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劉邦、転生したら劉備だった件  作者: レイン
第一章 黄巾の乱

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第八話 得物を選ぶ

第八話 得物を選ぶ


 鄒靖の指揮下へ入った、その日の午後。


 劉備たちは町の鍛冶場(かじば)にいた。


 もちろん。


 勝手に来たわけではない。


「武具を整える?」


 そう聞いた鄒靖は、一度だけ劉備を睨んだ。


「逃げるためではないな」


「ワシを何だと思っとる」


「逃げるのが得意な手配人」


「否定しづらいのう」


 そんなやり取りの末。


 鄒靖の許可を得て。


 劉備たちは、義勇兵の武具の整備を始めることになった。


 張世平と蘇双から譲り受けた鉄。


 支援された金で買い足した材料。


 使える柄や金具。


 そして。


 昨日、劉備の旗の下へ加わった鍛冶屋の若者。


 若者一人では手が足りないため、町の職人たちにも手を借りることになった。


「で」


 鍛冶屋の若者が腕を組む。


「何を作るんだ?」


「武器じゃ」


「それは分かってる」


「なら話は早い」


「種類を聞いてんだよ」


 劉備が関羽を見る。


「雲長」


「何だ」


「何が欲しい」


「急に聞かれても困る」


「今の刀で不満は?」


 関羽は腰の刀へ目を落とした。


「使えぬわけではない」


「なら十分では?」


「いや」


 関羽が首を振る。


「馬上でも地上でも、もう少し間合いが欲しい」


 鍛冶屋が関羽を見る。


「槍か?」


「突くだけではない」


 関羽は近くにあった木の棒を借りた。


 両手で握る。


 一歩踏み込み。


 横へ払う。


 続けて。


 斜めに振り下ろす。


「この動きで斬りたい」


 鍛冶屋が少し考える。


「槍より刃を大きくするか」


「重くならん?」


 劉備が聞く。


「なる」


「雲長なら?」


「使える」


 関羽が答えた。


 迷いはない。


 鍛冶屋が地面に線を引く。


 長い柄。


 その先に。


 幅のある刃。


「こういう形なら、突くより斬る方に向く」


 関羽がしゃがみ込む。


「もう少し刃を反らせたい」


「こうか?」


「うむ」


 鍛冶屋は何度か線を引き直した。


「この形ならどうだ」


 関羽はしばらく眺める。


「よい」


     ◇


「次は俺だな」


 張飛が前へ出る。


「お前は何が欲しい」


 鍛冶屋が聞く。


「長い奴」


「どれくらいだ?」


「俺が扱えるだけ長く」


「雲長と同じか?」


「いや」


 張飛は関羽を見る。


「俺は斬るより、突く方が多い」


「なら槍だな」


「ただ」


 張飛は棒を手に取る。


 勢いよく前へ突く。


 そのまま。


 横へ大きく払った。


「突いた後、そのまま振り回せる方がいい」


 鍛冶屋が眉を寄せる。


「普通の穂先でもできるぞ」


「できるけど」


 張飛は棒の先を見る。


「もっと引っ掛けやすい形がいい」


「引っ掛ける?」


「相手の武器とか、盾とか」


 鍛冶屋は地面に新しい線を描いた。


 細長い柄。


 その先。


 穂先をわずかに波打たせる。


 さらに。


 根元にも小さな張り出しを加える。


「こうすれば突きを邪魔せず、相手の武器を捉えることもできる」


 張飛の目が輝いた。


「いいな!」


「癖は強くなるぞ」


「俺が使うんだろ?」


「そうだったな」


 劉備が地面の絵を見る。


「蛇みたいじゃのう」


 張飛も覗き込む。


「確かにな」


     ◇


「で」


 関羽が劉備を見る。


「兄者はどうする」


「ワシ?」


「私たちだけではあるまい」


 張飛も頷く。


「そういやアニキも武器いるだろ」


「ワシは今ので」


「駄目だ」


 関羽が即答した。


「なんでじゃ」


「兄者も前へ出る」


「出るが」


「なら整えろ」


「じゃが、鉄がもったいない」


「兄者」


 関羽が低い声で呼ぶ。


「……分かった分かった」


 劉備は両手を上げた。


 鍛冶屋が聞く。


「何を使う?」


