を掲げる。


再び黒い球体が形成され始め、その隙間を真紅のエネルギーが走った。


ルイスは武器を握り直した。


オルシクが一歩前へ出て、ルイスの隣に並ぶ。


アエラルもふらつきながら立ち上がり、彼女を襲った女へ向けて片手を構えた。


アイコは剣を掲げたまま、俺の近くへと移動してくる。


一瞬、全員が俺の前に立ちはだかった。


俺はアイコを見た。


彼女は顎を引き締め、剣を強く握りしめていた。


次にアエラルを見る。呼吸が乱れている。


オルシクは腕に疲労をにじませながらも、斧を構えて立っていた。


そして最後に、ルイスを見る。


彼は傷つき、疲れ果て、立っているのもやっとの状態だった。


それでも、男と俺たちの間に立ち続けていた。


……どうして?


どうして、まだ戦おうとするんだ?


どうして、誰も逃げないんだ?


俺には、その答えが分かっていた。


俺たちはもう、異世界でたまたま出会っただけの他人じゃない。


俺たちはパーティーだ。


家族なんだ。


誰一人として、仲間を見捨てるつもりなんてなかった。


……くそったれ。


残ったわずかな魔力を使い、俺は土属性魔法を発動させた。


上半身の下の地面がせり上がり、俺の体を持ち上げる。下半身はもう言うことを聞かなかったが、どうにか前を向ける程度には体勢を整えられた。


男が兜をこちらへ向ける。


しばらく、何も言わなかった。


やがて、わずかに首を傾げた。


「なるほど」


黒い球体の隙間で、真紅のエネルギーが再び弾け始める。


「私の魔法能力は……」


男が静かに口を開いた。


「……私が脅威と見なしたものなら、生物であろうと、現象であろうと、すべて抹消できる。」


その言葉の意味を理解する暇すらなかった。


ルイスが俺の前へと飛び出した。


そして――


ルイスの体に、四つの穴が開いた。


気づいたときには、もうそこにあった。


閃光もない。


目に見える衝撃もない。


音すらしなかった。


ほんの一瞬前まで、ルイスは俺の前に立っていた。


次の瞬間には、体にいくつもの穴が穿たれていた。


……。


……は?


俺はゆっくりと首を動かした。


アエラル。


オルシク。


二人にも、同じことが起きていた。


彼らは一瞬だけ立ち尽くし、それから糸が切れたように崩れ落ちた。


……嘘だ。


俺はアイコの方を見た。


彼女の胸にも、穴が一つ開いていた。


あまりにも巨大な穴だった。胴体のほとんどを貫き、体を大きくえぐり取っていた。


彼女の手から剣が滑り落ちる。


そして、そのまま倒れた。


……。


……嘘だ。


嘘だ、嘘だ、嘘だ……。


動けなかった。


目の前で起きていることが、理解できなかった。


ルイスが倒れている。


アエラルが倒れている。


オルシクが倒れている。


そして、アイコは――


……。


一体、何が起きたんだ?


男が攻撃するところなんて見ていない。


何も見えなかった。


みんな、ただ立っていただけなのに。


それなのに、次の瞬間には――


もう、立っていなかった。


男が俺へと歩み寄ってくる。


「お前たちが降伏していれば、こんなことにはならなかったのだがな、少年」


男は俺の首をつかみ、そのまま地面から持ち上げた。


息ができない。


残った手が、俺の胸に押し当てられる。


「残念だ。ルイスは気に入っていた。将来が楽しみな男だったのだが」


……。


次の瞬間、俺の胸にも穴が開いた。


痛みは、少し遅れてやってきた。


体から力が抜ける。


男は俺を放し、俺は石畳へと崩れ落ちた。


―――――※―――――


全員が地面に倒れていた。


それなのに、なぜか俺はまだ生きていた。


どうしてなのか分からない。自分でも理解できなかった。


ただ、体がどんどん冷たくなっていくことと、意識が遠のいていくことだけは分かった。


……マジで、また死ぬのかよ。


男とその仲間たちは、歩き去り始めた。


足音が遠ざかっていく。


やがて、男が立ち止まった。


「……そうか」


最も小柄な人物が男に近づき、耳元で何かをささやいた。


男はしばらく黙っていた。


そして、どこか面白がるように、小さく笑った。


「興味深い……」


男は動かないアイコへと視線を戻した。


ゆっくりと、その傍らにしゃがみ込む。


「体内に魔力《マナ》の痕跡が一切ない。それなのに……」


男は兜を傾け、まるで奇妙な標本でも観察するかのように、アイコを見つめた。


「生きていた。動いていた。戦っていた」


短い沈黙。


「この世界のあらゆる法則に照らせば、あり得ないことだ」


男は手袋に包まれた片手を掲げた。


「死者蘇生の暗黒神護《ダーク・ディヴァイン・プロテクション・オブ・リザレクション》」


手のひらに黒い円が現れた。その表面は、墨を垂らした水面のように、どろりとうねっている。


男はそれをアイコの胸の上へとかざした。


薄れゆく視界の中で、俺は傷口が塞がっていくのを見た。


肉がつながり、損傷が少しずつ消えていく。まるで、最初から何もなかったかのように。


それでも、アイコは動かなかった。


……何だよ、それ。


男は立ち上がり、今度は俺へと顔を向けた。


「そして、お前だ」


重い足音を響かせながら、男が近づいてくる。


「魔法陣を介さずに魔法を発動させる。魔力《マナ》を直接操り……生み出す現象そのものへと圧縮する」


男は俺の前で立ち止まった。


しばらく、ただ俺を見つめていた。


そして、表情の見えない兜の奥から、かすかな愉悦を含んだ声が聞こえてきた。


「実に興味深い」


男はわずかに頭を傾け、アイコへと視線を向けた。


「二つのあり得ない存在が、並んでいるとはな」


そして、再び俺を見る。


「教えてくれ、少年……」


声が静かなささやきへと変わった。


「お前たちは、一体何者なのだ?」


……。


二人、だって?


何を言っているのか聞き返したかった。


男の正体も知りたかった。仲間たちに何をしたのか、なぜ俺たち自身も理解していないことを知っているのか――何もかも、聞きたいことだらけだった。


けれど、体は動かない。


声も出ない。


目を開けていることすら、もうできなかった。


男の声が遠ざかっていく。


広場の景色がぼやけていく。


そして――


すべてが、闇に沈んだ。

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