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Fable ― 異世界に転生した俺の物語 ―  作者: ソガシリュー11
第一章:死から始まる物語
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第1章(第1話)『異世界転生』

「……俺、動いてる……?」


目が痛い。視界もぼやけている。


俺はゆっくりと顔を上げ、木製の天井を見上げた。


くそ……目が痛え……。


徐々に視界がはっきりしてくると、目の前の木製ベンチに、一人の少女が横たわっているのが見えた。彼女は俺に背を向けたまま眠っている。


……誰だ、あの女?


車輪が道を転がる音と、馬の蹄が地面を叩く規則的な音が聞こえてくる。


外からは人々の話し声も聞こえるが、何を言っているのかさっぱりわからない。


……待てよ。


俺、馬車の中にいるのか?


一体どうなってんだ……?


とりあえず、状況を整理する前に、自分の身体を確認することにした。


手。胸。脚。


血はない。


痛みもない。


……俺、生きてんのか?


いや、そんなわけがない。


俺は確かに死んだはずだ。


愛子と一緒にトラックに轢かれた。あれは間違いない。


俺たちは死んだはずなんだ。


絶対に。


俺は改めて馬車の中を見回した。


壁際には木箱がいくつも積まれており、それぞれに何やら文字が書かれている。


……読める。


読めるんだが、日本語じゃない。


……は?


馬車の窓から外を覗こうと身を乗り出した、その瞬間。


黄金色の光が視界を横切り、目がくらむほどの眩しさに襲われた。


「うおっ!?」


慌てて頭を引っ込め、両手で目を覆う。


しばらくして視界が落ち着くと、俺は恐る恐るもう一度外を覗いた。


そして、その瞬間。


目の前に広がる景色の壮大さに、思わず息を呑んだ。


馬車は、眩い日差しに照らされた巨大な広場へと入っていくところだった。


なんて言えばいいんだろうか……。


まるで、金持ちが支配するファンタジー世界みたいだ。


広場の中央には、何段にも重なった巨大な石造りの噴水がそびえ立っていた。上段から勢いよく湧き出した澄んだ水が、幾重もの段差を流れ落ち、下にある広々とした水盤へと注ぎ込んでいる。


建物の造りも、俺が想像していた以上に洗練されていた。


広場の両側には、白い漆喰の壁と鮮やかなオレンジ色の瓦屋根が特徴的な、三階建てのタウンハウスが整然と並んでいる。


まるで高級ヨーロッパ旅行のパンフレットから、そのまま切り取ってきたような街並みだった。


街の緑まで、きちんと手入れされている。


石畳の道沿いには木々が植えられ、枝も丁寧に剪定されていた。明るい朝日を浴びた木々が、地面にくっきりとした影を落としている。


だが、俺の目を本当に引いたのは、もっと遠くにあるものだった。


街の住宅区を覆うように、赤茶色の巨大な石造りのアーチがそびえ立っていたのだ。


……なんだ、あれ?


巨大な水道橋か? それとも、防衛用の高架橋か何かか?


どちらにしても、街の空を横切るほどの大きさだ。


さらに、その壮大なアーチの向こう側には、街の高台を見下ろすように、巨大なコロッセオを思わせる建造物がそびえていた。


真っ白なドームが、朝日の下で目がくらむほどに輝いている。


……いや、デカすぎだろ。


広場には、あまりにも多種多様な人々が行き交っていて、見ているだけで頭がクラクラしてきた。


ここは、人間だけが暮らす街じゃない。


市場を歩く獣人たちは、商人たちの威勢のいい呼び込みに反応するように、耳をピクピクと動かしていた。


姿勢が異様なほど優雅で、長く尖った耳を持つ男女。あれは間違いなくエルフだろう。彼らは商人と布地の値段について交渉している。


その近くでは、がっしりとした体格のドワーフたちが鉄製品の品質について大声で言い争っていた。身振り手振りに合わせて、見事に編み込まれた髭が揺れている。


その低い声は、広場の喧騒の中でも不思議なくらいはっきりと聞こえてきた。


そして、武器を並べた露店のそばに立っていたのは……。


オークの冒険者だった。


いや、マジで。


どうやったら目を逸らせっていうんだよ!?