「剣じゃな」


「どんな剣だ?」


「そう言われてものう」


 劉備は鍛冶場を見回した。


 壁には。


 作りかけの刀剣。


 修理を待つ武器。


 見本として置かれた剣が並んでいる。


 その中で。


 劉備の目が止まった。


「…………」


 一振りの剣。


 細身ではあるが。


 華奢(きゃしゃ)ではない。


 長い刀身。


 飾りは少なく。


 実戦で振るうための形をしている。


 劉備は近づいた。


「これ」


「ん?」


「持ってもよいか」


「見本だから、傷つけるなよ」


「傷つけんよ」


 柄を握る。


 持ち上げる。


 一度。


 軽く振った。


 空気を切る。


 もう一度。


 今度は踏み込みながら。


 振る。


 劉備の手が止まった。


「……これがよい」


 張飛が首を傾げる。


「早くねぇか?」


「よいものは見れば分かる」


「さっきまで何作るか決めてなかっただろ」


「今決めた」


 関羽は劉備を見る。


「随分と馴染んでいるな」


「そうか?」


「初めて持ったようには見えぬ」


 劉備は剣を見る。


 少しだけ。


 目を細めた。


「昔」


「昔?」


「よく似た剣を使っとった」


 張飛が聞く。


「いつだ?」


「天下を取った頃じゃな」


 張飛は黙った。


 関羽も。


 鍛冶屋だけが劉備を見る。


「天下?」


「気にするな」


「いや、気になるだろ」


 劉備は剣を返す。


「これと似た形で頼む」


「形はそのままでいいのか?」


「いや」


 劉備は少し考える。


「もう少し長く」


「重くなるぞ」


「構わん」


「飾りは?」


「いらん」


 即答だった。


「斬れて、折れず、手に馴染めばそれでよい」


 鍛冶屋が頷く。


「分かった」


 地面へ形を描き始める。


 劉備はそれを見下ろす。


 どこか。


 懐かしい。


 だが。


 同じものではない。


 今の自分が。


 この時代で振るうための剣だ。


     ◇


 それから数日。


 三人は武器ができるのを待っていたわけではない。


 関羽と張飛は。


 集まった者たちへ戦い方を教えた。


 武器を握った経験のある者と。


 初めて握る者を分ける。


 無理に全員を同じように戦わせることはしない。


 劉備も。


 それぞれの得意不得意を見ながら。


 役目を決めていった。


 戦う者だけで。


 一つの隊が動くわけではない。


 その間にも。


 鍛冶場では槌の音が響き続けていた。


 一から全てを作ったわけではない。


 使える柄や金具は、そのまま使う。


 必要な刃は新たに鍛える。


 張世平と蘇双から譲られた鉄も使い。


 三人に合わせて。


 少しずつ形にしていく。


 関羽の得物(えもの)は。


 刃の反りを何度か変え。


 柄の長さを調整する。


 張飛の槍も。


 穂先(ほさき)の曲がりや張り出しを何度か直した。


 引っ掛かりすぎれば。


 今度は抜けない。


 突きを邪魔しない程度に。


 形を整えていく。


 劉備の剣も。


 長さと重さを確かめながら。


 何度か調整された。


 赤く熱した鉄へ。


 何度も。


 何度も。


 槌が振り下ろされる。


 刃を伸ばし。


 形を整え。


 削り。


 研ぐ。


 義勇兵たちが使う武器の修繕も同時に進められた。


 そして。


 数日後。


 三人は再び鍛冶場へ呼ばれた。


     ◇


「できたぞ」


 職人たちに連れられ。


 三人は鍛冶場の前にある空き地へ出た。


 最初に運ばれてきたのは。


 長い柄。


 大きく反った刃。


 重厚な長柄武器だった。


 関羽が前へ出る。


 柄を握る。


 持ち上げる。


 そして。


 一振り。


 風を切る音が鳴った。


 周囲にいた者たちが思わず身を引く。


「どうだ」


 鍛冶屋が聞く。


「よい」


 関羽はもう一度振った。


「重さも合う」


「本気か?」


「うむ」


 張飛が長柄武器を見る。


「俺でも重いと思うぞ」


「鍛えよ」


「簡単に言うな」


 関羽はしばらく得物を眺めた。


「名は?」


 劉備が聞く。


「青龍(せいりゅう)偃月刀(えんげつとう)」


 劉備が目を瞬く。


「青龍?」


「妙か」


「いや」


 劉備は武器を見る。


「似合っとる」


 関羽は答えず。


 青龍偃月刀を握り直した。


     ◇


「次は俺だ!」


 二つ目の得物が運ばれてくる。


 長い柄。


 その先に。


 蛇が身をくねらせたような穂先。


「おお……!」


 張飛はすぐに手に取った。


 まず突く。


 次に払う。


 最後に。


 穂先の張り出しを木盾の縁へ掛け。


 軽く引く。


 盾が傾いた。


「これだ」


 張飛が笑う。


「欲しかったのはこれだ」


「無茶に振り回すなよ」


 鍛冶屋が言う。


「せっかく作ったんだからな」


「壊さねぇよ」


 張飛は穂先から柄の端まで眺める。


「ずいぶん長くしたな」


「お前が扱えるだけ長くと言ったんだろ」


「そうだったな」


 張飛は。


 蛇のような穂先を見る。


 少しだけ考え。


 長柄を肩へ担いだ。


「丈八蛇矛(じょうはちだぼう)」


 劉備が眉を上げる。


「それが名か?」


「ああ」


 張飛は笑う。


「こいつには、それが似合う」


     ◇


「最後は兄者だ」


 関羽が言った。


「そうじゃった」


 三人目の得物が運ばれてくる。


 一振りの剣。


 長い刀身。


 余計な飾りはない。


 ただ。


 握り。


 振り。


 斬るために作られた剣。


 劉備は何も言わず。


 柄を握った。


 持ち上げる。


 一振り。


 次に。


 踏み込みながら振り抜く。


 止める。


「どうだ?」


 鍛冶屋が聞いた。


 劉備は刀身を見る。


 懐かしい。


 だが。


 同じではない。


 前の生で振るった剣ではない。


 それでも。


 手にした瞬間。


 これだと思った。


「よい」


 劉備が笑う。


「実によい」


 張飛が横から見る。


「そんなに気に入ったのか?」


「うむ」


「名前は?」


 劉備は少し考える。


「まだいらん」


「付けねぇの?」


「名がなくとも斬れるじゃろ」


 張飛が一瞬黙る。


「俺たちの得物には名前があるだろ?」


「それとこれは別じゃ」


「適当だなぁ」


 劉備は笑う。


 関羽は。


 その剣を握る劉備を見ていた。


「兄者」


「なんじゃ」


「似合っている」


 劉備が少し目を丸くする。


「おお」


「何だ」


「雲長に褒められた」


「……言わなければよかった」


「もう遅い!」


 劉備は笑いながら。


 剣を腰へ収めた。


 関羽の手には。


 青龍偃月刀。


 張飛の手には。


 丈八蛇矛。


 そして。


 劉備の腰には。


 名もない一振りの剣。


 かつて天下を取った男が。


 再び選んだ剣だった。


 三人それぞれの得物が。


 ようやく揃った。


     ◇


 その翌朝。


 まだ空が明るくなりきる前。


 鐘が鳴った。


 一度。


 二度。


 三度。


 兵たちの声が飛び交う。


「集合!」


 義勇兵たちも起き上がる。


 劉備は外へ出た。


 すでに。


 鄒靖が兵を集めている。


「黄巾の一隊がこちらへ向かっている」


 劉備たちも列へ加わる。


「数は」


 誰かが聞いた。


「数百」


 ざわめきが起こった。


 義勇兵たちの顔に。


 緊張が走る。


 劉備はそれを見る。


「怖いか?」


 誰かが頷く。


「そりゃ怖ぇよ」


「ワシもじゃ」


 男が劉備を見る。


「怖いのか?」


「当たり前じゃろ」


 劉備は平然と答えた。


「死にたくないからのう」


 少しだけ。


 張りつめていた空気が緩んだ。


 劉備は腰の剣へ手を置く。


 関羽が青龍偃月刀を構える。


 張飛も丈八蛇矛を肩から下ろした。


 劉備は二人を見る。


「行くぞ」


「うむ」


「おう」


 黄巾討伐。


 義勇兵としての。


 三人の最初の戦が。


 始まろうとしていた。


「ここまでお読みいただきありがとうございます!

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