大抵の物語じゃ、オークってのは知性のない化け物として描かれている。


なのに、目の前のオークは銅貨を一枚ずつ落ち着いて数えていた。まるで、ギルドから依頼を受けるのを待っている、ごく普通のフリーランスみたいに。


……なんなんだよ、この世界。


そんな光景を眺めていると、地元の騎士たちが一団となって広場を行進してきた。


全身を覆う重厚な銀色のプレートアーマー。歩くたびに、金属がぶつかり合う威圧的で規則正しい音が響いている。


鎧は鏡のように磨き上げられており、朝日を反射してキラキラと輝いていた。


先頭を歩く男は、明らかに彼らの指揮官だろう。


真っ白なマントが、歩みに合わせてゆったりと揺れている。


騎士たちが通り過ぎると、一般市民も獣人たちも、誰一人として口を挟まずに道を空けていた。


誰かが命令する必要すらない。


この国で誰が本当の権力を握っているのか、見ているだけで嫌でも理解できた。


……なるほどな。


俺が死んで、幻覚でも見ているのか……。


それとも……。


……異世界に来ちまったってことか?


俺は目の前で眠っている少女へと視線を戻した。


彼女はまだ眠っていて、ベンチの上で少し身じろぎしている。


……悪夢でも見てんのか?


起こそうと近づいた、そのとき。


彼女の髪に見覚えがあることに気づいた。


色。


長さ。


……いや、まさか。


俺は彼女の身体をそっと動かし、顔がこちらを向くようにした。


愛子ォォォ!?


やがて馬車が止まった。


俺は愛子を抱えて外へ出ると、石畳の上にそっと寝かせた。


はああ……。


……お前もいるのかよ。


正直、こんなことになるとは思っていなかった。


普通、異世界転生って一人でするもんじゃないのか?


俺が特別な存在だと思ってたんだが……。


いや、知り合いが一人でもいるのは、別に悪いことじゃない。見知らぬ世界で目を覚ましたうえに、何もかも一人で解決しなきゃならないなんて、考えただけでも最悪だ。


そこは文句を言うつもりはない。


……ないんだが。


愛子?


マジで?


数ある人間の中から、どうしてよりにもよってこいつなんだよ。


ちょっと目が合っただけで喧嘩を始めそうな、口の悪いトラブルメーカー。


……まあ、退屈だけはしなさそうだけどな。


愛子はすやすやと寝息を立て、時折小さく唸りながら、ゆっくりと目を開けた。


半分寝ぼけたような目で周囲を見回し、俺の顔に目を向ける。


そして、何事もなかったかのように、再び目を閉じた。


……この野郎ォォォ……!


「おい」


反応なし。


俺は指先でつついた。


「愛子」


それでも反応なし。


「おーい、愛子ちゃーん。今すぐ起きないと、イタズラしちゃうぞぉぉぉ!」


彼女の目が、ほんの少しだけ開いた。


……と思ったら、すぐに閉じた。


へえ……そういう態度を取るわけか。


いいだろう。


その勝負、受けて立つ。


「わかった。そこまで言うなら――」


そう言いかけたところで、周囲の人々がこちらを見ていることに気づいた。


しかも、何やらヒソヒソと話している。


「おい、あの男……寝ている女の子に何をしてるんだ?」


「衛兵に通報したほうがいいんじゃないか?」


「変態!」


くそっ……!


他人から見れば、俺は完全に不審者だった。


最悪だ。トラックに轢かれて死んだと思ったら、異世界で目を覚まして、まともに立ち上がる前から犯罪者扱いかよ……!


そのとき、愛子が小さく鼻を鳴らした。


次の瞬間。


「っぷ……あはっ……!」


腹を抱えて笑い出した。


「アッハハハハ! アンタ、完全に変態扱いされてんじゃん! このオタクニート!」


ぐぬぬ……! この役立たずのボンクラ女め……!


「この野郎ォォォ! 起きてたのかよ!?」


愛子はさらに大きな声で笑い続けた。


信じらんねえ……。馬車に置き去りにしてくればよかった。


……いや、待て。


どうせ後になって目を覚まして、「なんであたしを置いていったのよ!」とか文句を言うに決まっている。


まったく、面倒くさい女だ。


ようやく笑いが収まってきた愛子は、周囲を見回し始めた。


すると、隣でガタガタと震え出した。


「ひゃああああ……じゅ、潤也! ここ、どこなのよ!?」


愛子は俺の袖をつかみ、巨大な石造りの建物や、見慣れない姿の人々を忙しなく見回した。


「な、なんなのよ、あれ!?」


彼女の視線を追う。


そこには、トカゲの頭をした男が、野菜の入った籠を抱えて通りを歩いていた。


ああ、俺も最初は同じ反応だったよ。


「落ち着けよ、このビンボー女」


「び、ビンボー……?」


「それはさておき――」


次の瞬間、愛子は俺のトラックスーツの胸元をつかみ、顔がぶつかりそうなほど強引に引き寄せてきた。


「二度と! 二度と! 二度と! あたしのことをビンボー女って呼ぶなああああ!!」


「ぐえっ!? お、おい! 離せって!」


くそっ、なんつー握力だよ!?


こいつ、実はゴリラなんじゃねえのか!?


「わかった!?」


「わ、わかった! よーくわかったから!」


ようやく愛子は俺を解放した。


俺はよろめきながら一歩下がり、襟元をさすった。


……マジかよ。自分がどれだけ力持ちなのか、こいつは理解してんのか?


……ったく、マジで腹の立つ女だ。


「おい、いい加減にしろよ! 周りの人たちが見てるだろ!」


実際、周囲の人々は俺たちに注目していた。


近くの商人はリンゴを並べる手を止め、通りかかった老婆は、問題児を見るときのような目で俺たちを見ている。


……最高だな、おい。


この世界に来て、まだ五分くらいしか経っていない。


それなのに、もう騒ぎを起こしている。


この調子じゃ、自分たちがどこにいるのかもわからないうちに、街から追い出されるぞ……。


俺は愛子に目を向けた。


彼女はまだ俺を睨みつけている。今にも口喧嘩を再開しそうな勢いだ。


……しかも、まだ朝飯すら食ってねえ。


俺は深いため息をついた。


こんな女と一緒に、どうやって異世界で生き延びろってんだよ……。


※※


しばらく周辺を歩き回っていると、突然、少女の声が耳に入った。


大通りから少し外れた、細い路地の奥から聞こえてくる。


俺は足を緩め、そちらへと顔を向けた。


周囲の喧騒に邪魔されて、何を話しているのかまでは聞き取れない。


だが、少女の声から察するに、どうも様子がおかしい。


……もしかして、強盗か?


俺は路地の入口で足を止めた。


落ち着け、潤也。よく考えろ。


ただの勘違いかもしれない。誰かと言い争ってるだけかもしれないし、単に怒ってるだけかもしれない。人間なんだから、喧嘩くらいするだろ。異世界だって同じはずだ。


……でも、本当に困ってるんだとしたら?


俺は目を凝らし、細い路地の奥にいる人影を確認しようとした。


くそっ……なんでこういうことって、いつも何の準備もできてないときに起こるんだよ?


この世界に来て、まだほんのわずかな時間しか経っていない。


金もない。武器もない。この世界の仕組みもわからない。


そして何より――自分に誰かと戦えるだけの力があるのかどうかすら、わかっていない。


俺に何をしろってんだ? あそこに乗り込んで、「おい、お前ら!」って怒鳴りつけるのか?


……うん、最高の作戦だな、潤也。


トラックスーツを着た男が一人怒鳴り込んできたところで、怪しげな男三人がビビるとでも?


……いや、普通に考えて無理だろ。


このまま立ち去ったほうがいい。


誰かが助けてくれるはずだ。


……そうだろ?


俺はもう一度、少女の声に耳を傾けながら、その場に立ち尽くした。


くそっ……。


もし、このまま立ち去って、あの子に何かあったら……俺は本当に、何も聞こえなかったふりをしていられるのか?


俺は歯を食いしばった。


そもそも、あの子のことなんて何も知らない。助ける義理だってない。


……


……なのに、なんで俺はまだここに立ってんだよ?


俺は慎重に一歩、路地へと足を踏み入れた。


「……ああ、くそ。これって……?」

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